〈三輪亭〉の“自家製ハムとサラミ”
北イタリアに特化した郷土料理をメニューに据え、東京のイタリアンシーンをアップデイトしてきた〈ダ・オルモ〉の北村征博シェフ。食事に出かけるなら「料理人としての自分に刺激を与えてくれる場所」と話す北村シェフがリスペクトする一軒とは?
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- 注目シェフが教える感動の「名店メニュー」 vol.29
自家製ハムと
サラミの盛り合わせ
(1人前1650円~、写真は3人前)
20種近く揃う肉加工品の中から15 ~ 16種を盛り合わせに。生ハム、燻製、サラミからフライシュケーゼ(ドイツのソーセージ)まで、豚を中心に牛や鴨、馬肉も使い、バラエティ豊か。華やかな盛りつけに、歓声が上がる
〈ダ・オルモ〉北村征博シェフコアな郷土料理を、選び抜かれたワインと
北村シェフが原品真一ソムリエとともに2012年にオープン。イタリア修業で最も感銘を受けたトレンティーノ=アルト・アディジェ州の料理を中心に、素朴な北イタリアの味を、厳選した日本の食材を用いてリストランテの一皿として表現。ワインも飲み頃が揃う。
住所:東京都港区虎ノ門5-3-9 ゼルコーバ5ビル1F 営業時間:11:30~14:00LO(火~金)、18:00~23:00 定休日:日曜 TEL:03-6432-4073
現地の情景を思い出す味
世を賑わす話題の店も気になるけれど、どちらかといえば、変わらない仕事で味を深める“職人”の料理を味わいたい。北村シェフが食事に出かける店を決める際の、大きな軸がここにある。機会が限られている分、店選びは慎重になるというが、「大きな感銘を受けた店の筆頭」が〈三輪亭〉と話す。
「スペシャリテのひとつである、自家製の肉の加工品は、食べるたびにその仕事量に頭が下がる思い。味だけでなく、スタッフの方々全員でつくる店の雰囲気も素晴らしく、現地の空気に浸れる」
北村シェフにとって三輪シェフは、店こそ違うが、トレンティーノ=アルト・アディジェ州で修業した先輩でもある。
「三輪シェフのティロラー・グロステルをいただくと、修業時代を思い出し、懐かしさがこみあげてくる。派手さはないけれど、理に適った味で、実(じつ)がある。これこそが自分自身が惚れこんだ北イタリアの味だと、初心を思い出します」
素朴ながら実に豊かな味を伝える
国内の修業先は神楽坂のリストランテだったが、自らの店は世田谷の住宅街に。「作りたいのは南チロル地方の人々が、日常的に食べている料理。都心ではなく、“日常”がある町でやりたかった」と話す。農作物栽培に向かない山岳地帯に暮らす人々が、そこにある食材で生きるために生み出し、伝え受け継いできた味の代表が、肉の加工品だ。
「一頭を丸ごと、余すところなく。冬を乗り切るために、保存がきくものを。そんなふうに生まれた保存食には人の知恵が詰まっている。小手先の料理でなく、土地に生きる人たちの営みを伝えたい」
ダシがらの豚肉で作る“ティロラー・グロステル”は、イタリア版の肉じゃが。
「ジャガイモに肉の旨味を吸わせ、腹がふくれる一皿に仕上げた庶民の味。目玉焼きがのればごちそう。どこの国の人も似たようなことを考えるとわかれば、日本でまだ広く知られていない土地の味にも親しみを持っていただけるはずです」
Check1 余分なスジ、脂を取る肉を挽いて腸詰めにし、乾燥させて作るサラミも、豚モモの塊肉のスジや脂を取り除くところからスタート。長期熟成・保存に耐え、食感よく仕上げるために欠かせないひと手間
Check2 セラーで熟成させるワイン保管用とは別に、肉加工品専用のセラーを2台用意。白カビ系、スモーク系などを分けて、適切な温度、湿度で熟成をかける。時間の経過とともに、旨味が醸成される
cucina tirolese 三輪亭 per famiglie
まだ地方に特化したイタリア料理店が珍しかった14年前、ドイツ国境に近い南チロル地方の料理を打ち出し、店を開いた三輪学シェフ。魚介は乏しいが、肉や乳製品は豊富かつ上質。伝統的な保存食文化も発達したイタリアの中でもユニークな彼の地の味を伝え続け、住宅街に根差しながら、都心からもゲストを集める店として歴史を重ねている。自家製の肉加工品や、チーズ熟成士でもある修業先のレストランオーナーから直接仕入れるチーズなど、ここでしか食べられない美味を目指し、足を運ぶファンは多い。
木材を多用した、温もりのある空間
北イタリア版“肉じゃが”ともいえる“ティロラー・グロステル”2640円
チーズ熟成士の師が日本で見つけたワカメを使用し作ったオリジナルチーズ
厨房に立つ三輪シェフ
●三輪亭
住所:東京都世田谷区豪徳寺1-13-15 ツノダビル1F
営業時間:11:30~14:00LO、18:00~21:00LO(土・日・祝17:30~)
定休日:水曜(祝日の場合は翌木曜、ほか不定休あり)
TEL:03-3428-0522
雑誌『Safari』8月号 P174~175掲載
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photo : Jiro Otani text : Kei Sasaki