デヴィッド・フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)は、ルーニー・マーラ演じる天才ハッカー、リスベットのパンキッシュな衣装とメイクがかなり強烈だった。でも、メンズ的には、そのリスベットと協力して失踪事件の真相を追うダニエル・クレイグ扮する経済ジャーナリスト、ミカエルのワードローブが余程エポック・メイキングだった。
エポック・メイキングというのはあながち大袈裟でもない。劇中でダニエルが手を変え品を変え着こなすレイアード・スタイルは、今でも重ね着する服を新しくすることでいかようにもブラッシュアップできるからだ。映画は興行的には失敗し、ファンが期待したシリーズ化は実現しなかったたけれど、ファッションの観点からみると大成功だったのである。少なくもと筆者はそう思う。
ミカエル(ダニエル)が提案するレイアードの代表例は、主にショールカラーのカーディガンとその下のベスト、洗いざらし(に見える)のシャツ+(時々スカーフ)という何気ないもの。しかしこれ、調べてみたらどれも凝った逸品揃いだ。なかでも、ミカエルが失踪した少女ハリエットの足取りを追って街を探索するシーンで着る、チャコールグレー(写真によってはダークネイビーにも見える)のショールカラーのカーディガンは〈メゾン・マルタン・マルジェラ〉のデザイン。首に巻いている同系色のスカーフは100%シルクで、丈が絶妙なコットンベストはイギリス仕込みの手仕事が魅力の〈ニール・バレット〉。裾出しで着ているライトブルーのシャツはニューヨーク生まれの〈スティーヴン アラン〉といった具合だ。
ミカエルはほかにも、〈ポール・スミス〉の黒いショールカラーのカーディガンや、ラルフ・ローレンがアウトドア愛好家御用達の素材、メリノウールで編み上げたショールカラーのカーディガンに、各々違ったベストやシャツを組み合わせて画面に登場する。彼のチョイスは同じダニエル・クレイグが演じたハイブランド一択のボンドファッションとは真逆の、着回しが効くリアルクローズたちだ。そこがある意味、エポックなのだ。
そう言えば、『007/慰めの報酬』(2009年)のロンドン・ジャンケットに現れた時のダニエルは、ネイビーのショールカラーにシャツ、そして同じ色のスリムジーンズを合わせて、我々記者の前に颯爽と登場したのを思い出した。今思えば、彼自身もオフスクリーンはミカエル的重ね着愛好家なのかも知れない。
『ドラゴン・タトゥーの女』
製作年/2011年 原作/スティーグ・ラーソン 監督/デヴィッド・フィンチャー 脚本/スティーヴン・ザイリアン 出演/ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー、ステラン・スカルスガルド
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photo by AFLO