トニー・スコット監督の『スパイ・ゲーム』(2001年)は、ロバート・レッドフォードが監督した『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)に出演し、”レッドフォードの後継者”とも言われたブラッド・ピットにとって、そのレッドフォードと師弟関係にある工作員を演じた記念すべき作品。その間、初期の代表作『セブン』(1995年)でデヴィッド・フィンチャーと出会ったピットは、師の元を離れて俳優として独自の路線を歩みはじめる。
『スパイ・ゲーム』ではスパイ容疑により逮捕される敏腕工作員、ビショップに扮したピットは、胸の両側にたくさんのポケットが付いたカメラマンベストや、洗いざらしたモスグリーンのシャツ、カットオフのベルボトム等、地味だが工作員然としたスタイルで画面に現れて場をさらう。しかし、ここではCIA上層部の反対を押し切って、ビショップの救出作戦に着手するベテラン工作員、ミュアーを演じるレッドフォードのワードローブに着目してみたい。世代によってばらつきもあるだろうが、レッドフォードは1970年代以降、アメリカントラッドを上手く着こなせるヘルシーでマッチョなファッションアイコンだったのだ。
アメリカントラッドの代表的アイテムと言えば、ヘリンボンジャケットにカジュアルな長袖シャツ、ニットタイという組み合わせが挙げられる。そして、ミュアーはまさにそれを着用して画面に登場する。ジャケットはややオーバーサイズだが、撮影当時64歳だったレッドフォードは無理なく着こなして後輩と対等に渡り合っているのが凄い。また、劇中のパーティシーンではセンスのいいレイヤリングを披露。それは、グレーとライトブルーが交差するチェックのシャツの上にアイボリーカラーのフィッシャーマンズセーターを着込んだ組み合わせだ。レッドフォードはバーブラ・ストライサンドと共演した『追憶』(1973年)でもアイボリーのハイネックセーターやライン入りのVネックセーター等、品のいいスタイルでファンのため息を誘ったものだ。さらに言えば、ミュアー役はレッドフォードが同じくCIA局員に扮した『コンドル』(1975年)の設定とファッションを踏襲した作品。そこでは組織に反旗を翻す若き局員を演じた彼が、四半世紀後、ブラッド・ピット相手に今も反骨精神が衰えてないことを証明したのが『スパイ・ゲーム』。レッドフォードにとって2つの作品を繋ぐための重要なツールが、時間の洗礼を受けてない永遠のアメリカントラッドだったというわけだ。
『スパイ・ゲーム』
製作年/2001年 原案・脚本/マイケル・フロスト・ベックナー 監督/トニー・スコット 出演/ロバート・レッドフォード、ブラッド・ピット、キャサリン・マコーマック、スティーヴン・ディレイン
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