サーフ業界期待の行動派は東海岸出身! ボー・ディフィオレ
古きよきカリフォルニアのサーフカルチャーを継承、積極的にアーティストともコラボし、独自のスタイルを築き上げた〈モラスク・サーフショップ〉。そのヴェニス店でマネージャーとして活躍するボーこそ、今回紹介するエキスパートサーファー。マネージャーとして忙しい日々を送りつつ、趣味の写真やDIYにも精を出す。若き彼の多才ぶりに注目したい。
今月のサーファー
ボー・ディフィオレ
[BEAU DIFIORE]
今回の主人公、ボーが東海岸を出発し、自身のバンでサーフトリップを楽しみながら、ヴェニスビーチにたどりついたのがおよそ2年前。そこで立ち寄った〈モラスク・サーフショップ〉で従業員として即採用、というなんともミラクルを起こしたのが彼のLAライフのはじまり。いまやサーフィンは生活の中心だが、波乗りとの出合いは意外に遅かった。
「サウスカロライナのカレッジに通っていたときにクラスメイトに誘われてフォリービーチではじめてサーフィンしたんだ。最初にボードの上に立てたときは空を飛んでいるような気分でね。それ以来、もっと速くきわどく攻めたり、波をコントロールしたいと思ったんだ。授業の前後はほとんど海に通い、気がついたら波乗りメインの生活になっていたね」
通っていたチャールストン・カレッジでは、フォトグラフィー、ビジネス、そして哲学を学んでいたボー。単位を取るのが厳しいことでも有名な学校で、ハードな勉学もこなしていたという。けれど、サーフィンをすることで体力がついていき、同時にストレスも発散、精神的にバランスを取ることができたそう。だからこそ試験直前でも波がよければとにかく海に入っていたと語る。スキルを上達させるために特別なトレーニングはしていなかったが、移動手段にしていたスケボーで、横乗りの感覚を覚えていったそう。
「サウスカロライナは、西海岸のようにいつも波があるわけではないんだ。だから波乗りできない日はスケートボードで擬似体験をして感覚をキープしていたよ」
彼が通っていたフォリービーチは海沿いの一本道の突き当たりがサーフスポット。そこではビーチブレイクの波が楽しめるのだとか。波のない日は美しい海の風景を撮影するなど、とにかく地元でもビーチライフを送っていた。そのうちに、カリフォルニアのサーフ業界で働きたい、という夢を抱くようになったボー。カレッジを卒業すると自らDIYを施したサーフバンで、サウスカロライナから西海岸へ向け、サーフトリップを決行することに。
「なかでも“モラスク”には強い憧れがあって、働けたらいいなと思ってたんだ」
ショップスタッフとのコミュニケーションは密に。このときは、グリノーのフィンについてアツく談議中
休みの日は自宅に作ったシェイピングルームで板を作るのに没頭
シングルフィンのオールドスクールなサーフボードをヴィンテージカーに積んで海に向かっていく。そんなジャック・コールマンの8ミリフィルムムービーのような世界観に憧れていたボー。実はそのムービーこそ“モラスク”のために制作されたものだと知り、それ以来“モラスク”にまつわるクリエイターやシェイパーなどをひたすら調べていたという。
ツリーハウスなどで有名なアーティストのジェイ・ネルソン、『シードリング』『スプラウト』など革命的サーフフィルムを制作したフィルムメーカーでアーティストのトーマス・キャンベル、ジャズをベースに独自のサウンドを生み出したミュージシャンのザ・マットソン2など、“モラスク”がキュレートするアーティストサーファーたちのユニークな世界にどんどんハマっていった。
そんな憧れのショップのヴェニス店でスタッフを募集していることを知ったボーは、履歴書提出のため東海岸から約2週間かけLAに向かったのだった。そしてすぐに担当者が面接をし、めでたく採用を勝ち取った。
「憧れの“モラスク”で採用されたことは僕の人生を大きく変えた。今でもこのチャンスにはとても感謝しているよ。毎日ストアで働くことに興奮を覚え、そこで出会う関係者との新しい人間関係の構築に喜びを感じているんだ。ファウンダーのジョンと彼の妻のジョアンナの素晴らしいセンスにも感銘するばかりだしね」
採用後しばらくはマネージャーのアシスタントとして修業を積み、去年の春にマネージャーに昇格。今では、サーフボードをはじめアパレルなど店で扱うすべてのキュレーションを手掛け、ストアのウェブサイトやソーシャルメディアの管理、イベントなどもオーガナイズしている。実はサイトに掲載するボードの写真もすべてボーの撮影。仕事はかなりハードだが、充実の毎日だそう。
「ここで働くことで多くを学ばせてもらっているよ。新しいアーティストの発掘やコミュニケーション、さらにすべてにおける責任感はマネージャーとして欠かせないものだね」
ボードの裏に油性ペンでイラストを。絵のタッチはどことなく彼がリスペクトするトーマス・キャンベルの影響が⁉
スチール撮影のついでに8ミリ動画をおさめている。いつかサーフフィルムを制作したいそう
ついに憧れの西海岸に移住し、理想のライフスタイルを満喫しているボー。念願の〈モラスク・サーフショップ〉でマネージャーとして多忙な日々を送りながら、趣味のサーフィンやフォトグラフィーにも力を注いでいる。
「現在使っているカメラは“ニコンFM”、水中撮影用の“ニコノスV”、それから店にある“キヤノンEOS レベルT 2 i”の3台。海では8ミリカメラを使ってムービーも撮るよ」
クリエイティブなボーは、カメラだけでなくDIYにも情熱を注いでいる。東海岸から旅した例のサーフバンもリノベーションし、簡易シンクやキッチンも装備。また、ストアではディスプレイ用のキャビネットや作業用デスクも製作。廃材をリサイクルした木工職人顔負けの上質な仕上がりだ。彼のDIY熱はとどまることを知らず、ついに自宅にシェイピングルームを設置して自作のボードを削りはじめたそう。
「“モラスク”での仕事を通してサーフボードについて学ぶのは最高の機会だと思っている。取引のあるシェイパーとデザインやボードの構造について語るのは勉強になるね」
ボードシェイプには多くのステップがあり、ボーは現在それぞれをマスター中。クラシックスタイルのボードはフィンもボードと一体化しているのが通例で、そのフィンをデザインしたり取り付ける作業が好きなのだそう。“モラスク”を通してますますもの作りに精を出しているボー。
その次なるプロジェクトは、自宅の庭に置くアウトドア家具を作ることなのだそう。彼の内なる創造性が、“モラスク”をもっと面白いショップにしていくに違いない。
DIYでサーフバンに簡易キッチンを設置。休みの日はビーチのパーキングに車を停めてサーフキャンプをするそう
スケートはサーフィンのスキルを磨くのに欠かせない。愛用しているボードは’80年代のヴィンテージ
●ホームポイントはココ!
サーフライダービーチ[SURFRIDER BEACH]マリブピアの右手に位置する伝説のサーフポイント。レジェンドシェイパーのランス・カーソンをはじめ、数々の名サーファーを輩出したことで有名。リーフブレイクで安定して波が立ち、小波のときでも乗りごたえがある。
雑誌『Safari』11月号 P250~251掲載
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photo : Yoshimasa Miyazaki(Seven Bros. Pictures) text : Momo Takahashi(Volition & Hope)