【マウント・レーニア国立公園】可憐な高原植物と荒々しい氷河が共存するシアトル近郊の霊峰
世界最初の“国立公園”を制定し、自然保護運動の発祥の地である米国。そのダイナミックな景観と自然は、訪れた人を魅了してやまない。そんなアメリカの国立公園を訪ねる新連載の第1回は、非日常の高原植物と氷河を日帰りでも楽しめる、マウント・レーニアだ。
- SERIES:
- アメリカ ナショナルパークへの旅! vol.1
ワシントン州
マウント・レーニア国立公園
雪が消えることのないレーニア山のピークは全米4位の高さ(アラスカを除く)。国立公園としては5番めに古い
コーヒー文化や、アマゾンやコストコなど世界的企業の拠点として知られるシアトル。 晴れた日、街歩きの足を休めて南東の方角を眺めると、真白い峯がぽっかりと空に突き出しているのが見える。それがネイティブたちのあつい信仰を集める霊峰、4392mを誇るレーニア山だ。
レーニア山が中央にそびえるマウント・レーニア国立公園は、シアトル市内から約95㎞とアクセスのいいロケーション。日帰りのツアーバスもあるが、できればレンタカーでの旅をおすすめしたい。
2時間半のドライブでパーク南西の入り口、ニスカリー・エントランスから公園内へ。さらに針葉樹林帯を25㎞ほど走ると観光の中心、パラダイス地区に到着。ここから気持ちのいいハイキング・トレイルが何本も延びている。まわりを見わたすと、軽装の家族連れが多い。これは大都市に近い国立公園に見られる特徴で、子供でも歩ける、やさしいトレイルがあることがわかる。
トレイルの楽しみは、なんといっても色とりどりの野生の高原植物。このエリアを開拓し、トレイルの基礎を作ったジェームス・ロングマイアは湧き出る清水に特別な力を見出したが、今も変わらずに清らかな水が無数の小さな流れを作り、そこに花々が群生する。ビジターセンターのブックストアでハンディな植物図鑑を手に入れると、より興味も膨らむはずだ。
そして、もうひとつの見どころは氷河。パーク内に大きな氷河が25もあり、パラダイスからの難易度の低いハイクでも、長さ6.4㎞のニスカリー氷河全体を見わたすポイントに到達できる。
爽快なハイクを満喫したら来た道を戻るのではなく、レーニア山をぐるりと周回するルートがいい。これはレンタカー使用ならではの楽しみ。アメリカを代表する峻嶺の夕景に圧倒されるはずだ。
パークを走るハイウエー沿いに位置する、ティスー湖のサンセットはクルマならではの楽しみ。多くの湖があり、湖面に映る山も美しい
シアトルから日帰り!?
シアトル市内から見るレーニア山は、都内から望む富士山に似ている。オレゴン州からワシントン州に延びるカスケード山脈の中で一座だけ神々しく突出する姿も、距離感も近似する。そして、シアトルからマウント・レーニア国立公園へは、日帰りドライブに最適のコース。シアトル観光の1日を充てれば、旅のバリエーションが増えるだろう。
25もの氷河を抱えた活火山!
一見、穏やかな表情に見えるレーニア山だが、実は活火山で150年前に最後の噴火が起こっている。現在の山の形は2000年前の噴火によって形成された。登山家たちのターゲットとしても有名だが、登頂成功率は50%に満たない。また、氷河を25持つ単独の山はアラスカを除けば、唯一の存在。氷河は今もわずかずつ移動しながら、谷を削り続けている。
人気スポットのナラダ滝!
ナラダ滝は、パラダイスからニスカリーの入り口方面へ2.5㎞戻った地点にある景勝地。落差は約50mとそう大きくないが、流れ落ちる姿がよく、人気のスポットだ。ハイキング・トレイルもあるが、駐車場完備のため、パラダイスに向かう途中にクルマで寄ることもできる。橋の下のビューポイントまで下りるときは、階段が急でウェットなので足元に注意。
高山植物の天国!?
パラダイスの標高は約1600m。5月から10月にかけて、40種類以上の可憐な花が高原を彩る。地名の由来は、ジェームス・ロングマイアの妻・マーサが花の美しさに感動し、「まるで天国のよう!」と叫んだことによる。標高差のあるトレイルを選べば、より多くの種類の花を目にできる。アバランチリリー(上写真)、ペイントブラシ(中写真)、カタクリの一種のグレーシアリリー(下写真)のほか、白くふさふさした綿毛のウエスタン・パスクフラワー、青の花穂を鈴なりに立ち上げるルピナスも人気。
歴史的建造物のホテル!
手軽な日帰り観光も楽しめるが、できれば1泊ステイがいい。レーニア山が最も美しいのはサンライズとサンセットの時間帯だからだ。〈パラダイス・イン〉は、1916年創業のクラシックホテル。改装を終えて2019年に再オープンした。フルサービスのダイニング、ギフトショップはクオリティが高い。オープンは5月から9月中旬。
●パラダイス・イン
TEL:+1-360-569-2275
URL:https://mtrainierguestservices.com/accommodations/paradise-inn/
TEL:+1-360-569-2211
URL:www.nps.gov/mora
開園:通年(11月から5月は雪で道路が封鎖されることがある)
入場料:自動車1台$30、歩行者・自転車$15(いずれも7日間有効)
国立公園指定:1899年3月2日
面積:約957㎢
旅の準備
トレイルは整備されていてスニーカーで歩ける道も多いが、トレッキングシューズがあると安心。天気の急変に備えて、ウインドブレーカーやレインウエアは必須。
旅のヒント
まず、国立公園内のビジターセンターに寄って、無料のマップを入手しよう。レンジャーに相談すると、体力や時間、目的に応じたトレイルを教えてくれる。
注意点
野生植物は傷つきやすいので、トレイルから外れて歩くのは厳禁。ストックの先端にも気を配りたい。滑りやすいところも多いので、足元にも注意が必要。
ベストシーズン
パークは通年オープンしているが、高原植物を楽しむなら7~9月がベストシーズン。10月は紅葉が美しく、冬はスキーなどウインタースポーツのメッカとなる。
行き方
シアトルからは95㎞、クルマで2時間半。インターステイト5から州道7を南下、同706で公園入り口のニスカリー着が一般的。観光ツアーに参加するなら、市内の旅行会社の窓口へ。
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雑誌『Safari』6月号 P206~209掲載
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photo & text : Shintaro Makino photo by AFLO