〈アキュトロン〉ACCUTRON
アキュトロンは1960年、世界初の音叉時計として誕生した。 開発したのはアメリカの時計メーカー、〈ブローバ〉である。 当時としては驚異的な高精度を誇り、宇宙開発にも貢献。 そして60周年の今年、再び時計機構に革新をもたらした。
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- 名作時計の舞台裏! 今月の時計
①スイープ運針
クォーツでは、時計の秒針はステップ運針が多い。対してアキュトロンの秒針はなめらかなスイープ運針。これは、独創的なメカニズムによって実現された。唯一無二の革新性が、秒針の動きに表れているのだ。
②スケルトンダイヤル
機械式でよく見かけるスケルトンダイヤルを、初の電子時計となるアキュトロンでも採用。秒針のスイープ運針とともに、画期的なメカニズムを視覚的に実感でき、誕生当時は極めて未来的でもあり、大ヒットに繋がった。
③ダイヤルのコイル
初代アキュトロンのスケルトンダイヤルには、電気で動く一つの証であるコイルが見えていた。新作もこれを受け継ぐ。機械式とはまた異なる、メカニズムをデザインに取りこむ巧みな手法は、60年を経た今でも新鮮だ。
ゼンマイではなく電気で動き、テンプに代わり音叉で時をカウントする。 アキュトロンは、300年にわたる時計の歴史を塗り替えた革新的な名作である。 その精度は機械式時計をはるかにしのぎ、月差±1分を実現していた。 さらに電子基板やコイルを見せるスケルトンダイヤルは実に大胆であり、 ミッドセンチュリーを象徴するモデルとして、今も多くのファンを持つ。
時計は一定の周期を持つ振動子によって1秒をカウントし、動力を制御している。最初期は振り子であり、 機械式の腕時計ではテンプがそれに代わる。その振動数は、ハイビートと呼ばれるムーブメントでも毎秒10振動である。
1960年に誕生したアキュトロンは、テンプではなく音叉を振動子とした。 その振動数は毎秒360ビート。機械式では決して得られない超ハイビートによってアキュトロンは、当時の腕時計としては世界最高精度を実現した。
電子回路で超小型の音叉を振動させ、その先にある爪で細かい歯車を動かして秒針を進める仕掛けだ。毎秒360振動による秒針のなめらかなスイープ運針が、革新性の証。
スケルトンダイヤルは時計店のディスプレイ用だったが、これを売りたいとの声に応えてアキュトロン スペースビューの名で商品化。電子基板のグリーンとコイルの茶色がコントラストを成す斬新な外観が革新的な音叉機構と相まって、時計史に残る傑作となった。ダイヤル中央下部には、超小型の音叉が見えている
当初は通常のダイヤルに搭載され ていたが、メカを見せる時計店のディスプレイ用が好評を得て、ダイヤルのないアキュトロン スペースビューが誕生。 その未来的なデザインに人々は魅了され、大ヒットを果たす。極めて革新的な機構は、クォーツ式の登場で1976年に幕を閉じることとなる。しかしアキュ トロン スペースビューの人気は根強く、 2010年に限定1000本で復刻されると、一瞬で完売。今年、その革新性は新たな形で時計界を驚かすこととなる。
〈ブローバ〉はラジオCMをはじめて流した企業であり、マーケティングに長ける。アキュトロン誕生時には、巧みな広告展開が行われた。これは、機構を見せる巨大なモックアップ
新聞広告では、音叉時計ならではの音を聞くビジュアルが印象的だ。また時計自体もリュウズを裏蓋側にして、針合わせ不要の高精度を強調していた
アメリカの歴史を刻んだ時計は、その逸話もすごい!
ACCUTRONは、Accuracy(正確)とElectron(電子)からできた造語。 1960年代、代わるものがない超高精度な時計のメカニズムは、 スーパースターの腕で、アメリカ大統領の専用機で、 さらには宇宙で、様々な歴史的な瞬間の時を刻んできた。 多くの逸話を持つ事実が、アキュトロンが名作であることの証。 今も、’60年代のアメリカを代表する発明の1つとして語り継がれる。
言わずと知れたスーパースターにしてキング・オブ・ロックンロール。時計好きであり、愛国者でもあった彼は、アメリカの画期的な発明であり、当時最先端だったアキュトロンを愛用する時計の1つに選んだ。中でも、アシメトリックな TV スクリーン型がお気に入り。自身で使うだけにとどまらず、 ボディガードやワードローブマネージャーなどにも同じ時計を贈ったという。
〈ブローバ〉は NASA に2000にも及ぶ精密機器と計時装置を納品し、46のミッションに参加 した。1969年、歴史的な偉業であるアポロ11号の月面着陸にもアキュトロンの精密タイマーが使われ、月面探査機が着陸した静かの海に設置され、今もそのまま残されている。また音叉は低重力でも機能するため、アメリカ初の宇宙ステーション、スカイラブでも使われた。
ベトナム戦争、東西冷戦、国内でも 公民権運動が激化--多くの社会問題が浮き彫りになった1960年代のアメリカで、革新的な発明のアキュトロンは、1つの希望だった。そしてエルヴィス・プレスリーをはじめとする、多くのスターたちに愛されてきた。また当時最高精度を誇ったメカニズムは、宇宙計画にも貢献。1965年に打ち上げられた 有人宇宙飛行船ジェミニ6号のコクピッ トクロックに、アキュトロンと同じ仕組みの音叉ムーブメントが使われたのだ。 その後もNASAから絶大な信頼を得て、 アポロ計画でも採用。月面で時を刻んだ。
当時のアメリカの先進性を象徴するアキュトロンは、クロックにも組みこまれ 政府公認の大統領の公式ギフトにもなっている。また大統領専用機エア・フォース・ワンにもアキュトロンのクロックは使われ、歴史的な瞬間を見守った。
1963年に第36代アメリカ大統領に就任したリンドン・B・ ジョンソン大統領は、その翌年にアキュトロンを「アメリカ合衆国からの贈り物」だと宣言。アキュトロンスペー スビューを組みこんだクロックを大統領からの公式ギフトに採用した。また1967年には、大統領専用機エア・ フォース・ワンのクロックにもアキュトロンを採用。各国の時間がわかるよう複数個が機内に設置された。
誕生から60周年を迎えた今年、アキュトロンは再び革新をもたらした。 静電誘導タービンと静電誘導モーターで駆動する世界初の機構である。 初代スペースビューと同じスケルトンのダイヤルの下に2つ並ぶのが、 手の動きで回転し発電する静電誘導発電タービン。 10時位置にあるのが静電誘導モーターで、秒針をスイープ運針する。 そしてこの機構でアキュトロンは、独立ブランドとして新時代を開く。
コイルを見せるダイヤルで、初代の姿を模す。こちらは スペシャルブック付き。世界限定300本。ケース径43.5 mm、静電誘導発電クォーツ、SS ケース、カーフストラッ プ。日本入荷分は販売終了。36万円(ブローバ相談室)
コイルが斬新!
こちらも1960年のオリジナルを模したモデル。 レトロフューチャーなデザインと2つのタービンが高速回転する様子がユニーク。ケース径43.5mm、静電誘導発電クォーツ、SS ケース、 カーフストラップ。36万円(ブローバ相談室)
近未来的なドーム状のフォルムに、静電誘導の機構を搭載。ケースは PVD でガンメタ×ブラックの2トーンに仕立てた。ケース径45.1mm 、 静電誘導発電クォーツ、 SSケース、カーフストラップ。35万円(ブローバ相談室)
PVDによる金黒仕様は、腕で強く個性を主張する。ケースとラグ、ストラップがなめらかに一体化、優しくフィッ トする。ケース径45.1mm 、静電誘 導発電クォーツ 、SSケース、カーフストラップ。35万円(ブローバ相談室)
ダイヤル外周のグリーンのチャプターリングは、初代へのオマージュ。サファイアガラスは、巨大なドーム型になっている。ケース径45.1mm 、 静電誘導発電クォーツ 、 SS ケース、カーフストラップ。35万円(ブローバ相談室)
●ブローバ相談室
TEL:0570-03-1390
text : Norio Takagi photo by AFLO