ウディ・アレンが過去に何度も舞台として描いて来た我が街、ニューヨークが、ティモシー・シャラメやダコタ・ファニングやセリーナ・ゴメスという若者たちの恋の街に変身する。『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019年)でシャラメ扮するギャツビーはニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの大学生。彼はファニング演じる恋人の女子大生、アシュリーが故郷のアリゾナから学生新聞の取材が目的でマンハッタンにやって来ると聞いて、ロマンチックなニューヨークの休日を用意する。がしかし、ギャツビーが計画した完璧なマンハッタンの”いいとこどりプラン”はことごとく頓挫していく。
映画の衣装はたくさんあればいいという訳ではない。その典型が、本作でシャラメがほぼ全部の場面で着ているいかにもプレッピーぽいツイードのジャケットだ。色はブラウン、素材はウール、裏地は柔らかいビスコース、フロントウエストポケットが2つ、胸にウェルポケットが1つ、内ポケットが2つ付いたこのジャケットに下に、シャラメはTシャツとダンガリーシャツ、色違いのTシャツにチェックのシャツ、またある時は、白いシャツにレジメントタイをゆるーく組み合わせて現れる。下はだいたいがチノパンだ。このまるで変わり映えがしないギャツビーのワードローブには、彼のお育ちの良さが現れているという説があるが、一見、だらしないコーデのように見えて品を感じさせるのは、一重に、ティモシー・シャラメが着こなし上手だから。着こなし上手と言うより、着崩し上手な感じ。この微妙な違いが大事なのだ。
一方、アシュリーはプリーツチェックのスカートと柔らかいニットのトップを組み合わせたり、ペパーミントグリーンのセーターにプリーツスカートを合わせたり、ハイネックセーターの上にネイティブアメリカン的織柄のポンチョを被ってセントラルパーク周遊馬車に乗ったりと、果敢に衣装チェンジに挑戦している。そんな彼女のオシャレを邪魔してないという意味でも、ギャツビーの1点主義は効果満点だし、レイディース・ファーストの精神に則っているのだ。
なんなら、雨のニューヨークでギャツビーがさす透明のビニール傘までがファッションに見えるほど。『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』はかつて『アニー・ホール』(1977年)でダイアン・キートンが流行らせたメンズジャケットの女性仕様や、地味だけれどアレンがこだわった〈ラルフ ローレン〉のチノパン、ほどの注目度はないけれど、もっと若い世代にはけっこうヒットするファッションムービーだと思う。
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
製作年/2019年 監督・脚本/ウディ・アレン 出演/ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ
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