Gastronomic City Taipei*
この料理を食べるために台北に飛ぶ価値のあるレストラン。
台北の〈ロジー(logy)〉は日本人シェフの田原諒悟が2018年にオープンさせた。“アジアンコンテンポラリー”という新たな料理ジャンルを創造し、いまやアジアを代表する人気店となった。その代表作を中心にリポートする。
“台湾茶碗蒸し”。左下の茶碗蒸しは、牛ベースのコンソメに少しの醤油を加えて作ったフラン。その上にノコギリガザミ(亜熱帯域のカニ)とクコの実のサラダを乗せ、仕上げに台湾当帰のアイスクリームを添え、熱々の干しイカのコンソメスープを注いで仕上げる
私が死ぬ直前になって、今まで食べた中で記憶に残る料理を挙げよと、もし問われたら間違いなくそのひとつに数えることだろう。台北のレストラン〈ロジー〉のスペシャリテ“台湾茶碗蒸し”である。
私がこの料理をはじめて食したのは、〈ロジー〉が台北にオープンした2018年11月の少し後だと思う。そのときの五感の衝撃は今でも脳裏に強烈に焼きついている。見た目は文字どおり、手のひらサイズの器に入った茶碗蒸しであり、フランの部分の食感も茶碗蒸しの口溶け感であるが、器の中に構成された素材を混ぜて食べると、今まで経験したことのない風味が爆発する。
この料理のキモは、温かなフランの上に、食す直前に添えられる緑色のアイスクリームにある。これは、台湾当帰(トウキ)というセリ科のハーブにある。当帰は中国では古くから漢方に使われる薬用植物で、その根はヒトの延髄中枢を刺激し血液循環を高める作用がある。そして、素晴らしい香味があるのだ。その香味に近い根セロリと合わせたアイスクリームの上から、熱々の干しイカのコンソメを注いで、口腔内で温・冷のコントラストを楽しむという、大人の憎い趣向である。楽しいだけでなく、五感の記憶に忍び込む悪魔的な美味しさだった。
〈ロジー〉の田原諒悟シェフは、自身が台湾で感じた情景や文化を、料理の風味や味わい、色合いやデザインで総合的に表現するという。まさにその白眉がこの料理である。料理に名作という表現が適切かどうかわからないが、そういうたぐいのひと皿なのだと思う。実際に〈ロジー〉はオープン翌年の2019年の『ミシュランガイド台北』で1つ星、2020年からは2つ星を獲得し、『アジアのベストレストラン50』の2024年では22位を獲得した。いまやアジアを代表するレストランとして期待を集めている。田原シェフは、北海道出身。イタリア料理でキャリアをスタートさせ、渡伊して本格的な修業も積む。帰国後はフランス料理〈フロリレージュ〉の川手寛康シェフの下でスーシェフを務めた後に、台北に同店をオープンさせた。
イタリア料理とフランス料理を極めた日本人シェフが台北で作るこの料理を田原シェフ自身は“アジアンコンテンポラリー”という。料理界に新たな世界観を生み出したことも特筆に価するだろう。〈ロジー〉ではコース仕立てで、この唯一無二の世界を表現する。台北に飛んでも食べる価値のあるレストランだ。
店内はカウンターを中心にしたモダンなデザイン
“台湾産鳩/皮蛋/紹興酒と青花椒のソース”。鳩は、中はしっとり外側はカリッと飴色に焼き上げる。その鳩の出汁を使ったソースが絶妙な風味
取材・文 中村孝則 美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。'22年春、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。
●logy[ ロジー ]
住所:A1F., No.6, Ln. 109, Sec. 1,Anhe Rd., Daan Dist.,Taipei City 106, Taiwan
TEL:非公開
URL:https://logy.tw/(予約はHPより)
『Urban Safari』Vol.41 P34掲載
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