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CULTURE カルチャー

2021.08.29


ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』

街そのものが主人公と言っていい映画がある。そんな作品こそ観た後に舞台となった場所に行ってみたくなるが、日本でも劇場公開中の『イン・ザ・ハイツ』がこのパターン。ハイツとは、NYマンハッタンの北部に位置するワシントン・ハイツのこと。ドミニカ系を中心とした住民の日常を歌&ダンスで描くミュージカル映画は、これまで何度もNYへ行った人にも、世界最大の都市の新たな魅力を伝えてくれるはず!

NYの片隅で暮らす若者たちが夢を追いかける!
『イン・ザ・ハイツ』(2021年/アメリカ映画


【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』

ドミニカ系移民たちのコミュニティ
ワシントン・ハイツ(ニューヨーク州/アメリカ)


【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』

【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』(全国公開中/ワーナー・ブラザース映画配給)
● 原題:In The Heights
● 監督:ジョン・M・チュウ
● 出演:アンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、レスリー・グレイス、メリッサ・バレラ

Story
NYのワシントン・ハイツ地区の小さな食料雑貨店で働くウスナビは、祖国のドミニカへ引っ越そうとしていた。店をどうするか、そして美容院で働くヴァネッサへの恋心にもモヤモヤするウスナビだが、タクシーの配車サービスの仕事をするベニーら近隣の仲間も悩みを抱えていた。そんなある夏の夜、ハイツ一帯が停電となり……。

傑作ミュージカルを映画化
2005年初演で、2008年にブロードウェイに進出した『イン・ザ・ハイツ』は大ヒット。その年のトニー賞でミュージカル作品賞を受賞した。ハリウッドもすぐさま映画化に動きだし、紆余曲折を経てようやく完成。作詞・作曲を手掛けたのは、現在、映画・舞台のミュージカルで“天才”と崇められるリン=マニュエル・ミランダ。

登場人物【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』右:ドミニカ系移民
ウスナビ(アンソニー・ラモス)
ドミニカからの移民の両親が開業した、コンビニのような食料雑貨店を切り盛りしている。近隣住民のリーダー的存在だが、ドミニカへ戻って新たな人生をはじめようと、準備を進めている。

左:デザイナーを夢見る
ヴァネッサ(メリッサ・バレラ)
美容院で働いているが、マンハッタン中心部で、ファッション・デザインの仕事に移ろうと奮闘中。ウスナビからの思いになんとなく気づきつつ、頭の中は自分のキャリアのことでいっぱい。

かつてNYへ旅行する際には、観光目的で“行かないほうがいい”とアドバイスされる地域があった。それはマンハッタン北部。もともとNYは、東京と比べて犯罪に遭遇する可能性も高いが、なかでもハーレムとその周辺は、地元以外の人々が夜にフラリと立ち寄るのは危険とされてきた。

しかし今は治安も改善。観光客にもウェルカムな空気が漂う。セントラルパーク北側の110丁目から155丁目あたりがハーレム。そのさらに北部の地域が、ワシントン・ハイツだ。ここまで来ると、さすがに観光都市という雰囲気は消える。第2次独立戦争で作られた要塞“フォート・ワシントン”に由来するこの地区は移民によって発展し、ドミニカ系のコミュニティが多数を占める。その意味でも独特の文化が根づいている。マンハッタンの中心部が“観光仕様”になって新鮮さが失われている近年、NYのリアルを感じるために、こうした地区への遠出がオススメだ。

そのワシントン・ハイツを舞台にした映画が『イン・ザ・ハイツ』。ドミニカ系の主人公ウスナビを中心に、それぞれの夢や恋、友情と家族のドラマを歌とダンスでつづるミュージカルだ。本作がこのページにふさわしいのは、実際にワシントン・ハイツでロケを行っているから。ストリートで登場人物たちが群舞を披露。公園や地下鉄の駅など、現地の人々の日常があざやかに伝わってくる。一大スペクタクル的なダンスが描かれたプールのシーンもハイツで撮影された。光や空気感、そして夏の暑さまで、CG合成やスタジオ撮影では表現できない“本物”の街の雰囲気に引き込まれるのは確実。

さらに年末には名作を復活させた『ウエスト・サイド・ストーリー』も公開される。NYを舞台にしたミュージカル映画が相次ぐので、多くの人がロケ地巡りへの欲求を駆り立てられることだろう。

【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』Place 01(雑貨店)
Santo Domingo Grocery Inc.【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』映画の中でたびたび登場する、主人公のウスナビが働く食料雑貨店は、ワシントン・ハイツの中でも賑わう区画の交差点にある。ウスナビの店は別の名前で、看板などがセットで作られているが、黄色と赤を基調とした外観は現実の店と変わらない。近隣の住民のためのグロッサリーで、オリジナルのフライド・チキンが人気なので、是非トライしてみて!
●Santo Domingo Grocery Inc.
住所:196 Audubon Ave., New York, NY 10033

Place 02(公園)
J.フッド・ライト・パーク【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』ワシントン・ハイツの西側、ハドソン川近くにあり、住民が散歩するのに最適な公園。セントラルパークと同じく、あちこちに岩盤が露出しているのがマンハッタンらしい。バスケットのコートや、小さめながら野球用のグラウンド
も備える。映画では、配車サービス係のベニーと恋人のニーナがこの公園で思いを語り合い、まわりの人たちが楽しそうに踊る。
●J.Hood Wright Park
住所:W.173 St. &, Haven Ave., New York, NY 10033

ジョージ・ワシントン橋が映画の象徴に
この公園からも美しい眺めが見られる、マンハッタンとニュージャージー州を結ぶ橋は、ワシントン・ハイツを象徴するモニュメント。道を歩く登場人物の背後や、アパートの窓に映っていたりと、映画全体のイメージにもなっている。

Place 03(地下鉄)
191 ストリート・サブウェイ・ステーション【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』
ウスナビの育ての親で、住民全員から“おばあちゃん”と慕われるアブエラが、故郷のドミニカを回想するのが、この駅。彼女が歩く通路の両壁は、落書きやポップアートで埋め尽くされ、なんとも不思議な雰囲気が漂い、ワシントン・ハイツでも人気スポットになっている。地下鉄1号線のこの駅は、NYでも最も深い場所にあるので、地上に出るのにも時間がかかる。その分、壁のアートをじっくり楽しめるのだ。ホームのシーンは、ブルックリンの別の駅で撮影された。
●191 Street Subway Station
住所:191st St. Station Entrance Tunnel & Elevator, New York, NY 10040

Place 04(プール)
ハイブリッジ・プール【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』夏の気温が高いNYなので、誰でも入場できる屋外の公営プールがあちこちにある。総勢500人が“宝くじに当たったら”と歌い、泳ぎながらダンスをみせる、映画の中でもハイライトのシーン。これは1936年にワシントン・ハイツにオープンしたプールで撮影された。50mプールを2つ備え、ひとつは競技用の深さで、もうひとつは浅めで子供たちも遊べる。真夏のNY旅行で時間に余裕があれば、運動のためにも、あるいは涼しむためにも絶好のポイントかも!?
●Highbridge Pool
住所:Amsterdam Ave., & W.173rd St.,Park,New York, NY 10033

圧倒的なダンスと歌!【映画を巡る旅に出よう!】ワシントン・ハイツ ×『イン・ザ・ハイツ』劇中で有無を言わさず心を掴むのが、ダンスと歌のシーン。サルサやメレンゲ、R&B、ラップなど様々な音楽で彩られ、屋外で撮影された群舞は素直にテンションが上がるし、キャストたちの熱いパッションも伝わってくる。重力が変わるダンスなど、一風変わった演出もある。

 
Information

雑誌『Safari』10月号 P188~189掲載

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文=斉藤博昭 text : Hiroaki Saito photo by AFLO
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