〈クロ・デ・グルメ〉の“テット・ド・コション”
世界中から肉好きが集うパリのステーキビストロやフランスの三ツ星シェフたちが御用達にする精肉店で計11年修業し、肉の扱いを究めた齊田武シェフ。〈セラフェ〉や〈ル・セヴェロ〉を率い、ステーキシーンをリードする齊田シェフが、この一品を求めて足を運ぶ店とは?
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- 注目シェフが教える感動の「名店メニュー」 vol.28
テット・ド・コション
(ディナー6050円コースの一品)
見た目の精巧さと華やかさは、まるでデザートのよう。カリッとクリスピーな表面と、中身の溶けたゼラチン質の濃厚な食感のコントラストが、味わいの重層感を生み出す。高知県室戸の海洋深層水で栽培するエノキとともに
〈セラフェ〉齊田 武シェフパリ仕こみの技が光るステーキビストロ
店の柱は、熟成肉とナチュラルワイン。放牧飼育される日仏の牛肉を中心に、茨城県〈塚原牧場〉の梅山豚など極上の肉を揃え、熟成と焼きで旨味の頂点を引き出す。パリ時代に多くのワイン生産者とも親交を深めた齊田シェフゆえ、ワインセレクトにもファンが多い。
住所:東京都目黒区下目黒1-3-4 ベルグリーン目黒B1 営業時間:12:00~13:00LO、17:00~22:00LO 定休日:日曜、月曜不定休 TEL:03-6420-0270
食感や香りが生む複雑味
なにも言わなくても、食べたいものがさっと出てきて、好みのワインがある。齊田シェフが、忙しい日々の合間に足を運ぶのは、そんな「疲れない」店だ。さらにもうひとつ、フランスで同時代を過ごしたシェフやサービスマンのいる店には、なにかと足が向くという。
「そのふたつの条件を併せ持つのが、川﨑シェフの店。店が近所ということもあり、仕事帰りにふらりと。他愛もない世間話をすることもあれば、料理やワインの話に、つい熱くなることも(笑)」
フランスでの修業時代は「どちらも修業先が忙しい店で、日本人同士でつるんでいる暇がなかった」と、齊田シェフ。だからこそ、それぞれの経験を今、話すことでお互いの糧になるそうだ。
「食感のメリハリ、柑橘やハーブの香りの効かせ方など、川﨑シェフの料理にはどの皿にも“弾ける”アクセントがある。コースの最後まで新鮮で、食べ疲れない構成は、さすがだなと思います」
修業先の味、その本質を日本で再現
テット・ド・コションは、豚の頭を茹でて冷やし固めた、フランスでは非常にポピュラーな料理だ。川﨑シェフは、修業先がスペシャリテとして掲げるこの一品を、日本に伝えている。
「フランスでは豚の頭が丸ごと手に入りますが、日本では流通していないので、全く同じレシピではできない。アプローチは違っても、味の着地点は同じになるように、工夫しています」
主な材料は、豚の耳、舌、頬肉と、頭部の部位で、ゼラチン質を補うために豚足を加える。すべて一緒に柔らかく茹で、ペースト状にした豚足と頬肉で、舌と刻んだ耳を包んで筒形に成形する。
「提供前にフライパンとオーブンで火を入れ、表面はカリっと、中はとろとろに。この対比が、美味しさのカギです」
濃厚な味わいに、ふたつの方法で調理したエノキで、フレッシュさとクリスピーな食感をプラス。伝統の技術とガストロノミーの表現が融合した一皿だ。
Check1 4時間じっくりと茹でる豚の舌や頬肉を、タマネギ、ニンジン、セロリなどの香味野菜と一緒に、水から4時間かけて茹でる。柔らかく火を通しながら、臭みを取り除き、豊富なゼラチン質を引き出している
Check2 仕上げは二段階火入れ提供前に、表面をフライパンでしっかりと焼き、さらにオーブンで火を入れるのが〈クロ・デ・グルメ〉流。中までアツアツの状態で提供することで、ゼラチン質の食感が際立つ
Clos Des Gourmets
オーナーは、フランスで7年半修業した川﨑康志シェフ。星つきレストランからビストロまで、様々な店の厨房を経験したが、最も感銘を受けたのが渡仏のきっかけとなったパリのビストロ〈クロ・デ・グルメ〉のテット・ド・コション。2019年に開いた自らの店で、店名とそのスペシャリテを受け継いでいる。コースは月替わり。会席料理の“お凌ぎ”をイメージした冷製カッペリーニや、故郷・新潟県の伝統菓子に着想を得たデザートなど、プレゼンテーションも楽しい全8皿のコースが6050円とはお値打ちだ。
カウンター含め全12席
“冷製カッペリーニ 桜エビ、ホワイトアスパラガス”(6050円コースの一品)
21時からはバータイム。スタッフ・齋藤朋さんのカクテルとバーフードをアラカルトで
川﨑シェフ
●クロ・デ・グルメ
住所:東京都港区白金台3-18-4 パークサイド白金ヒルズ2F
営業時間:18:00~23:00LO(昼は要予約12:00~15:00)
定休日:日曜
TEL:03-6277-2358
雑誌『Safari』7月号 P174~175掲載
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photo : Jiro Otani text : Kei Sasaki