グッドバイブスな西海岸の“先生”! クリストファー・ホウレイ
ヴェニスビーチのカリスマサーフインストラクターとして有名なクリストファー(通称クリス)。キッズから高齢者まで幅広い層の生徒から支持を受けている一方、ヨガのインストラクターやミュージシャンなど、多彩な才能で西海岸の人々から愛されている。そんな彼のユニークな人生を見ていこう。
今月のサーファー
クリストファー・ホウレイ
[CHRISTOPHER HAWLEY]
東海岸出身のクリス。コネティカット州の自然豊かな郊外で育った彼は、幼少の頃より本格的にベースボールに取り組むスポーツ万能な少年だった。毎年冬休みになると家族でスキーを楽しむのが恒例で、高校卒業後にはスキーのインストラクターになるためにコロラドへ移住。アスペンで早朝から雪山で猛特訓を受けていた。順調に生徒の数も増え人気インストラクターとして活躍するように。で、スキーインストラクターは冬場忙しく、夏場は時間ができるもの。ストイックなクリスはこの時期もカラダづくりのため活用しようと思い立ち、挑戦したのが波乗りだった。当時のガールフレンドの故郷、マウイの波はすぐに彼をサーフィンの虜にさせた。
「最初にボードに立ったときは、母なる自然とひとつになった一体感が味わえたんだ。浮遊感にも似たような不思議な感覚だったよ。コロラドに戻ってからもその快感が忘れられず、翌年には一年中波がある南カリフォルニアに移住することを決意したんだ」
雪山からビーチに移住した当初はすべてが新鮮。朝から晩まで波乗りやスケートに明け暮れた。
「とにかく早く上達したかったから最初に入手したタイラーの9フィートのシングルフィンで、どんな波でもトライした。とにかく毎日海に入ってパドルで肩を鍛えたよ。平日の小波の日は人が少ないからボトムターンを練習するのに最適で、多い日は1日3~4回入ってたね」
一度ハマるとのめりこむ性格なだけに、彼の生活はいつの間にかサーフィン一色になってしまった。海に入るたびに増えたローカルの知り合いからコンペティションに出場するようにすすめられ、興味本位で大会にも参加。初年は惨敗に終わってしまったが、その分悔しさがこみ上げて猛特訓を重ねた。
「ノーズライドをどうしても完成させたくてステップの練習を何度もしたよ。苦手なことを克服するのには時間がかかるけれど、それを達成できたときから自信に変わるのさ」
幼少期、スキーを習得する際に“忍耐すること”を学んでいたクリス。成し遂げるためには時間がかかるが、チャレンジすることに価値があることを若いながらに理解していた。
エントランス先の柵に引っ掛けたビーチグッズ。たまに生徒が忘れてくるのでバスタオルの予備は必須
トレードマークの麦わら帽子は、インドネシアやメキシコなどのトリップ先で買うことも多い
すっかり波乗りの腕を上げたクリスは、カリフォルニアだけでなく、ハワイ、メキシコ、コスタリカなどへと旅をはじめた。そして、そのエリアのローカルとの交流も兼ねて一緒に波乗りを楽しむようになっていた。
「ストイックに練習しても楽しくないからね。まるで自分がワールドツアーに参加したような感覚で、気楽に向き合っていたよ」
そんな旅の中でとあるローカルサーファーから教えてもらったのが、ヨガ。その素晴らしさの虜となった彼は、ヨガと瞑想を日常的に取り入れはじめた。するとさらにサーフィンのスキルが上がったそう。そんなある日、“人に教える”というインスピレーションが降りてきた。
「サーフトリップから戻ってくるやいなや、なにか“人に教える”仕事につきたい、という直感が降りてきたんだよね。で、そのとおりに行動してみたんだよ」
そんな彼の最初の“教え子”となったのは、なんと実の父親。父がカリフォルニアに遊びにきた際に、サーフィンを体験してもらおうとしたところインストラクターが見つからず、クリス本人が父に教えることになったのだそう。するとわずか数時間で父をボードの上に立たせるという偉業を成し遂げてしまう。その話を聞きつけた近所の人から、クリスのレッスンを受けたいというオファーが殺到。レッスンを行うビーチもそのときの波のコンディションに合わせてフレキシブルに対応した。“直感”を信じ、そのとおり人気サーフインストラクターとなったクリス。そのレッスンには、ヨガも取り入れているのだという。
「一体化したポーズと呼吸に意識を向けるビンヤサヨガを取り入れているよ。呼吸が整えばパフォーマンスも安定するんだ。これが案外評判になって、ヨガクラスを別に設けることになったんだ。今では生徒もかなり増えて、週末ビーチで無料ヨガをやっているよ」
雪山から海、そしてヨガ。各方面でインストラクターとして成功をおさめたクリス。その秘訣を聞くと、自分がそれぞれ習得するまで苦労や挫折を味わったからかな、と笑っていた。
本人主宰のイベント“フォーク&ソーク”で、温泉の前でパフォーマンスを披露するクリス。今年で5回め!
今でもたまにスキーを楽しむ。写真のセットは学生の頃から愛用しているヴィンテージ
波乗りの虜となり、20代前半で南カリフォルニアに移住してからはや数十年。今も彼のサーフレッスンは一年中フル稼働状態だ。近年はアメリカ国外の生徒も増加中。クリス本人もスペイン語やフランス語などを勉強しており、コミュニケーションの向上に励んでいるそう。
そんな人気者の彼の生活スタイルはとてもアクティブ。朝6時には起床し自転車に乗って近くのビーチの波チェックと朝ヨガを済ませる。波があれば小一時間入り、その後はサーフレッスンとヨガレッスンを夜まで。さらに、ミュージシャンとしての顔も持つ彼。週に2~3回はビーチ近くやダウンタウンでライブも行っている。またセントラルカリフォルニアの温泉地であるフランクリンホットスプリングスでは、彼がオーガナイズするイベント“フォーク&ソーク”が年4回開催されている。このイベントは天然温泉に浸かりながら、ライブを楽しむというユニークかつヘルシーなもの。彼のバンド、ローラーズをはじめ、オーガニック系のバンドが集結。最近では会場の片隅でヨガやマッサージなども体験できるようになり、ウェルネス系イベントとしての盛り上がりも見せている。昨年はコロナにより開催を見合わせたが、今年はイベントを再開。会場にはクリスのサーフクラスやヨガクラスの生徒の姿もあったとか。
オフの日もアクティブで、サンディエゴやサンタバーバラなどにサーフキャンプへ出かけるという。公私ともに忙しい彼は、常に休みなし。次のプロジェクトは、ジギー・マリーのバンドメンバーとともにレゲエのアルバムをレコーディングすることなのだそう。
インストラクターは幅広い知識が問われる。時間があるときはサーフィンやヨガに関する書籍を熟読する
フロントヤードではオーガニックの野菜やホワイトローズを栽培。土いじりをすると、精神的に落ち着くのだそう
●ホームポイントはココ!
ブレイクウォーター[BREAKWATER]ヴェニスのスケートパーク近くに位置。ビーチブレイクだが、サイズによってはショートからロングまで楽しめる。スウェルが入るとオーバーヘッドの大波も! かつてはローカル色が強かったが近年は観光客も多く和やかな雰囲気。
雑誌『Safari』10月号 P194~195掲載
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photo : sanctuary text : Momo Takahashi(Volition & Hope)