ニューヨーク ×『ロマンティックじゃない?』
映画には、それぞれふさわしい“土地”がある。アメリカでも西海岸なら、降り注ぐ太陽の下、豪快なアクションが似合うし、大自然の広がる中西部はウエスタンやアドベンチャーにぴったり。そして東海岸の大都市ニューヨークは、人間ドラマやコメディに最適だ。特に恋が生まれるロマンチック・コメディならNYだと、タイトルもそのものの『ロマンティックじゃない?』が証明する。
- SERIES:
- 映画を巡る旅に出よう! vol.38
『ロマンティックじゃない ?』(2019年/アメリカ映画)
ニューヨーク(ニューヨーク州/アメリカ)
● 原題:Isn't It Romantic
● 監督:トッド・ストラウス=シュルソン
● 出演:レベル・ウィルソン、リアム・ヘムズワース、アダム・ディヴァイン、プリヤンカー・チョープラ
Story
地下鉄でバッグを盗まれそうになったナタリーは、相手と格闘した勢いで頭を強打。意識不明のまま病院に運ばれる。回復したナタリーだが、病室や外の世界のすべてがカラフルでかわいい風景に変わっていたり、不思議な事態が連続。子供の頃にあこがれていた、ロマンチック・コメディ映画の世界に入り込んだと知った彼女は愕然とする。
登場人物
右:ロマコメが嫌いな冴えない女子
ナタリー(レベル・ウィルソン)
ロマンチック・コメディへの愛を抑えて大人になり、一流の建築事務所で働く。建築家だが、事務所では雑用も担当。犯罪に巻き込まれ、病院で目覚めるとロマコメの世界に入り込んだと知る。
左:金持ちのイケメン
ブレイク(リアム・ヘムズワース)
ナタリーの事務所のクライアント。高身長のイケメンだが、ナタリーには最初のミーティングから上から目線。しかし世界が変わったとたん、なぜかナタリーを猛烈な勢いで口説きはじめる。
映画は基本的に作りもの。ファンタジーやSF作品のように、非現実で異世界を描くジャンルは、その“作りもの感”で楽しませてくれるが、一番難しいのは一見リアルな世界なんだけど、ありえない展開が用意された作品。この『ロマンティックじゃない?』は大都会ニューヨークの風景が、ちょっとだけ日常からズレて、リアリティと作りものの中間の風景を見せてくれる。主人公が“映画のような世界”に入り込んでしまうからだ。しかも映画のジャンルは、ロマンチック・コメディ。街を行く人々のファッションは妙にカラフルで、店やストリートのデザインも、ちょっぴりゴージャスになっていたりする。
色とりどりの花が咲き乱れるセントラルパーク、夜空をバックに輝く自由の女神、人気のカフェでは誰もがとびきりの笑顔で迎えてくれる……。よくよく考えれば、やや過剰に“盛られた”光景が次から次へと出てくるのだが、これってもしかしたら旅行者の目線と共通しているのかも。初めての場所に旅する人にとって、いつもの日常と全く違う目的地は、実際以上にキラキラ輝いているように見えるはず。『ロマンティックじゃない?』の主人公ナタリーの目線は、実はNYへ初めて来た旅行者のそれを表現しているのかもしれない。旅先ではちょっとした出来事でもテンションが上がるが、映画の中で普段と違ってモテモテになるナタリーの気分と近いのでは?
一方で、映画を観てからそのロケ地を訪ねると“意外に地味な場所だった”とギャップを感じることも。それもまた“映画を巡る旅”の面白さ。特に多くの作品の舞台となったNYは予想以上の心のときめきと、リアルな日常の両方を同時に実感できる場所。NYへ行く際には、本作だけでなくぜひお気に入りのNY映画をチェックしてほしい。
Place 01(カフェ)
カフェ ジタン
1994年、ダウンタウンのノリータ地区に開店して以来、大人気を誇るカフェレストラン。アボカドトーストやフレンチ風モロッコ料理などメニューも独創的で、ランチやディナー、バーとして利用可能。2017年には東京の恵比寿に支店がオープン。NYと同じメニューも提供している。映画ではナタリーとブレイクが訪れ、同僚のジョシュと彼の新たな恋人に遭遇する。
●Café Gitane
住所:242 Mott St., New York, NY 10012
Place 02(港)
ノース・コーブ・マリーナ
ブレイクからデートに誘われたナタリー。リムジンに乗って指定場所へ行くと、自由の女神の周囲を巡るディナークルーズが待っていた。その出発点となるマリーナは、マンハッタン南端の西側に位置し、様々なタイプの船舶を係留。映画のようにクルーズ船を呼んだら、かなりの高額になるので、とりあえずリッチな雰囲気を現地で確かめてみて!
●North Cove Marina
住所:North Cove Marina at Brookfield Place, New York, NY 10281
ロマコメの中でもナタリーが最も愛する『プリティ・ウーマン』。同作で最も有名なシーンでジュリア・ロバーツが着た赤いドレスはナタリーにとっても憧れの一着。ブレイクとのデートの“勝負服”となる。別シーンでも『プリティ・ウーマン』と同じ白いドレスが登場。
Place 03(公園)
ボウ・ブリッジ
ロマコメの世界に入ったナタリーが、彼女に思いを寄せる同僚のジョシュと、セントラルパークのこの橋の上を歩く。パークの中央部分に1862年に建造され、パーク内で最も長い橋として有名。その名のとおり弓(Bow)のような美しいシルエットで、『魔法にかけられて』など多くの映画で撮影に使われた。ベストシーズンは紅葉の秋。池に浮かぶボートを眺めながら、映画でナタリーが向かったように、ここから噴水も美しいベセスダ・テラスへの散策がおすすめ。
●Bow Bridge
住所:Central Park, Bow Bridge, New York, NY 10024
Place 04(ビル)
101 Park Avenue Office Building
1982年に完成した49階建てのオフィスビルで、モルガン・スタンレーなどの有名企業や、“ドッグ・ミュージアム”が入っている。ナタリーの建築事務所はこのビルの中という設定。映画のラストでは、彼女や同僚たちがビルのロビーから外の広場にとび出してミュージカルシーンを繰り広げる。グランド・セントラルからも近いこのビルは『アベンジャーズ』などで目にした人も多いはず。
住所:101 Park Ave., New York, NY 10017
『プリティ・ウーマン』と同じジュリア・ロバーツの主演作『ベスト・フレンズ・ウェディング』の描写が、本作の結婚式のシーンで再現される。ナタリーとジョシュが水餃子を食べて興奮するシーンは『恋人たちの予感』からの引用。その他にもロマコメの名作のタイトルや、誰もが知るセリフがあちこちに織り込まれる。
雑誌『Safari』5月号 P228~229掲載
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