アトランタ ×『ベイビー・ドライバー』
アメリカの中でも南部の都市は、日本からの観光客にはポピュラーというわけではない。なかなか目的がないと行くチャンスもないだろう。でも、そんな都市こそアメリカのリアルな日常を感じさせてくれるのも事実。今月ピックアップするアトランタが好例だ。全編、アトランタとその周辺を舞台に描かれる『ベイビー・ドライバー』を観れば、一見どこにでもありそうでいて、思わず行ってみたくなるアトランタの魅力に気づくはずだ。
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- 映画を巡る旅に出よう! vol.14
音楽で覚醒する天才ドライバーが街を走り抜ける!
『ベイビー・ドライバー』(2017年/アメリカ・イギリス映画)
オリンピックも開催された南部最大の都市
アトランタ( ジョージア州/アメリカ)
● 原題:Baby Driver
● 製作総指揮・監督・脚本:エドガー・ライト
● 出演:アンセル・エルゴート、ジェイミー・フォックス、ケヴィン・スペイシー、リリー・ジェームズ、ジョン・ハム
Story
大物犯罪者のドクのクルマを盗んだことで、彼の仕事の手伝いを強要されたベイビーは、強盗団を逃がすためのドライバー役を務めることに。警察の追っ手も軽々とかわすベイビーだが、プライベートではウェイトレスのデボラと恋仲になる。一度はドクの仕事から解放されるベイビーだが、ドクに脅迫され、無謀な仕事に手を染める……。
カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』
本作の公開は、『ラ・ラ・ランド』と同じ2017年。両作とも音楽が重要ポイントとなり、主人公の切実なロマンスも描かれていることで比較された。特に『ベイビー~』はカーチェイスと音楽の融合が、過去の作品と全く違う次元の完成度だったので、映画ファンに大評判となった!
登場人物
犯罪者の逃がし屋として働く
ベイビー(アンセル・エルゴート)〈右〉
天才的ドライビングテクを買われ、銀行や現金輸送車を襲う犯罪チームの運転役をまかされる。子供時代の交通事故が原因で耳鳴りがとまらないため、常にイヤホンで音楽を聴いている。
ウェイトレス
デボラ(リリー・ジェームズ)〈左〉
ダイナーのウェイトレス。ベイビーの素性を知ってか知らずか、彼と恋人関係になる。その存在が組織のボスに知られたことで、ベイビーは犯罪の協力から足を洗えなくなり、彼女も巻きこまれる。
航空業界には“ハブ空港”という用語がある。各地への路線を大量に抱え、地域の拠点となり、特定の航空会社の専用ターミナルも備えた空港のことだ。アメリカでもハブ空港の条件を厳密に満たす都市は少なく、そのひとつがアトランタである。空港の年間乗客数で20年間も連続で世界ナンバーワンとなるなど、デルタ航空のハブ空港であるアトランタはまさに交通の要所。デルタ航空だけでなく、コカ・コーラ、CNNなど日本人にも馴染み深い大企業が本社を置いており、アメリカ南部を代表する商業都市。鉄道が敷かれたことで夢と野望をもった人たちが集まって造られた街なので、エネルギーにあふれた土地柄だ。
アトランタといえば、メジャーリーグ最古の球団であるブレーブスや、有森裕子の“自分で自分をほめたい”が名言となった1996年のオリンピックが頭に浮かぶ。名作『風と共に去りぬ』の舞台としても知られているが、ここ数年は映画産業にも力を注いでいることで有名。郊外に広大な敷地のスタジオを造ったことで、ハリウッドの大作が頻繁に撮影で利用しているのだ。『ベイビー・ドライバー』は、そのアトランタの中心地や近郊で大スケールのロケを敢行した作品。CGとは違う、超リアルなカーアクションが完成されたうえ、主人公の純粋なラブストーリーや、クールを極めた音楽の使い方が、アトランタの街にぴたりとハマっている。映像の隅々から、どことなく南部の薫りが漂ってくるのも印象的。
夏は日本と同じように蒸し暑い気候のアトランタは、温暖な冬に訪れるのがおすすめ。郊外にも見どころが多いが、地下鉄も4路線あったりするので、移動は意外にラクだったりする。『ベイビー・ドライバー』の主人公の視線で、最速で街を駆け抜けながら、自分なりのアトランタの見どころを発見してみてほしい。
Place01 キャンドラービルディング
アトランタの元市長で、コカ・コーラ・カンパニーの設立者でもあるのがエイサ・キャンドラー。アトランタにはその名を冠したホテルや建物があり、映画の冒頭でベイビーの仲間が強盗をはたらくこのビルも、1906年に彼が完成させた。当時のアトランタでは最も高い17階。アメリカの歴史遺産にも登録され、クラシカルな建築で観光名所になった。
●The Candler Building
住所:127 Park Pl NE, Atlanta, GA 30303
Place02 M.L.K. Jr Dr SW &Ted Turner Dr SW
ベイビーの真っ赤なインプレッサがアトランタの中心街を疾走する映画冒頭のチェイスで、最も印象的に使われた道路がマーティン・ルーサー・キングJrドライブ。名前の由来はアトランタ出身の公民権運動の指導者だ。ジョージア州議事堂や、NFLのアトランタ・ファルコンズの本拠地メルセデス・ベンツ・スタジアムなど、その沿道には名所が多い。
アトランタの中心地を爆走!
カーアクションシーンでは、市街地からフリーウェイまで、アトランタの様々な風景が登場。有名なランドマークは出てこないが、“これぞアメリカ!”という雰囲気をたっぷりと満喫できる。
Place03 プラットプルマンヤード
映画の中で強盗グループが作戦を練るシーンは、アトランタの東側にある歴史地区カークウッドの倉庫で撮影。第一次世界大戦時には軍事用の倉庫で、その後、農業用に使われていた。映画会社がこの一帯を再開発し、ホテルやフードコート、ハイキングコースなども備えた小都市に変貌。この倉庫は『ワイルド・スピード』シリーズや『ハンガー・ゲーム』、『バッドボーイズ』最新作など、とにかく多くの映画の撮影で使われ、ほぼスタジオと言ってもいいかも。
●Pratt-Pullman Yard
住所:Rogers St NE, Atlanta, GA 30317
Place04 ハート・パーク
アトランタのダウンタウンにあるこの公園は、ジョージア州立大学やコンサートホールに隣接。近くで働く人々や学生たちにとって都会のオアシスになっている。中心部には噴水もあり、以前は夜に光のショーも行われていた。映画の中では、後半の犯罪ミッションの途中で、ベイビーと仲間が警察とチェイスを繰り広げている。オリンピック公園やキング牧師歴史地区を結ぶアトランタ名物の市電に乗れば、公園の前に駅(停留所)があるので、ぶらりと出かけるには最適だ。
●Hurt Park
住所:25 Courtland St SE, Atlanta, GA 30303
アトランタ市が全面協力!
ニューヨークやロサンゼルスなどでは不可能なレベルの規模で、中心地の道路を全面封鎖してカーチェイス満載の撮影に協力した。実はアトランタは『ブラックパンサー』や『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』など超大作の撮影も行われている、隠れた映画の都なのである!
雑誌『Safari』5月号 P288~289掲載
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