Gastronomic City Calgary*
カナダ最先端のレストランを、カルガリーに訪ねて。
世界の美食地図に加わる注目のレストランがカルガリーにある。〈エイト〉は地元カナダの食材や食文化を駆使した料理の数々で、“カナディアン・ガストロノミー”という新たなジャンルに挑む。
“レイクトラウト”。地元の天然のレイクトラウトを低温調理し、上にそのイクラを添えた逸品
世界の食の専門家やフーディが、今注目するレストランがカナダの、しかもロッキー山脈の麓のカルガリーにあると聞けば、誰もが驚くに違いない。かくいう筆者も、その1人だった。もっとも、シェフのダレン・マクリーンは、Netflixの世界的な料理コンテスト“ザ・ファイナル・テーブル”でカナダ唯一のファイナリストに輝いたことから国内では知られた存在だ。カルガリーで彼が経営する複数の店は、どれも超人気店である。なかでも、今回紹介する〈エイト〉は“未来のカナダ料理に挑んでいる”と専門筋からの評価も高く、カウンター8席の完全予約制で、しかもゲストは原則撮影厳禁ということもあり世界的に注目されている。先だって念願の訪問が叶い、そのレベルの高さに驚いたので、さっそくご紹介したい。
〈エイト〉の料理は、ダレン本人がその日に考案した12のコース料理と、それに合わせたペアリングのドリンクが用意される。この店の料理の味わいどころは、大きくふたつある。ひとつは、地元カルガリーを中心に、ほぼカナダの厳選された食材にこだわっていること。「カナダは食材の宝庫じゃないか!」と筆者も舌を巻いたが、海の幸、山の幸とバリエーションが豊富なのだ。カルガリーはロッキー山脈の麓の標高1000mを超える場所に位置するが、この山麓には、野菜やキノコやジビエ、サケ・マス類など、実に多彩な食材がある。もちろん、カナダは本マグロや甲殻類や牡蠣など、海の幸も素晴らしい。ダレンは、そうしたカナダの豊穣な食材を使って世界の最先端の料理に落とし込んでいる。
この店のもうひとつの味わいどころは、“未来のカナダの美食”に挑んでいること。考えれば、私たちの中には、いわゆる“カナダ料理”なるもののイメージは、確立されていない。カナダが移民大国であり、多民族料理が混在していることも理由のひとつなのだが、ダレンはそれを逆手にとって「カナダの民族的なモザイクこそ、カナダの食の魅力になり得る」という。
実際に彼の料理は、フランス料理やイタリア料理だけでなく、中華やエスニックや南米の調理法を駆使して、カナダでしか味わえない美味しさに挑んでいる。嬉しいのは、彼が日本料理や鮨に大きなインスピレーションを受けていることだ。日本でも修業経験が豊富な彼は、日本的な“旨味”を味の骨格のひとつにしているから、我々の舌に合わないはずはない。日本からカルガリーは直行便があるので、旅先で迷ったら是非訪れてほしい。
“ベニソン”。マッシュルームライスの上に、ガーリック風味で仕立てたカナダの鹿肉を添えて
“カマトロしゃぶしゃぶ”。カナダ産の本マグロのカマトロをスライスにし、しゃぶしゃぶで食す
“ウォーターモス”。きゅうりのボタニカルを使ったカルガリーのジンに森で収穫した苔を漬け込み、スイカで合わせたカクテル
世界的に知られるカナダNO.1シェフ、ダレン・マクリーン
〈エイト〉は8席だけの秘密のレストラン。旅先で迷ったら是非訪れてほしい
取材・文 中村孝則 美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。'22年春、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。
●EIGHT [エイト]
住所:A631 Confluence Way Calgary AB,T2G1C3 CANADA
TEL:+1-403-457-2153
MAIL:contact@eightcdn.ca
URL:https://eightcdn.ca/
『Urban Safari』Vol.43 P34掲載
●雑誌・WEB『Safari』の公式TikTokは
こちらからアクセスしてみて!