〈ブライトリング〉クロノマット BREITLING “CHRONOMAT”
プロのための計器を標榜するブライトリングの旗艦モデル。 クロノマットは、パイロットの要望を叶えて1984年に生まれた。 真のパイロットクロノは、その後より屈強に高性能に進化を続け、 空のみならず、陸や海でも優れたパフォーマンスを発揮する。
❶ライダータブ付きベゼル
分単位の経過時間など様々な計測ができる逆回転防止ベゼルには、グローブをつけたままでも操作しやすいよう15分おきに4つの突起=ライダータブを初代から装備。 外観を特徴づける、歴代共通のデザインコードとなった。
❷ダイヤル外周のタキメーター
ダイヤル外周には、平均速度が測れるタキメーターが備わる。レーシングクロノでも頻繁に用いられる目盛りだが、 パイロットクロノにも極めて有効性が高い。平均速度は、 時速500~60kmが計測できるようになっている。
❸オニオン型リュウズ
オニオン型リュウズは、クロノマット以前にも他社のパイロットウォッチで多用されたが、その先端を丸く設えて袖に引っ掛かりにくい独自の形状を考案。リュウズには深い溝が刻まれ、やはりグローブのまま操作しやすい。
今あるクロノマットの直系の初代は、 1984年に誕生した。"直系"と書いたのは、1942年に同名のモデルがブライトリングから登場しているから。 それは世界ではじめて乗除算ができる回転計算尺を備えた機械式クロノグラフ で、航空用計算尺を持つナビタイマーの前身。ブライトリング家から経営を引き継いだアーネスト・シュナイダーは自身 がデザインした、全く新しいクロノグラ フに、かつての名作の名を与えたのだ。 その誕生には、イタリア空軍アクロバットチーム、フレッチェ・トリコローリが 深くかかわっている。
1984年:初代モデル登場
初代の市販モデルは、特徴的なベゼルのライダータブがゴールド IP で浮き立つバイカラー 仕様だった。ほかサイドに丸みを持たせたラグや先端が丸いオニオン型リュウズなど、今見てもクロノマットだとわかる外観が完成されている。裏蓋にはフレッチェ・トリコローリのアエルマッキ MB-339の姿が刻印される
フライトジャケットが脱ぎ着しやすいケース形状、ライダータブ付きの逆回転防止ベゼル、視認性に優れたダイヤル。パイロットのための機能を追求した初代クロノマットは、極めてモダンな外観でクロノグラフを革新した。その機能美は世界各国のアクロバットチームにも認められ、またスタイリッシュでもあり世界的なヒットに繋がった。
1990年:ブルー エンジェルスモデル登場
イタリア空軍に続き、 アメリカ海軍アクロ バットチームのブルー エンジェルス公認モデルも登場。チームのシンボルカラーであるあざやかなブルーに装った。3時位置に日付表示窓の横には、繊細な線画でチームに使用機の姿が描かれている
誕生10周年を迎えた1994年には、 より優れた視認性と操作性とを求めて、 リニューアル。その3年後には、積算計を見やすくしたクロノマットGTを開発 するなど、プロのための計器にふさわしい改良が続けられてきた。
1994年:10周年でリニューアル
1997年:クロノマットGT登場
GTとはGRAND TOTALIZER (偉大なる積算計)の略。ス モールセコンドを含む3つの インダイヤルのメタルによる縁取りをより幅広にすることで、ダイヤルからクッキリと 浮き立たせた。メインのバーインデックスも太く改良
20世紀最後の 年には、GTの思想をいっそう進化させ 視認性を追求したクロノマット2000 が登場する。その前年に、ブライトリングは100%クロノメーター宣言をし、"2000"もクロノメーター取得の高精 度ムーブメントを搭載していた。視認性と精度を進化させていったクロ ノマットは2004年、大型ケースで耐 衝撃性と防水性を高めた。今も名作と名高いクロノマット・エボリューションだ。 さらに2009年には、初の自社製ムーブメントを搭載。ブライトリングの革新は、常にクロノマットからはじまる。
2000年:クロノマット2000登場
インダイヤルをくぼませ、その目盛りは針に隠れない幅広のメタルリング上へと移動。視認性をより高めた。ベゼルもわずかに厚く幅広になって、 操作性を向上させている。エンブレムの下にクロノメーターの文字が
前ページで少し触れたが、クロノマットはイタリア空軍アクロバットチーム、 フレッチェ・トリコローリの公式クロノグラフとして開発が進められた。 つまりパイロットに向けて生まれた、まさしく〝プロのための計器〞。 その市販モデルは、モダンな外観で幅広い時計ファンをも魅了。 機械式クロノグラフの素晴らしさを再認識させ、機械式復興にも貢献した。
フレッチェ・トリコローリは1982年、公式クロノグラフを公募した。それを知ったアーネスト・シュナイ ダーは、すぐさまイタリアへ向かい、チームのパイロットらに、戦闘機を操縦中につけるクロノグラフに、どんな機能や性能、デザインを望むのか、徹底的にヒア リングを行ったという。自身もパイロットであるシュナイダーは、彼らの要望を的確に理解した。そして帰国後、パイロットが理想とする機械式クロノグラフの開発に取り組んだ。
アーネスト・シュナイダーによるデザイン画。なめらかに傾斜させたラグや丸みを帯びたケースサイドと裏蓋など、エルゴノミックな造形だとわかる。ライダータブは独立パーツとしてベゼルにビスどめし、15と45を入れ替えることでカウントダウン式にもできる
自らデザインを描き起こし、実に100以上ものプロトタイプを製作。10G以上の耐衝撃性能、視認性に優れたダイヤル、フライトジャケットの袖口に引っ掛かりにくいケース形状、 様々な計測ができる回転ベゼルを持ち、 それとリュウズとはグローブをつけたまま操作しやすい形状とする……。これら クロノマットを特徴づけるすべては、パ イロットの要望から生まれた。そして公募に参加した他社が既存モデルの焼き直しであったのに対し、一から新開発されたクロノマットは、見事に公式クロノグラフの座を勝ち取ったのだ。
右:風防とベゼルの構造図。サファイアクリスタルは、二重のパッキンで取り付けられている 左: リュウズはねじこみ式。風防のパッキンと相まって100m 防水を実現した
プロのための計器として開発されたクロノマットは、結果、それまでのクロノグラフにはなかったモダンな外観を手に入れることとなった。その市販版には、 前出のようなコンビモデルもラインナップし、肉厚のレザーストラップと組み合わせることで、よりスタイリッシュに仕立てられた。その斬新さにまず反応したのは、イタリアの時計ファン。
ファッショニスタらがこぞってクロノマットを身につけたことで人気に火がつき、やがて世界中へと広まっていった。1980年代初頭、いくつもの名作機械式時計が生まれ、クォーツショックを抜け出す足掛かりとなった。モダンクロノの先駆となったクロノマットも、その1つ。機械式クロノを再興させた、まさしく名作だ。
イタリア空軍に納品!
3時位置にチームのエンブレムを描いた、フレッチェ・トリコローリ公式クロノマット。スリムな筒状のリンクを連ねたルーローブレスレットも、このモデルのために新開発された。搭載するのは、現行のCal.B 13のベースでもある名機 ETA 7750。ダイヤル 外周にはタキメーターに加え、1分を 100分割したデシマルメーターも備わる。プッシュボタンはリュウズと同じ先端が丸いオニオン型に
2017年、シュナイダー家から引き継ぎ新体制となったブライトリングは、各コレクションを順次リニューアルしてきた。そして今年、フラッグシップのクロノマットを刷新。 2009年に自社ムーブ搭載で登場した前作から11年を経た新生クロノマットは、 ルーローブレスやネジどめ式ライダータブなど初代の姿を色濃く映した。 時分針もつけ根がスリムになった初期の形状へと原点回帰している。 バリエーションは豊富。陸海空、どんなシーンも選ばない。
アメカジに合う
カッパーダイヤルが目を引く 時計は、ルーローブレスと相まってさらにヴィンテージな佇まい。茶のレザーJKに合わせたくなる。ケース径42mm、 自動巻き、SSケース&ブレス。89万円(ブライトリング /ブライトリング・ジャパン)
新生クロノマットは、華やかなカッパーダイ ヤルもラインナップ。15と45が入れ替えできるライダータブに加え、ベゼルリング自体も初代と同じネジどめ式になっている。裏蓋はシースルー仕様で自社製 Cal. 01の姿を見せる。防水性能は200m。初代と同じルーローブレスレットのバックルは観音式に改められ、 リングはグルリと1周連続する美観を保つ。
ブラック×シルバーの日本限定モデルは、クロノグラフ 秒針もシルバーとして静謐で上品なモノトーンに仕立てられた。ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。 89万円(ブライトリング/ブライトリング・ジャパン)
深い青とブラックの組み合わせは、深海を想起させ、ビーチにも似合う。ベゼルは鏡面仕上げで、どことなく気品をまとう。ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。 89万円(ブライトリング/ブライトリング・ジャパン)
シルバー×ブラックのダイヤルに、クロノ秒針のレッド が映える。レーシーな装いが、ドライブ気分をいっそう盛り上げる。ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。89万円(ブライトリング/ブライトリング・ジャパン)
●ブライトリング・ジャパン
TEL:03-3436-0011
text : Norio Takagi