希望と使命感に燃えて警察学校を卒業したフランク・セルピコは、ニューヨーク市警察内に蔓延る賄賂の受け取りを拒否たことで孤立を深めて行く。そして、彼は腐敗の実態をニューヨーク・タイムズに告発し、注目を浴びることになる。シドニー・ルメット監督による映画『セルピコ』(1973年)は事実を基にしている。1人の正義漢が悪を取り締まるべき警察組織に立ち向かっていく話はよくあるが、完成度ではこれがピカイチ。セルピコを演じるアル・パチーノは『ゴッドファーザー』(1972年)に続いて2度目のアカデミー賞候補になるが、残念なから受賞はならなかった。
その代わり、彼が身につけるアメカジ・ファッションは時の洗礼を受けることなく、今もオスカー級の輝きを放っている。
セルピコは私服警官でその任務は麻薬組織への潜入捜査だ。当初は比較的清潔感があった彼が次第にヒッピー風に変化して行くのは、敵を欺くためのコスプレ。纏う服は自由奔放で見ていて楽しいことと言ったらない。
彼がトライするアイテムをざっと紹介しよう。鉄道員の仕事着だった〈リー〉のカバーオール91-J、薄汚れたブッチャーコート、U.S.NAVYのPコート、そして帽子は、同じく鉄道員が被っていたレイルロードキャップ、また同じくU.S.NAVYのディキシーハット。ここでパチーノの裏技が。本来ディキシーハットは水兵帽なのでひさしは上に曲げて被り、額を出すのが鉄則だが、パチーノはひさしを曲げずに若干頭部が丸いバケットハットのように目深に被っている。この何気ないアレンジが素敵だ。
アウターも米軍関連が多い。セルピコがM-65フィールドジャケットを好んで羽織っているのは、モデルになっているセルピコ自身がアメリカ陸軍の退役軍人だからだろうが、その板についた感じが半端ない。M-65は第二次大戦時に兵士たちが着用したM-1943とその前進であるM-1941を進化させたM-1951の後継として、1965年に米軍での使用が承認された。特徴はコットンサテン生地とショルダーストラップ、それに4つのアウターポケットだ。このM-65、『セルピコ』が製作された当時はまだ使用されていたが、米軍の戦闘服が迷彩柄に移行したため、1980年にクラシックなオリジナル版は役目を終える。
『セルピコ』にはアメカジの定番とも言えるヴィンテージのワークウェア、アーミー、ネイビー系のアウトフィットが満載だ。アル・パチーノの髭面と服の着崩し方にも着目して、マニアは再度チェックしてみる価値はある。
『セルピコ』
製作年/1973年 原作/ピーター・マーズ 監督/シドニー・ルメット 脚本/ウォルド・ソルト、ノーマン・ウェクスラー 出演/アル・パチーノ、ジョン・ランドルフ、ジャック・キーホー、ビフ・マクガイア
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