ストイックな職人魂でオルタナブームをリード
ハイパフォーマンスかつアートのように美しいボードを手掛けるジェフ。シェイプからグラッシングまですべてをこなし、クラフツマンシップにあふれた若手シェイパーとしてリスペクトされている。クリス・クリステンソンはじめ、名シェイパーからの技術を継承したレトロかつモダンなボードを作る彼は、オルタナティブブームの牽引者としても有名だ。
●今月のサーファー
ジェフ・マッカラム[JEFF McCALLUM]
ジェフの育ちは“海なし州”コロラド。サーフィンに魅了されたのは、大学時代にサンディエゴに移住してから。西海岸で活躍するシェイパーの中では、遅めのサーフィンデビューといえるが、ハマるのに時間はかからなかった。
「幼い頃から父の仕事の関係で毎夏ニューポートビーチに滞在していたんだ。そこでボディサーフィンを楽しんでいたから、海遊びは慣れていたし、波乗りにはとても興味があったんだよ」
サーフィンを覚えたのは、サンディエゴのクリスタルピア。当初はロングボードを使い、メローな波を楽しんでいたそう。その後、短い板に興味を持ったものの、ショートボードではなくクラシックなシングルフィンのエッグに魅力を感じた。しかし、当時は長身の彼にしっくりくるボードがなかったため、自らシェイプし自作ボードを楽しむようになる。
ある日、クリスタルピアでいつものように波乗りしているとき、1人のサーファーに出会う。クリス・クリステンソンのシェイプルームで働いていたが数日前に退職した、という彼の話を聞いたジェフは、すぐさまクリステンソンのシェイプルームを訪ね、アシスタントとして働かせてもらうことに。クリステンソンといえば、スキップ・フライやディック・ブリューワーなど歴代名シェイパーの技術を継承し、独自のアイディアを融合させたオルタナティブボードを削る巨匠の1人。通常であればそんな彼の下で働くのは、たとえアシスタントであっても至難の業。だから、シェイプルームの掃除からなにから、勤勉に働いたそう。
「彼のシェイプルームに足を踏み入れるのは大変なことなんだよ。彼にアポイントを取って面接をしてもらったんだけど、それをパスしたのは本当にラッキーだった。アシスタント初日から全力で働いたよ。どんなに大変な雑用でも、積極的に取り組むようにしたんだ」
しばらくすると、そんな働きが認められて、仕事の後に彼のシェイプルームとグラッシングルームを使わせてもらえるようになる。
「日中はクリステンソンの仕事を手伝い、夜は彼のボードのグラッシングをさせてもらえるようになった。すごく嬉しかったよ」
クリス・クリステンソンのシェイプルームでの下積み経験は、厳しかったけれど多くを学んだというジェフ。シェイパーとしてのキャリアはスムースに見えるが、技術を習得するのにもかなりの時間を要したそう。いい意味で耐えることや最後までやり遂げることを学び、精神面でもかなり鍛えられたと語る。
独立後はサンディエゴのナショナルシティにある大きな倉庫の一角にシェイプルームを設け、シェイプだけでなくグラッシングも行う。工程のほとんどを自分でコントロールすることで、より完成度の高いボードが出来上がるというのがジェフの考え。そんな信念のもと出来上がったボードはたちまち注目を浴びるようになる。さらに名だたるブランドとのコラボを経て、いっそう知名度を上げた彼は、米国内だけでなく世界中にファンを持つように。最近では特にオーストラリア、フランス、日本からのオーダーが多いという。
「海外からオーダーしてくるサーファーは、クラフツマンシップにこだわったハンドシェイプのボードを好み、シェイパーへのリスペクトも強いんだ。彼らは大切にボードを乗ってくれるし、いずれそのボードは彼らの子供に受け継がれていくんだ」
巨匠から受け継いだ昔ながらの技術と、独自の斬新なアイディアを融合させたオルタナティブな彼のボードは、機能性だけでなくアートのような美しいカラーも魅力のひとつ。彼の美的センスに惹かれ、アパレルを展開しないかというオファーも多いそうだが、彼は今ボードをビルドすることに全力を注いでいる。また、通常であればビジネスも考えなければならないが、無駄に大量なボードを生産する気は毛頭ない様子。そんな職人気質な部分も彼の魅力のひとつなのだろう。取材中、そんな彼のこだわりの強さを感じる発言も。
「シェイプルームに着くとすぐにメールをチェックしたり、オーダーシートを書いたりするけれど、意外と時間がかかってしまうんだ。本当はできるだけコンピューターの前に座る時間を減らし、多くの時間をシェイプルームで過ごしたいと思っているよ」
DIY好きのジェフはサーフボードだけでなく、4 WDのトラックもビルドする。巨大なタイヤを履かせたトラックで崖を登ったり下りたりするオフロードでのドライブを楽しむためだそうだ。タイヤを替えるだけでなく、砂利などを避けるガードを取り付けたり、オフロードで遊べるように細かいカスタムを自ら行う。砂利避けのガードは、ステンレスのパイプを購入し、自ら溶接し、マットブラックにペイントするところまでやったというから驚きだ。
「毎週金曜日はトラックをビルドする日と決めているんだ。手掛けるのはトヨタの“タコマ”のみ。耐久性は抜群、信頼性も高いし、パーツなども見つけやすい。今週末は友人とオフロードを楽しみに近くの山へ出かける予定なんだ」
別の趣味は銃だという。射撃場で撃ったり、大自然の中でアルミ缶を狙って撃ちこんでいく。集中力が養われ、ある種メディテーションのような効果が得られるそうだ。
サーフィンをはじめ、多様な趣味に没頭する彼だが、なによりも大切にしているのは彼の家族だ。精神的にもかなりジェフの支えになっているという妻は、普段別の仕事で忙しいものの、近々ジェフのボードカンパニーのマネジメントも手伝う予定。また、幼い娘は彼にとっての宝。一緒にサーフィンする時間は至福のひとときだと語る。ストイックな雰囲気が漂うシェイプルームの壁にさりげなく飾られた妻と娘の写真が、彼の家族愛をそっと物語っている。
「好きではじめたシェイプの仕事だけど、家族がいるからもっと頑張れる。今は10年後、20年後を見据えて展開を練っている最中なんだ」
ホームポイントはココ!
ブラックスビーチ[BLACK’S BEACH]
サンディエゴのラホヤビーチ近くにある美しいビーチ。10分ほどかけて崖を降りないと、ポイントにたどりつくことができない。ビーチブレイクだが周辺のポイントよりも波が高いことが多く、8フィートほどのビッグウェイブも!
雑誌『Safari』9月号P220・221掲載
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photo : Hayato Masuda text : Momo Takahash(i Volition & Hope) photo by amanaimages