荒れ果てた道路をアルマジロが行き交う、ここは西テキサスの寂れたゴルフ練習場。”ティン・カップ”ことロイ・マカヴォイはゴルフの才能に恵まれながら、プレイにギャンブルを持ち込む厄介な性格から、キャンピングカーを根城にレッスンプロとして細々と生計を立てている。そんなロイが恋した女性のハートをゲットするために全米オープンゴルフにエントリーするという、かつてない大博打に打って出ることになる。
『さよならゲーム』(1998年)でもマイナーリーグの中年キャッチャーにスポットを当てて、そこはかとないうらぶれ感を醸し出していたロン・シェルトン監督が、同じケヴィン・コスナー主演でレッスンプロの意地と反撃を描いたのが『ティン・カップ』(1996年)。ゴルフに恋とギャンブルをプラスした劇的な展開もさることながら、劇中でコスナーが着るもろ90年代風カジュアルウェアとゴルフウェアが微笑ましく、懐かしく、思わず見入ってしまう人も多いのではないだろうか。
ロイのコーデは徹底している。白のタンクの上にヴィンテージアロハかチェックのシャツ、ズボンはウエストと腰回りがゆったりとしたツータックに決まっているのだ。精神科医のモリー(レネ・ルッソ)にレッスンを付ける時には、タンクの裾がめくれ上がって弛み気味の腹に生えた腹毛が見えても気にしない。この雑な着こなしがロイのキャラクターとコスナーの個性にマッチしていて、妙な色気を醸し出している。でもよく見ると、アロハの柄はオシャレだし、チェックの色目はいつも中間色。雑に見えて服のチョイスはけっこう上級なのだ。
そんなロイがモリーのセラピーを受けるために診察室を訪れるシーンでは、白いシャツにチェックのタイを結んで現れる。いかにもやっつけで選んだと思しきそのコーデも、ちょっと情けないレッスンプロのお出かけ着らしくてリアリティがある。本作でコスナーの専属コスチューマーを務めたバーバラ・ゴードンは、『ダンス・ウィズ・ウルブス』( 1990年)でコスナーと組んで以来、『ウォーターワールド』(1997年)、『メッセージ・イン・ア・ボトル』(1999年)、『13デイズ』(2000年)、『スコーピオン』(2001年)、『コーリング』(2002年)、『ワイルド・レンジ 最後の銃撃』(2003年)、『迷い婚-全ての迷える女性たちへ-』(2005年)と、約15間に渡ってコスナーのお気に入りだった。このことから考えても、ケヴィン・コスナーは衣装に対する意識が高い俳優であることがよく分かる。
2人のコラボ作の中でも、コスナーのあまり細部を気にしない服選びと着こなしが、演じる役柄と見事にリンクしているのが、この『ティン・カップ』なのではないだろうか。
『ティン・カップ』
製作年/1996年 監督・脚本/ロン・シェルトン 脚本/ジョン・ノービル 出演/ケヴィン・コスナー、レネ・ルッソ、チーチ・マリン、ドン・ジョンソン
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