【元木博紀】スウェーデン代表を本気にさせ、手応えを感じた東京オリンピック!
左腕から繰り出す強烈なスピンシュートで、ハンドボール日本代表の攻撃を担う元木博紀。今期から強豪ジークスター東京に移籍を果たしたサウスポーエースは、世界との距離を縮めた一戦での手応えを胸に、さらなる高みを目指す。
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- アスリートの分岐点! vol.22
HIROKI MOTOKI
TURNING POINT
2021年7月26日
東京オリンピック 予選リーグ 第2戦
VS スウェーデン
次のパリ五輪へと繋がる!
東京五輪では、準々決勝進出は逃したものの、ソウル五輪以来、33年ぶりという歴史的勝利を収めた彗星ジャパン。希望に繋がる勝利を得たチームで攻撃の主力を担う元木博紀にとっても、この五輪は特別な大会となった。とりわけ第2戦のスウェーデン戦が、競技人生における大きな分岐点になったという。
「対戦相手となったスウェーデンは、世界選手権2位の強豪国。その相手に対し、後半の中盤まで同点、もしくは1点2点差という攻防を繰り返し、互角に渡りあうことができました。僕自身も決めるべき得点をしっかりと決めていたんですが、最後は細かいミスの差でゲームを落としてしまいました。敗戦自体は悔やまれますが、世界2位に対して、26対28という僅差の試合ができた。あそこまでやれたという意味で、大きな希望が見えた試合だったんです」
強豪国との試合において、かつてない手応えを感じた瞬間があったという。
「スウェーデン代表の選手たちは、前半までは笑顔を浮かべたりしながら余裕をもってプレイしていました。でも、後半がスタートする頃になると、目の色が変わって。ときには選手同士が喧嘩したりする場面も。世界を焦らせて、本気にすることができたということは、やっぱり自信に繋がりましたね」
日本代表ではライトウイングを担う元木は、スピードとテクニックを併せ持つプレイヤー。相手ゴールに鋭く切り込んで決めるスピンシュートを得意とするが、世界と戦うためにプレイスタイルの進化に取り組み、五輪に挑んだという。
「僕自身はスピード主義者じゃないですが、とにかく走って点を取るというプレイスタイルを持ち味にしてきました。オリンピックに向けて取り組んだのは、そこは変えずに維持しながら、フィジカルを鍛えていくこと。ディフェンスでもカラダを張れる強さがありながらも、しっかり走れる身体を作ってきました。だから、大会を通して世界トップクラスの選手と激しいコンタクトプレイをしても対等に渡りあうことができた。しかも、身体がデカくなっても変わらず走れていました。フィジカルの重要さを改めて実感したと同時に、やってきたことが間違いなかったという手応えを得られたことも、プラスだったと思っています」
高校生時代にU-19日本代表に選出されて以来、各年代で日の丸を背負って戦い続けてきた。日本代表としては、世界選手権予選までは勝ち進むことができていたが、五輪出場は1988年のソウル五輪以降、叶えられていなかった。それだけに五輪には特別な思いがあるという。
「オリンピックの出場枠自体が少ないこともあり、本戦出場は非常に狭き門となっています。若い頃は純粋にオリンピックに出てやろうという気持ちでやっていましたが、途中からどうやったら出場できるのだろうという感情になったことも。それでも前を向いてやってきた中で、東京オリンピックが決まり、開催国枠で出られるということになった。そこから僕も含め、チームのみんなの意識がガラリと変わりましたね。チーム自体も2017年に、名監督のダグル・シグルドソンが就任。レベルが向上してきた中で出場した東京五輪で手応えを掴んだ。これは大きな出来事だったと思います」
現在は、オリンピックというものを明確な目標として見据えているという。
「東京五輪で接戦できたことで、世界との闘い方をみんながわかるようになってきていると思います。僕も含め、それを肌で感じている選手も多いので出場に向けてやりやすい状況になってきているのかもしれません。実際、次は実力で出たいと思う選手が増えていると思います」
チームの成長と同時に、自身の競技との向き合い方にも変化を感じているよう。
「かつては海外の強豪チームと戦うと、小学生と大学生のような試合になるのが当たり前で、20点差で負けることも珍しくありませんでした。それが今は接戦になることが増えてきていて。そこに成長を感じますし、やっていても楽しいですね。アジア圏では上位チームとしての力を見せつけている状態だし、世界選手権もしっかり自分たちで勝ち取って出場できているので。乗っている時期だと思います(笑)。僕自身、今は若手選手を育てる役割も担うようになりましたが、年齢が上がってからのほうがオリンピックに対する欲が出てきました。やっぱりあの独特の雰囲気は、ほかの大会とは全く違う特別なもの。パリ五輪は、なにがなんでも出たいですね!」
ハンドボール選手
元木博紀
MOTOKI HIROKI
1992年、茨城県生まれ。2009年、藤代紫水高等学校在学中にU-19に選出。日本体育大学在学中は、3年連続でインカレでの優秀選手賞を受賞。2013年に大崎電気OSAKI OSOLに加入し、日本代表にも定着。昨期の日本リーグでMVPに輝き、今期、ジークスター東京に新加入。
https://fan.zeekstar.tokyo/
2022年7月2日(土)
第47回日本ハンドボールリーグ
ジークスター東京 VS 大同特殊鋼
会場:アリーナ立川立飛
開始時間:17:00
TAMURA'S NEW WORK
[WBA・IBF・WBC世界バンタム級王座統一戦]
井上尚弥 VS ノニト・ドネア
「実はグローブの配色は、井上選手とドネア選手がはじめて拳を交えた試合と同じものにしています。表情や動きなども、モチーフは前回の対戦。こういったディテールからも、2人のボクサーの背景にあるストーリーも感じてもらえればと思って描いています」
説明がいらない迫力を持つ王者たち
世界バンタム級3団体王座統一戦で、再び拳を交えた井上尚弥とノニト・ドネア。リングのような画角からはみ出しそうな勢いで、2人のボクサーを描いた。
「井上選手は右ストレート、ドネア選手は左フック、という双方の必殺技を描いています。SNS上のおすすめに流れてくる膨大な画像や情報に埋もれず、立ち止まってもらいたかった。だから、世界が注目するこの戦いがはじまる高揚感が見た瞬間に、説明なしで伝わることを意識しました。前回の対戦と同様、おそらく極限まで仕上げてくる2人の身体の迫力を再現しながら、拳と拳がぶつかり合うような躍動感を持たせています」
描いてから嬉しい反応もあったよう。
「SNSにアップされた作品を見て、井上選手が直々にリツイートしてくれたんです。僕自身この1戦を盛り上げたい気持ちが強かったので、見てくれた人にそうした思いが伝わる作品になっていたとしたら本当に嬉しいですし、光栄です」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは20万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram : @dai.tamura
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雑誌『Safari』8月号 P204~206掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO