『さらば青春の光』は1960年代初頭のイギリスのユース・カルチャーを描いたエポックメイキング的作品だが、製作されたのは1979年。’60年代にブームを巻き起こしたモッズ(労働者階級の若者たちの間で流行った音楽やファッション)がリバイバルした時代だ。だからこそ、服やアイテムの描き方に格別の愛が注がれている。
モッズたちが手を通すのは、極端なタイトスーツと、上に羽織るスーツとは真逆のゆったりとした軍用パーカ、M51(俗称モッズコート)だったりする。モッズスーツは最近街角でたまに見かけるスキニースーツと比べてもさらにスリムで、劇中には、仕立屋を訪れたモッズ青年が「もっと細くしてくれ」と無理を言って店主を困らせる場面がある。その微笑ましさ、懐かしさと言ったらない。
また、主人公のジミー(ジェームズ・マイケル・クーパー)がスーツのディテールを自慢げに説明する場面もある。ジミーは他にボーイフレンドがいるステフ(レスリー・アッシュ)の気を惹くために、仕立てたスーツについてこう言う。「ボタンが3つ、サイドベンツ、ボトムは16インチで色はダークブラウンだぜ」
また、クレジットカードや無料で銀行口座を開設するシステムがなかった当時、労働者階級の若者たちにとって、現金精算のオーダーメイドが唯一、こだわりのスーツを手に入れる手段だった。「レンタルなんて糞食らえ!」というのが彼らの考え方だ。ジミーが地元の仕立屋に分割払いの最後の1回を支払に訪れる場面も、洋服愛を感じさせる。スーツを着ていない時のジミーは、縮んだリーバイスにフレッドペリーのポロシャツ、デザートブーツというタイムレスなカジュアルファッションで僕らの目を楽しませてくれるのだ。
劇中には他にも、カーディガン、タッセルローファー、チャッカーブーツ、レザーのトレンチコート、レザーグローブ等のファッションアイテムから、ペスパ、ランブレッタ等のスクーターまで、ヴィンテージマニア垂涎のアイテムが数多く登場。映画の公開から45年が経過した今、時代の洗礼を受けても尚、光り輝くモッズファッションのパワーを改めて実感させるのが、本作『さらば青春の光』。モッズたちが服を介して表現しようとした反骨精神は、今だからこそ、学ぶべきものがあるのではないだろうか。
『さらば青春の光』
製作年/1979年 監督・脚本/フランク・ロッダム 出演/フィル・ダニエルズ、マーク・ウィンゲット、フィリップ・デイビス、レスリー・アッシュ
Photo by AFLO