【髙橋光成】達成できなかった偉業がエースへの道しるべに! 幻となった“ノーノー”が若獅子をレベルアップ!
今年、初の開幕マウンドに立ち、開幕から勝ち星を重ね、埼玉西武ライオンズの先発ローテーションの軸を担う髙橋光成。獅子のエースにふさわしいその快投は、初完封した昨年の一戦で得た自信が支えている。
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- アスリートの分岐点! vol.11
KONA TAKAHASHI
TURNING POINT2020年9月8日
パシフィック・リーグ
VS オリックス・バファローズ戦
初の開幕投手に抜擢された今シーズンは、そこで勝利投手となった勢いそのままに無傷の5連勝。埼玉西武ライオンズの若きエースにふさわしい力投をみせている髙橋光成。ドラフト1位入団から7年めを迎え、チームの浮上に欠かせない投手の1人といわれるようになった。
その髙橋が、自らの分岐点として語ったのは、昨年9月8日の対オリックス・バファローズ。この試合は、髙橋が9回無死までノーヒットピッチングで相手打線を圧倒し、完封勝利を成し遂げた一戦。髙橋は、8回まで四球での走者を1人出しただけという好投を繰り広げ、ノーヒットノーラン達成目前の状態で9回のマウンドに立つことに。しかし、先頭打者となった代打の西野真弘に中前打を浴びてしまい、快挙は成し遂げられなかった。
「ノーヒットノーランは達成できませんでしたが、自分としては納得できる投球内容でした。状態がいいときは、キャッチャーの構えたところにズバッと投げられる。あの試合では、まさにキャッチャーの要求どおり投げられました。自信というのは成功体験の積み重ねによって生まれるものですが、この一戦がまさにそんな大切な試合のひとつ。ピッチャーとして、一段レベルアップできた試合でした」
この試合での髙橋のピッチングは、まさに快投そのもの。初回に福田周平を空振り三振に打ち取ると、ストレートと変化球を低めに集め、オリックス打線に凡打しか許さなかった。5回に先頭打者の吉田正尚に四球を出した後も、次の打者のアダム・ジョーンズを落ち着いて併殺打で処理し、ピンチの芽を摘んでいた。そこまで好投しながら、快挙目前でヒットを許した理由とはなんだったのだろうか。
「やっぱりノーヒットノーランのチャンスが巡ってくる確率自体が、めちゃくちゃ低いじゃないですか。それを達成できる状況が目の前まできていたわけですから、今思い返せばものすごく意識していましたし、力んでいたのかも。代打がくるという考えも全くなかったんですよね(笑)。頭の中では、次はこのバッターがきて、次のバッターでこういう展開かなと計算していましたし。だから、動揺したわけではないのですが、西野選手が出てきたときは“あっ、代打があったのか〜”って驚いちゃいましたね(笑)。それぐらいノーヒットノーランを意識していたんですね」
とはいえ、記録達成できなかったからといって、乱れることはなかったという。
「打たれた瞬間は、うわってなりましたが、相手とは2点差でしたし、このままズルズルと崩れて負けたらそれまでやってきたことが無駄になる。そう思って心を落ち着かせました」
しっかり気持ちを切り替えることができたのも、コンディションや調子のよさの表れだったのか、髙橋は後続の打者を抑え、4年ぶりの完封勝利を成し遂げた。この試合がブレイクスルーのきっかけになり、2020年シーズンの髙橋はチーム最多の8勝を挙げ、自身初となる規定投球回を達成。奪三振数も自身初の3桁(100奪三振)に到達するなどし、先発陣の軸と呼ばれる活躍を見せた。
充実した昨年を経て迎えた今シーズンも、ローテーションの一角を担い勝ち星を量産。その分重圧も大きくなるが、今はどんな気持ちでマウンドに立っているか。
「シーズン中、いいときも悪いときもありますが、長いイニングを投げられるようにしたい。そこは強く意識しています」
特にシーズンを通して戦えるピッチャーでありたいという気持ちは強いようだ。
「1シーズンで143試合を行うとして、先発するのは25試合くらい。その中で調子がいい日というのは、本当に限られています。だからこそ、いかに調子が悪いときにどう粘って抑えるのかが重要。そして、ケガをしないでローテーションを守れるようにすることも絶対ですね。これまでは、ケガなどが原因でクライマックスシリーズを投げられていません。やっぱり、ああいった緊張感のある試合を任される投手でありたいですから」
エースの自覚を感じる意識と、去年からはじめたルーティンも教えてくれた。
「先輩の平井投手に教えてもらった験担ぎみたいなものなのですが、先発で登板する前の晩にビールをひと口だけ飲むんです。自分を清めるというか(笑)、リラックスの意味合いが強いですね。前日からファイティングポーズを取っていてもいいことないですから。いつもの自分の力を出すには力みは邪魔ですし。そこもうまくコントロールして、勝ち星を積み重ねられる投球をしていきたいです」
野球選手
髙橋光成
KONA TAKAHASHI
1997年、群馬県生まれ。前橋育英高校2年で出場した夏の甲子園で、自責点2、防御率0.36という圧巻の投球で初出場初優勝。2014年ドラフト1位で埼玉西武ライオンズ入団。1年めに史上最年少で月間MVP受賞。7年めの今シーズン、初の開幕投手に抜擢。
TAMURA'S NEW WORK[松本松栄堂]天を向き咆哮するオオカミは、迫力を出すために縦長の画角に描いた。毛並みの描写が圧巻
刻まれたシワに聡明さを感じるゾウの絵
羽根を美しく広げるワシ
哺乳類最大のクジラはあえて一部分だけを描写。見る側に大きさを想像させる
「自分の可能性を広げるために」
今回紹介するのは、田村が新しい世界に一歩踏み出した作品。これまで手掛けてきたイラストレーションではなく、画廊などで発表するアート作品として手掛けたもの。迫力あるタッチで描いたアスリートではなく、より繊細な画風で絶滅危惧種の野生動物を描いたものだ。
「京都の歴史ある美術商である松本松栄堂の方が僕のインスタグラムを見てくださっていて、企画展のために作品を描いてみませんかとお声がけいただいたんです。動物ならもっとうまく描ける人がいるとは思いますが、持ち味である躍動感が生きるモチーフでもあります。自分にリミットを作りたくないので、思い切って挑戦することにしました」
従来の作品とアプローチも違うよう。
「イラストは発注者のイメージを軸に作り込みますが、アートは自分の描きたいもので見る人を引き込まなくてはならない。制約のない世界に挑戦することで、自分の可能性を広げていきたいですね」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会、ISCAカリカチュア世界大会で総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
雑誌『Safari』9月号 P166~168掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo