それまでも何度となく映画化されているウィリアム・シェイクスピアの悲恋物語、6作目のリメイク版は、何から何まで異例尽くし。舞台を14世紀イタリアのヴェローナから現代アメリカの架空の街、ヴェローナ・ビーチに、そこで敵対する旧家をマフィアファミリーに置き換えて、ロマンチックでパンクなカルト映画を作ったのは監督のバズ・ラーマンだ。
主人公2人の名前の間にある”と”を、劇中で印象的なモチーフになる十字架を意味する”+”に変えた『ロミオ+ジュリエット』(1996年)は、何よりもファッションが斬新で楽し過ぎる。それらは、映画が公開されて25年が経過しても、メンズウェアのキャットウォークから消えることがなかった永遠のヒットアイテムだ。
まず、2つのファミリーが服によって区別されている点に注目して欲しい。 一家の一人娘、ジュリエット(クレア・デインズ)を囲むキャピュレット家の男たちは、素肌に白いシアーシルクシャツ、フロントジップのレザーベストに十字架のネックレス、それにカウボーイブーツというパンキーな出立ちで暴れまくる。ラーマンと同じシドニーにある国立演劇芸術研究所の卒業生である衣装デザイナーのキム・バレットは、〈ドルチェ&ガッバーナ〉から大量に提供された古着の袖を切り落としたり、オーバーダイ加工で古くしたり、汚れを付けたりして、2重の風合いを演出している。
一方、ロミオ(レオナルド・ディカプリオ)及びモンタギュー家の面々は、もっとのんびりしていて、まるでハワイからやって来たビーチボーイのようだ。彼らはみんなサーファー風で、ラテン系カウボーイルックで決めまくるキャピュレットとは服のセンスが対照的だ。中でも、ロミオが着る2枚のアロハシャツに施された意味深なプリントにはどうしても目が行ってしまう。
まずは、ロミオがジュリエットとの秘密の結婚式に立ち会ってくれるローレンス神父から借りる、青い花柄のアロハ。青ベースにカラフルな菊の花が配置されたプリントは、どう見ても日本の柄じゃないか? バレットと彼女のチームはこの逸品をマイアミにあるヴィンテージ・ショップで見つけたとか。これ以外はすべて『ロミ+ジュリ』オリジナル。つまり、衣装チームの手書きアロハだ。なかでも、映画の中で繰り返し登場する真っ赤なハートに薔薇と剣が突き刺されたロミオのアロハは、物語の重要な伏線にもなっている。
また、結婚式でロミオが着るブルーのスーツは、ミウッチャ・プラダの特注品。ここではジュリエットが纏う白いカクテルドレスがロミオのブルーを引き立てている。2人が最初の出会いで恋に落ちる水槽のシーンで着る、甲冑と天使の羽のガウンは、ゼンデイヤの人気ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』(2019年〜)や、ホールジーのヒット曲”Never or Never”のPVのイメージソースにもなっている。『ロミオ+ジュリエット』が各方面に与えた影響は、けっこう絶大だ。
『ロミオ+ジュリエット』
製作年/1996年 原作/ウィリアム・シェイクスピア 製作・監督・脚本/バス・ラーマン 出演/レオナルド・ディカプリオ、クレア・デインズ、ジョン・レグイザモ、ポール・ラッド
photo by AFLO