【渡辺勇大】国際大会での初優勝が混合エース誕生のきっかけ!
東野有紗との“わたがし”ペアとして国際大会で結果を残し、バドミントン混合ダブルスのトップランカーとなった渡辺勇大。強豪相手にジャイアントキリングを演じた全英オープンでの勝利が、ダブルス界のエースを覚醒させたようだ。
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- アスリートの分岐点! vol.23
YUTA WATANABE
TURNING POINT
2018年3月18日
バドミントン 全英オープン1回戦
VS 香港
掴んだ未来への切符!
中学時代にペアを組んだ東野有紗とともに、東京五輪のバドミントン混合ダブルスで銅メダルを獲得した渡辺勇大。中国、韓国、インドネシア、欧州勢といった強豪に後れをとっていたこの種目で、世界ランキング3位(7月5日現在)まで上りつめている。そんな渡辺がトップランカーの仲間入りを果たす分岐点となったのが、2018年の全英オープン。バドミントンにおける全英といえば世界選手権に次ぐ格付けの国際大会として知られ、ワールドツアーにおけるグレードや成績によって得られるポイントもワールドツアーファイナルズに次いで高い。この大会で渡辺は、日本バドミントン混合史上初の優勝という快挙を達成。
「国際大会で優勝すること自体が、はじめての経験でした。当時の僕らのランキングは48位。もし1回戦負けや2回戦負けだったら、もう大きな大会に出られなくなる可能性がありました。そういった状況の中での大会で優勝できたことが、大きな国際大会で戦い続けられることにも繋がった。当時ランキングが停滞し、うまくいっていないなと思うことがすごくたくさんあった中で、この優勝は非常に大きな出来事でもありました」
決勝戦で対戦した中国ペア(世界ランク1位)を含め、全5試合の対戦相手は格上ばかり。並み居る強豪を撃破する番狂わせで、栄冠を勝ち取った。その中でも、1回戦で香港のタン・チェンマン/ツェ・インスェットペア(世界4位)を破ったことが大きな意味を持ったという。
「1回戦は1ゲームめを取られ、2ゲームめも点数を大幅にリードされて、もうほぼ負けかけている状態にまで持っていかれました。そこから形勢を逆転させ、ファイナルゲームの末に勝利することができた。試合後に、東野先輩(東野有紗)と『あれは、一度死んだゲームだったね』と話しました(笑)。でもおかげで、“瀕死の状態から命を救ってもらったんだから”と開き直ることができた。これは非常に大きかったですね。その後の試合でも、負けてもおかしくない局面がたくさんあったのですが、絶対に巻き返せるという根拠のない自信がありました。大会を通していえば、シード選手を4回倒して優勝できたということに価値があると思いますし、その経験によってまた大きな自信を得ることができたと思います」
渡辺と東野は、ペア結成当初から阿吽の呼吸で戦ってこれてはいたが、実は全英オープンの数カ月前にさらなる高みを目指すために変えたことがあったという。
「東野先輩との連携やコミュニケーションを大切にするように意識を変えました。もともとお互いの呼吸やリズムがあっていたので、それ以前は戦術的にこうしようとか、こうしてほしいというようなことをほぼ話したことがなかったんです。もちろん、2人とも勝ちたいので試合中に声を出したり、ドンマイくらいはいったりしました。でも、それ以外は普段もほとんど話をしたことがなく(笑)。ずっとそれでうまくいっていたのでよかったのですが、国際試合のような大きな大会に出るようになってからは、経験やお互いの身体能力だけで成果を出すことが厳しくなってきていました」
きっかけは、混合ダブルス強化のために招聘された、ジェレミー・ガン専任コーチからのアドバイスだったという。
「ジェレミーさんは、マレーシア代表で男子ダブルスや混合を指導してきた実績のあるコーチです。そんなジェレミーさんのひと言をきっかけに意識を変えたのが、全英オープンの約2カ月前。それがうまくハマりました。試合中の苦しいときにひと言でもふた言でもいいから話すようにするといった些細なことからはじめました。数カ月で成果が出たので間違いないと。日本人には仲間意識を大切にする民族性があると思うのですが、それを生かすことで海外の選手より秀でたものを出せる可能性があると思います」
今年3月には、所属していた日本ユニシス(現BIPROGY)を退社し、4月にプロ転向を果たした。
「なんでもやりはじめは上達が早いけど、上に行けば行くほどミリ単位の努力や修正が必要になります。世界のトップ選手はそうやって探求してポコッと一歩出ることに喜びを感じるのだと。でも、正直僕はそれが得意じゃないみたいで(笑)。継続力がないので、物事に慣れて、なあなあになりたくない。だから、新しい環境に身を置く、“大変だ、夏休みの宿題やってない”みたいな状態に追い込みたかった。一番を目指すために今の自分にはこの変化が必要。それは間違いありません」
バドミントン選手
渡辺勇大
WATANABE YUTA
1997年、東京都生まれ。福島県富岡第一中学校で、1学年上の東野有紗と混合ダブルスのペアを結成。2018年の全英オープンで日本人ペアとして初優勝。東京五輪では銅メダル獲得。2022年の全英オープンで2年連続3度めの優勝を果たした。今年4月にプロ転向。
TAMURA'S NEW WORK
[表参道 ストリート アート プロジェクト]
このプロジェクトでは、3名の若手アーティストが“希望”をテーマに描いたアートを約20mに及ぶ改修工事の仮囲いに順次掲出。絶滅危惧種の動物たちを「見る人がパワーを感じるように生き生きと表現した」という田村の作品は、7月下旬まで掲出された。
未来に繋がる“希望”を感じる作品
表参道のオリエンタルバザー跡地のビル改修工事に伴って設置された仮囲い。そこに描かれたのは、絶滅危惧種の野生動物たち。一緒に“希望”という意味合いの花言葉を持つ花々を添えるように描き、ダイバーシティ(多様性)の美しさと未来に繋がる“希望”を表現した。
「この作品は、〈フェンディ〉が原宿表参道欅会と手掛ける“表参道 ストリート アート プロジェクト”のもの。仮囲いをキャンバスに見立て、若手作家がリレー方式で作品を披露する企画のトップバッターを務めさせていただきました」
描き方自体にもメッセージを込めた。
「動物たちは仮囲いの入り口に向かって歩いているのですが、これはノアの箱舟に乗り込もうとしているところ。そして入り口から花が飛び出している様子を描くことで、新しい世界に繋がっていく様子を描きました。今までにない形で作品を描かせていただき、僕自身も新しい世界の扉を開けられたような気持ちです」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは20万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram : @dai.tamura
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◆美女アスリートとデニム
雑誌『Safari』9月号 P188~190掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO