【ビッグベンド国立公園】どこまでも広がる乾燥した砂漠。 多様な生命があふれる大地の最果てにある奇跡の世界
大きなテキサスのその端に広大な砂漠の国立公園がある。メキシコとの国境、リオグランデ川、古代生物も闊歩した生命の源、恐ろしいほどに広がる満天の星。見どころの多い、知られざる大地だ。
- SERIES:
- アメリカ ナショナルパークへの旅! vol.19
テキサス州
ビッグベンド国立公園
逆三角形の窓が開くバランスドロック。ありえない巨岩の造形は、まさに自然の驚異だ。パンサー・ジャンクション近くのグレープヴァインヒルズ・トレイルを進むと現れる
テキサスは広い。行っても、行ってもテキサス……。今も昔も旅人は同じ思いを抱く。そのテキサスの最果てに、広大なビッグベンド国立公園がある。
ビッグベンドとは、「大きく曲がっている」という意味。曲がっているのは、西部劇でお馴染みの深い渓谷を流れるリオグランデ川だ。濁った流れはメキシコとの国境を成している。
このあたりはアメリカに4つある砂漠地帯のひとつ、チワワ砂漠にあたる。この北アメリカ最大の砂漠は、夏は乾燥して気温が43度まで上がる灼熱の大地だ。
それでも驚くことに、パーク内には120種もの植物が生きている。これは世界でも最大級の多様さで、このエリアにしか存在しない希少種も確認されている。色とりどりの花が咲き誇る早春は、まさに奇跡の絶景となる。また、国立公園で最多の450種の鳥類が生息するうえ、マウンテンライオン、シカ、クマなどの大型動物も生きている。
このすさまじい生命力の源となっているのが、2385mのエモリー山を中心とするチソス山脈。パンサー・ジャンクション・ビジターセンターから丘を上っていくと、次第に草原が現れ、低木の松とジュニパーの森となる。平地との気温差は8度以上。この植生の変化が多様な生き物を育んでいる。
アクティビティは、バランスロックなどの奇岩、先住民族のピクトグラムや遺跡が見られるハイキング、カヌーやラフティングなどのリバートリップが人気。さらに、忘れてはいけないのが星空。パーク周辺は人工の灯りを抑えて、夜空を暗く維持する活動を行っている。それだけに恐ろしいほどの星が眼前に現れる。
ネイティブ・アメリカン、鉱夫、テキサスレンジャー、メキシコの革命家。いろいろな人々が通り過ぎた大地で、満天の星を見上げるのもいい。
世界中を埋めつくした街の光は、人類から星空を奪い去った。人工的な光から離れたビッグベンド国立公園には、星が降るような美しい空が残されている
全米最大の砂漠!
野鳥の数が米国の国立公園で最多!
オオミチバシリ
灼熱の砂漠に鳥たちのサンクチュアリがあるとは信じられないが、450種類もの鳥類が生息する。その命を支えるのは、標高2000mの高原を形成するチソス山脈、そしてリオグランデ川が作る渓谷だ。ドライブ中に別名“ロードランナー”のオオミチバシリが、道路沿いを走る姿を目撃することも。バードウォッチングに最適なのはパーク東部のリオグランデ・ヴィレッジから延びるナチュラルトレイル。1㎞強の短いトレイルだが、たくさんの野鳥が見られる。
川沿いの露天風呂ボキラス温泉
リオグランデ・ヴィレッジに近いホットスプリングス・ヒストリック・トレイルを行くと、リオグランデ川の岸辺に作られたボキラス温泉が現れる。これはミシシッピ州出身の実業家がマラリアの湯治に効くとして開発したリゾート跡地。ゴーストタウン化したモーテルなどが放置されているが、お湯は41℃を保ち、今でも入浴できる。川の流れを見ながら旅の疲れを癒すのもいい。トレイルの途中には、岩に描かれたピクトグラムを見ることもできる。
国境を旅するリオグランデの川下り
数多くの西部劇の舞台となったリオグランデは雄大なイメージがあるが、実際の川幅はとても狭く、濁った流れの先の対岸メキシコは驚くほど近い。それでも、パークの東部に位置するボキラス・キャニオンからのリバートリップは、切り立った赤土の崖に囲まれた異次元の世界。静寂の中に水の音と鳥の声が混じり合う。一方、パークの西側にはサンタエレナ・キャニオンがあり、大きな岩の間をカヤックで下るロック・スライドが楽しめる。
巨大翼竜も生息した化石の宝庫!
現在は広大な砂漠だが、地質学的には複雑な構造をしている。数億年前は海の底だったと考えられ、7500万年前のロッキー山脈の隆起によって多くが形成された。多種多様な生物の化石が発掘されていることでも知られるが、なかでも貴重なのは翼の長さが12mもある翼竜の化石。こんな巨大な古代生物が空を飛んでいたかと思うと驚きだ。そのほかに多くの化石が北部のパーシモン・ギャップ・ビジターセンター近くに展示されている。
ドライブも楽しいチワワ砂漠
ビッグベンド国立公園はとにかく広大で、スケール感が違う。その広さはヨセミテの約2倍。その中を176㎞の舗装路と240㎞の未舗装路が走っている。オールド・マーヴェリック・ロード、ロス・マックスウェル・シーニックドライブなど、クルマを走らせるだけで美しい砂漠の景色を堪能できる。忘れてはいけないのが、パーク外の見どころ。最寄りの街、エルパソでは美味しいメキシコ料理がおすすめ。フォートデービスの観測所で、極上の星空を楽しむのもいい。
電話:+1-432-477-2251
URL:https://www.nps.gov/bibe
開園:年中無休
入場料:自動車$30、オートバイ$25、自転車・徒歩$15 ※7日間有効
国立公園指定:1944年6月12日
面積:約324.7㎢
旅の準備
アメリカの国立公園の中でも、最もアクセスが不便。ニューメキシコ州からエルパソ経由で行ったり、サンアントニオから回ったりするルートがあるので計画を。
旅のヒント
パーク内にキャンプ場はあるが、ホテルはない。近隣のホテルやモーテルの予約を。近隣の街はメキシカンフードの本場。グルメ情報も入手しておこう。
注意点
夏は40度を超える暑さとなる。ハイキングのときは熱中症対策を十分に。また、ヘビやサソリがいる。靴を履くときは、中にサソリが入っていないか要確認。
ベストシーズン
滞在しやすいのは、気温が下がる10 ~ 3月。もし、雨量が十分にあれば3月と9月に砂漠一面に咲く花が見頃となる。バードウォッチングは3~5月がベスト。
行き方
公共の交通機関がないのでレンタカーでのアクセスとなる。空港がある最寄りの街は、テキサス州エルパソ。ここからでも320㎞、約4時間のドライブに。
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雑誌『Safari』2月号 P200~203掲載
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text : Shintaro Makino photo by AFLO