Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2023.09.09

ファッションの源流を紐解く、あのカルチャーの発火点。
#2 サーフトランクスを巡る、2人の日本人の物語(前編)

毎回ひとつの服を取り上げて、古今東西の社会やカルチャーとどんな風に関わってきたのか、詳しく紐解いていくのが当コラム。今回は、サーフィンに欠かせない“サーフトランクス”について!

 

 
デューク・カハナモク
デューク・カハナモク

レジェンドサーファーの競泳水着
“近代サーフィンの父”とされるハワイ人、デューク・カハナモク。サーファーであれば、誰もが知っている名前だろう。彼の1910年頃の写真を見ると、競泳用と思われるピッチリしたビキニパンツ&ランニング姿でボードの前に立っている。確かに動きやすさでいえば文句ナシだが、いささかストイック過ぎる気もする。当時のハワイの人々が、こんな格好でサーフィンをしていたとはちょっと思えない。カハナモクは競泳選手でもあったから、その影響もあるのだろうか。
 

 
また別の写真のカハナモクは、普通のズボンをカットしたような格好で波に乗っている。上半身は裸なので、仲間たちとリラックスして波乗りを楽しんでいる場面だろうか。こちらの格好の方が、ずっとそれっぽい。いずれにしろ、1世紀も前の話なので真相は不明。では、これがいつからサーフィン専用のトランクスに移り変わったのか、歴史を振り返りながら追っていきたいと思う。

サーフィンの普及とハワイ移民たち
サーフィンを発明したのは古代ポリネシアの人々とされている。かのキャプテン・クックがタヒチやハワイを訪れたのが18世紀のことで、その1300年ほど前から存在していたという。やがてポリネシアの島々に宣教師がやってくるようになると、布教の妨げになるという理由でサーフィンを禁止した。島の人々の信仰や儀式と深く結びついていたからだ。つまり波乗りの歴史と伝統は、ここで断絶しているのである。

それが復活するのは、20世紀初頭になってからのこと。1893年にハワイ王国が消滅し、1898年にはアメリカの属領となった。言葉や文化、生活習慣を奪われたネイティブ・ハワイアンたちにとって、サーフィンを復活させることには象徴的な意味があった。自分たちのルーツや伝統を取り戻すものとして、サーフィン復興のムーブメントに火がついたのだ。

教会もこの動きを無視できず、再び禁止しようとするのだが、なぜかワイキキのビーチだけは黙認される状況が続いた。ガス抜き的な効果を狙ったのか、はたまた急増した移住者や観光客の安全を守る“海のエキスパート”としてサーファーたちを利用したのか。当時はちょうど近代的なライフ・セービングの概念が根付きはじめた時期でもあった。
 

 
ウォーターマン
デューク・カハナモクの生涯を描いたドキュメンタリー映画『ウォーターマン』(2021年)。ハワイ生まれの俳優ジェイソン・モモアがナレーションを務めている

サーフィン復興において大きな役割を担ったのが、先ほど出てきたデューク・カハナモクだ。1912年のストックホルム・オリンピックに水泳アメリカ代表として出場し、100m自由形で17年間も破られなかったとんでもない世界記録を樹立。一躍スターとなった彼は、各地の水泳大会に招待されるようになる。その際、エキジビションとして披露したのがサーフィンだった。つまり世界のあちこちでサーフィンの面白さを広めまくったのだ。推測ではあるが、先に触れた競泳水着のカハナモクの写真は、こうした大会の記念撮影か何かだったのではないだろうか。
 

 
‘50年代のサーフィンブームとミスター・ニイ
カハナモクらの普及活動もあって、1950年代にはハワイ発のサーフィンブームが巻き起こる。がっしりとした木製だったロングボードも、より軽いバルサ材を使ったものになり、’50年代後半には現在も主流のウレタンフォーム製へと移り変わっていく。当然ながらサーフィンのスタイルやテクニックも格段に進化し、より激しくアグレッシブなものになっていった。そして’60年代以降のショートボード時代を迎えるわけである。
 

 
ハワイのビッグウェーブ
ハワイのビッグウェーブ(2004年当時)

そんな転換期にあった’50年代に、サーファーたちがより動きやすいウェアを求めるのは自然な流れだろう。ビッグウェーブを求めて世界中のサーファーがハワイにやってくる。彼らに必要なのは、大波に揉まれても脱げたり破れたりしないウェアだ。そこで活躍したのが、腕利きの仕立て職人の店“テイラー・ニイ”だった。1950年前後に、ニイ・ミノルという日系人が創業。仕立てのいいサマースーツなどで人気を博し、その評判はアメリカ本土にも届いていたそうだ。あのJ・F・ケネディも顧客だったというが、本当かどうかはちょっとわからない。

この店があったのはオアフ島のマカハという街。島の西側に位置し、ホノルルからはクルマで約1時間の距離だ。ローカル色の強いサーフスポットで、オアフ島随一のサンセットの名所としても知られている。映画『ビッグ・ウェンズデー』(1978年)の舞台として有名なノースショア(映画の設定はLAだけど、実際の大波はノースショアのもの)はまだ知られておらず、コアなサーファーたちはマカハに集まっていた。
 

 
ビッグ・ウェンズデー
『ビッグ・ウェンズデー』(1987年)監督・脚本/ジョン・ミリアス 出演/ジャン=マイケル・ヴィンセント、ウィリアム・カット

当時のサーファーはチノパンなどを自分でカットして穿いていたようだが、水を含んで重くなるし、水抜けは悪いし、脱げやすいしで、アグレッシブな波乗りにはあまり向いていなかった。そこでミスター・ニイは、伸縮性のあるコットンツイル(綾織り生地)を素材とし、カッティングや水抜けに工夫を凝らし、脱げにくいようウエストに紐を取り付け、ワックスを入れるポケットを設けたショートパンツを開発。これがサーファーたちに大ウケした。サーフィン専用トランクスのはじまりとされるストーリーだ。

ちなみにこの“テイラー・ニイ”は1968年にクローズしている。2012年に〈M.Nii(エムニーイ)〉というブランド名で復活したが、現在のオーナーはまったく関係ない会社だし、生産もLAだ(ハワイでは安定生産が難しいので仕方ない)。当時のディテールを踏まえたサーフショーツなどは作っているものの、あくまでヴィンテージの匂いがするモダンサーフウェアと考えるのがよさそう。人気のあるブランドなので、気になる方はチェックしてみてはいかがだろうか。(後編続く) 

 
 

 

 
Information

●noteでも映画情報を配信しています。フォローよろしくお願いいたします!
https://note.com/safarionline

文=野中邦彦  text : Kunihiko Nonaka
photo by AFLO
オン・オフ対応できる大人のスニーカー!品のある顔つきと独自の構造が魅力の、〈クラークス〉が誇る1足とは!
SPONSORED
2025.04.01 NEW

オン・オフ対応できる大人のスニーカー!
品のある顔つきと独自の構造が魅力の、〈クラークス〉が誇る1足とは!

この数年で、ビジネスマンの仕事姿にも変化が訪れたのはいうまでもない。スーツしか選択肢のなかった職業の人たちが、ジャケット×スラックスでも受け入れられるようになり、足元もビジネスシューズから軽快に歩けるスニーカーへ変わった人も多いだろう。着…

TAGS:   Fashion
〈アール エル エックス ゴルフ〉で“温故知新”なゴルフコーデを狙う!春夏ゴルフは“クラシック&スポーティ”に!
SPONSORED
2025.03.31

〈アール エル エックス ゴルフ〉で“温故知新”なゴルフコーデを狙う!
春夏ゴルフは“クラシック&スポーティ”に!

最近ゆるくなったとはいえ、なにかとドレスコードがついてまわるのがゴルフファッション。そんなこともあり、「コーデをどこまでハズしていいのか、分かんないんだよね……」なんてベテランゴルファーもチラホラ。だったら、〈アール エル エックス ゴル…

TAGS:   Fashion
第一印象アップのために。〈パナソニック〉の“ボディトリマー”が気になる体毛ケアの正解!
SPONSORED
2025.03.31

第一印象アップのために。
〈パナソニック〉の“ボディトリマー”が気になる体毛ケアの正解!

身だしなみが整っている男性は清潔感があり、周囲に好印象を与えるもの。とりわけ薄着になるこれからの季節は、目につきやすい腕や脚の体毛が整っているほうがクリーンで好感度も高いはず。そんな体毛ケアを肌に優しく全身で叶えてくれるのが〈パナソニック…

浅草と日光・鬼怒川温泉を結ぶ〈東武鉄道〉のスペーシア X。大人旅の新しい目的は贅沢な移動時間を過ごすこと。
SPONSORED
2025.03.31

浅草と日光・鬼怒川温泉を結ぶ〈東武鉄道〉のスペーシア X。
大人旅の新しい目的は贅沢な移動時間を過ごすこと。

旅先での過ごし方に限らず、移動時間さえもが贅沢なひとときに。浅草と日光・鬼怒川温泉を結ぶ〈東武鉄道〉の新型特急スペーシア Xに乗れば、そんな大人旅の新しい楽しみ方を発見できる。特急スペーシアが築いた伝統を継承し、より上質に進化を遂げたフラ…

別注のスペシャル感がたまらない! 〈ロンハーマン〉で手に入れる今期イチ押しの上品シャツ!
SPONSORED
2025.03.31

別注のスペシャル感がたまらない! 
〈ロンハーマン〉で手に入れる今期イチ押しの上品シャツ!

ここ数年、ますます別注人気が高くなっているのはご存知かと。なぜかって? それは、スペシャルとスペシャルが手を組めば、その相乗効果と化学反応で、新しいものを生み出せるという面白みがあるからだ。そのひとつが、まさに今回紹介するブランドではない…

TAGS:   Fashion
ディーン・フジオカが魅了された 〈ディオール〉の“ソヴァージュ”自分らしい香りとスキンケア
SPONSORED
2025.03.26

ディーン・フジオカが魅了された 〈ディオール〉の“ソヴァージュ”
自分らしい香りとスキンケア

男性を魅力的に輝かせる〈ディオール〉の“ソヴァージュ”。フレグランスは、力強くも爽快感際立つ香りで魅力を引き立て、スキンケアアイテムは生き生きとした印象の肌に導く。俳優としてもミュージシャンとしても輝き続けるディーン・フジオカが、その魅力…

ジャパンメイドにこだわった〈ガリポリ カミチェリア〉!大人好みのワザありシャツはカジュアルでクリーン!
SPONSORED
2025.03.25

ジャパンメイドにこだわった〈ガリポリ カミチェリア〉!
大人好みのワザありシャツはカジュアルでクリーン!

オンでもオフでも大人の余裕を醸したいときは、さりげなくリラックス感を演出するのがいい。その決め手となるのがシャツ。カジュアル素材でクリーンに見える1枚なんて、まさに理想的。ならば、〈ガリポリ カミチェリア〉のワザありシャツを選べば間違いな…

TAGS:   Fashion
新生活に合わせて身のまわりをアップデイト!毎日を特別にするとっておきアイテム!
SPONSORED
2025.03.25

新生活に合わせて身のまわりをアップデイト!
毎日を特別にするとっておきアイテム!

4月からは新しい生活がスタートする。自分を取り巻く環境がガラリと変わる人もいるだろう。たとえ環境が変わらなくても、きっと新しい出会いがあるはず。だからこそ、このタイミングで身のまわりをアップデイトしておきたい。毎日のモチベーションがぐっと…

TAGS:   Fashion Watches
シンプルで贅沢。〈ファルコネーリ〉ふたつのアイテム。最高級のカシミヤでワンランク上の休日を。
SPONSORED
2025.03.17

シンプルで贅沢。〈ファルコネーリ〉ふたつのアイテム。
最高級のカシミヤでワンランク上の休日を。

イタリアの伝統的で高品質なカシミヤを筆頭に、天然素材に特化したニットを得意とする〈ファルコネーリ〉。上質な素材、卓越した職人技術のこだわりや、タイムレスなデザインと豊富なカラーバリエーションが魅力。今回はブランドを代表する“ウルトラファイ…

TAGS:   Urban Safari Fashion
デキる男は肌から整える!〈ディオール〉の人気メンズ フレグランスからスキンケアが登場!
SPONSORED
2025.03.13

デキる男は肌から整える!
〈ディオール〉の人気メンズ フレグランスからスキンケアが登場!

デキる男は、仕事でも行動的で冴えわたる頭脳を披露する。もちろんそういった実践力を見せるのも大切だが、ビジネスにも大切とされるエチケットはどうだろう。ビジュアルや香りから、会ったときに清潔感やパワーを感じると人は好感を持ち、話もスムースだ。…

TAGS:   Health&Beauty
大正製薬の毛髪科学研究を宇垣美里さんがレポート!男性を輝かせる“健やかな髪”の秘密を探る!
SPONSORED
2025.03.03

大正製薬の毛髪科学研究を宇垣美里さんがレポート!
男性を輝かせる“健やかな髪”の秘密を探る!

年を重ねても健康的で魅力的な男であり続けるためには、髪や頭皮も健やかであることが大切。とりわけ30代、40代は、男性が髪のトラブルについて気になりはじめる年頃だけに、日常的なケアが身だしなみの面からいってもマスト。では、そのためにはどんな…

TAGS:   Health&Beauty

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ