エンパイア エンターテインメント ジャパン プレジデント&CEO――セオドール・ミラー
八角形のケースと丸形のダイヤルのコンビネーションがアイコニックな、〈ブルガリ〉のオクト。セオドール・ミラーはデザインや素材が異なる、3本のオクトを愛用している。ブランドのコレクターというのは珍しくないが、“オクト”というひとつのコレクションをタイプ違いで集めるというところに、ミラー一流の美学が潜んでいる。
- SERIES:
- ビジネスセレブの「時を紡いで」 vol.12
●今月のビジネスセレブ
エンパイア エンターテインメント ジャパン プレジデント&CEO
セオドール・ミラー[Theodore Miller]
Profile
米国・ニューヨーク出身。大学卒業後、電通にて日本でのキャリアをスタート。退職後2000年にライブドアの代表に就任。2005年、エンパイア エンターテインメント ジャパンを設立。東京を拠点にグローバルなレベルのイベントや映像制作をプロデュースする。ラグジュアリー、ライフスタイル、I Tなど様々なトップ企業がクライアント。
ブルガリ
オクト モノレトロ
●愛用歴/2年
●購入場所/東京
ブラックのダイヤルとストラップでオクトのクラシカルなデザインが際立つ一方、レトログラードでモダンな顔に。すでに完売済み。
希代の時計デザイナーであるジェラルド・ジェンタが得意としたレトログラード機構。その動きに魅了されているという。「針の動きがユニークですよね。これを身につけていると特別な時間を生きているような不思議な感覚を覚えるんです」
ブルガリ[BVLGARI]
オクト〈右〉
〈ブルガリ〉のメンズウォッチの代名詞であるオクト コレクションの中でも、最もシンプルなモデル。ラテン語で数字の8を意味するその名のとおり、独創的な八角形のケースが特徴。18 Kピンクゴールドが優雅なこちらは2014年発売のモデルで、オリジナルはブラックアリゲーターストラップが装着されている。自社製機械式自動巻きムーブメント搭載。現在このモデルは完売していて入手困難。
オクト モノレトロ〈中央〉
オクトの非凡な個性をひと際印象づける、ジャンピングアワー&レトログラードミニッツ。〈ブルガリ〉がウォッチメイキングの伝統を継承した〈ジェラルド・ジェンタ〉が得意としたレトログラードを、モダンに昇華させた粋なデザインが大反響を呼び、瞬く間に完売した。両方向巻き上げ式自動巻き機構のムーブメントはもちろん自社製で、マニュファクチュールとしての〈ブルガリ〉を雄弁に語る1本だ。
オクト フィニッシモ オートマチック〈左〉
薄型ムーブメントがお家芸となったマニュファクチュール〈ブルガリ〉が、2017年に樹立した3つめの新記録、世界最薄の自動巻きムーブメントを搭載。ケース&ブレスレットに用いられたチタンの色み、質感と、全体のフォルムが、コンテンポラリーで洒脱な雰囲気を醸し出す。このモデルは現行品として現在も販売中。
「時計に限らずすべてのものにおいて、私は“本物”が好きです。それが長い歴史がある伝統的なものでも、新しいものでも。流行りものには全く興味が湧きません。流行というのは一過性のものですから。〈ブルガリ〉のオクトは、この八角形のケースが非常に印象的ですが、これは西暦300年代初頭に建てられたといわれている、ローマのマクセンティウスのバシリカの建造物の天井にあしらわれた八角形のデザインにインスパイアされて生まれたそう。遥か昔から続く“本物”のDNAを確かに継承している、そんなところに大きく心を動かされました」
ミラーが所有する3本の〈ブルガリ〉オクトの中で、現在最も使用頻度が高いのが、自動巻きムーブメントの世界最薄記録を打ち立てたオクト フィニッシモ オートマチック。
「いったんひとつの時計を気に入ると、ずっとそればかりしてしまうタイプで、今はすごくこれにハマっているんですよ。ケースもとても薄いので手首にフィットしますし、ケースとブレスレットがチタンなので軽く、装着感がいいので。もちろんその日のコーディネートや気分によって替えたりはしますが」
しかし今回の取材で、自身が着用して撮影する1本に選んだのは、オクト モノレトロ。時間は6時位置の小窓に表示されるジャンピングアワー、分は扇形のレトログラードで、マニュファクチュール〈ブルガリ〉のアイデンティティをユニークなアプローチで表現した機械式時計だ。
「ジャンピングアワーとレトログラードという個性的な機構、デザインはもちろんですが、これは妻からプレゼントされたものなので(笑)。一番思い入れがあるのはこの時計ですね」
ミラーにとって時計とは、“一緒に人生を歩んでいく”存在だ。
「時計は好きなので、これら以外にも、〈ロレックス〉や〈ブライトリング〉、また純金製のアンティークのポケットウォッチなどを持っています。〈ブライトリング〉はナビタイマーというクロノグラフなのですが、これは父親が今の私より若い頃に買ったもので、私が受け継ぎました。今もときどきつけますが、その瞬間に父を思い出し、ニューヨークに電話するきっかけを作ってくれます」
ナビタイマーのほかには、彫刻などのアートも受け継いだ。
「服は本当によほどのものでない限り、何世代も受け継ぐことはできませんよね。でも、時計やアートは、それが“本物”ならば、次世代へ確かに継承していける。そういう意味でも、時計はひとつのアートだと思う。だからこそ自分で購入するときは熟考して慎重に選びます」
すべてにおいて“本物”を愛し、追求している彼が、“次に欲しい”と思う1本が気になる。
「同じく〈ブルガリ〉オクトのカーボン素材のモデルが、すごくスタイリッシュなので気になっています。自分でも“本当に好きなんだな”と思いますが(笑)。あと、〈ジャガー・ルクルト〉の比較的新しいコレクション・ポラリスのスポーティなタイプ。ほかにも〈オーデマ ピゲ〉のロイヤル オークや、今すぐでなくてもいいけれど〈ロレックス〉のデイトナも、いつかは欲しいなと」
“次の1本”のリストには、本当に様々なタイプの時計が挙がってきた。
「私はアートでも、抽象的な絵も好きなら写真も好き。食でも、洗練を極めた高級な懐石料理も好きなら、実はジャンクフードも大好き(笑)。なににおいても好みの幅は広くてそれはきっと好奇心が人一倍旺盛だからなんでしょう。でもそれは自分でもずっと大切にしてきた部分で、気になったらまず手を出してみるんです」
彼の“本物”を見極める審美眼は、好奇心の赴くまま様々なものに接する中で磨かれてきたに違いない。
「私が経営している会社が主に手掛けているのはイベント制作なのですが、なにを創っているかといえば、“イベント”ではなく“体験”なんです。年間150くらいのイベントを手掛けていますが、仕事においてもオーセンティックな経験、つまり“本物”を追求することに妥協はしません」
イベントでレンタルできるデザイナーズ家具はレプリカしかなかったことが不満だったミラーは、本物だけを選りすぐったヨーロッパのデザイナーズ家具を貸し出す会社まで設立した。
「なければ自分で作るしかありませんから(笑)。“本物”であるか、“本物じゃない”か、それは“本物”を体験すれば肌感覚でわかる。私はこれからも生涯、“本物”だけを追い求めていきます」
Company Information
「本物」の体験を届けるイベントをプロデュース
エンパイア エンターテインメントは、NYと東京を拠点に世界各地で様々なイベントやプロモーションをプロデュースするクリエイティブエージェンシー。それぞれのクライアントが持つ固有のブランドのDNAを深く読み解き、それにふさわしいブランドエクスペリエンスをデザインし提供し続けている。東京オフィスでは、13カ国にわたる国籍のスタッフ約40名が在籍。世界で最高のエクスペリエンシャルマーケティングを創り出している。
雑誌『Safari』3月号 P198・199掲載
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photo : Yoshifumi Ikeda text : Kayo Okamura