〈ヌキテパ〉の“魚のスープ”
浅草駅から徒歩十数分、“観音裏”と呼ばれるエリアを一躍ポップにした8席のマイクロビストロ〈ペタンク〉。オーナーの山田武志シェフが、今も師と仰ぐ若き日の修業先のシェフのスペシャリテを、当時の思い出とともに紹介してくれた。
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- 注目シェフが教える感動の「名店メニュー」 vol.17
磯魚のスープ ニース風(1万円のコースより)
甲殻類は使わず、旬魚を5 ~ 6種使用。この日はイサキがメイン。滋味豊か、濃厚かつ凝縮感ある味わいながら、テクスチャーはさらっとしてキレがあり、香りと旨味のふくよかな余韻が長く続く。表情豊かな信楽焼の器でサーブ
オススメしてくれたのはこの人!
〈ペタンク〉山田武志シェフ
シェフが1人で営む8席の極小ビストロ
グランメゾンから今はなき伝説のナチュラルワインビストロまで幅広い店で腕を磨き、フランスでも研鑽を積んだ山田シェフ。満を持してオープンした8席のカウンタービストロで、仏日の定番総菜にフランス料理人ならではのエッセンスを効かせ、多くの食べ手を魅了する。
住所:東京都台東区浅草3-23-3 上野ビル101
営業時間:17:00~24:00(土・日・祝15:00~22:00) 休日:不定休
TEL:03-6886-9488
山田シェフ
変わらない仕事を確かめる
自分の店を開いてから、定休日に田辺シェフの下で働いたという山田シェフ。実は〈ヌキテパ〉は、調理師学校を出て最初に勤めた修業先だ。
「毎朝9時に店に魚が届くのですが、シェフが来られるのは昼の営業直前。メニューが決まるのはそれからで、この魚はなにに使うんだろうと、ドキドキしながら仕込みをしていました」と、笑いながら懐かしそうに、当時を振り返る。
「当時と今では見えるものも違えば、シェフが話してくださることも違う。独立後に働けたのはいい経験になりました」
一方で、田辺シェフの仕事は「ほとんど変わらない」と、話す。
「磯魚のスープでいえば、アラの時点でしっかり水分を抜く、ミキサーで乳化させない、塩分が詰まらないよう火入れのタイミングと温度に注意する。全工程が、臭みなく濃厚なのに澄んだあの味わいへと繋がっていく。改めてすごい料理だな、と思いました」
田辺シェフ
旬魚の最高の美味しさを余すところなく
修業時代の山田シェフについて尋ねると「とにかく元気で、やる気満々だった」と、述懐する。〈ペタンク〉がオープンした後、先に店を訪れたのは田辺シェフだったという。
「また食べたいと思う料理がいくつもある。いい店。料理が上手な人は店作りもうまいよね」と、絶賛だ。
山田シェフら“卒業生”たちも「多くを学んだ」と口を揃えるのが磯魚のスープ。
「作り方以前に、いい魚を使うことが重要、大前提。脂がしっかりのった魚、つまり産卵前の雌が理想。人間と同じでね」
冗談を交えながら、そう話してくれた。臭みを取り旨味を凝縮させる、シノワ(濾し器)と麺棒を使って2回濾す。そして、甲殻類は使わない。香りが強すぎて、魚の風味を壊してしまうからだ。
「今も尊敬する、フランス修業時代に師事したシェフが、日本の魚でスープを作るならどうするかと考え作った料理。30年変わらない、店の看板です」
Check1 魚の旨味を凝縮魚は内臓やアラもすべて使い、炒めた香味野菜とトマトペースト、サフラン、白ワインを加え、水分を飛ばしながら火を入れていく。生臭さが取れて味が凝縮したスープの素の完成
Check2 ハーブのブイヨン沸騰した湯にフェンネル、バジル、タイムなどのハーブを加え、香りを移したブイヨンで右のスープの素を炊いていく。水でも美味しくできるが、「より魚の味を引き立てるために」
Ne Quittez Pas[ヌキテパ]
大学時代は体操選手、卒業後はプロボクサーという異色の経歴を持つ田辺年男シェフが、1988年に開いた恵比寿〈あ・た・ごおる〉を移転し、1994年に開業。“季節の海産物と野菜のフランス料理”をコンセプトに掲げ小田原、熱海界隈の網元から直で仕入れる魚介で“磯魚のスープ”や“地ハマグリの炭火焼き”など、30年来愛され続けるスペシャリテを生み出してきた。健全な食材への探求心から土に着目し、土をソースに使った一品もラインナップ。独創的ながらフランスの食文化と日本の風土に深く根差す味を伝える。
緑に囲まれた店内には、都心とは思えないリゾート感が漂う
地ハマグリの炭火焼き。強火で旨味をギュッと凝縮させる(1万円のコースの一品)
コックコートにキャップを被り厨房に立つ田辺シェフ
店は閑静な住宅街に。エントランスのアプローチも贅沢
●Ne Quittez Pas[ヌキテパ]
住所:東京都品川区東五反田3-15-19
営業時間:12:00~15:00、18:00~22:00
休日:月曜
TEL:03-3442-2382
URL:www.nequittezpas.com
雑誌『Safari』8月号 P166~167掲載
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photo : Jiro Otani text : Kei Sasaki