【和田 毅】リハビリ、過去の自分からの完全復活をかけた大一番! 未来への手ごたえを掴んだジャイアンツとの激闘!
チーム最年長で迎えた今シーズンも、大車輪の活躍でチームを牽引する福岡ソフトバンクホークスの和田 毅。今なお進化をやめないベテランは、肩の故障から、2019年の日本シリーズで輝きを取り戻していた。
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- アスリートの分岐点! vol.9
TSUYOSHI WADA
TURNING POINT2019年10月23日
SMBC日本シリーズ2019 第4戦
VS 読売ジャイアンツ
球団初の4年連続日本一に輝き、今年も序盤から熾烈な首位争いで球界を盛り上げている福岡ソフトバンクホークス。そんな常勝球団のローテーションの一角を担い、老獪かつ豪快な投球を披露しているのがベテラン左腕の和田毅だ。同じ松坂世代の盟友・杉内俊哉(現・読売ジャイアンツコーチ)とともに若手時代から球団を支え、数々の修羅場を乗り超えてきた。そんな輝かしい戦歴の中で彼が一番に思い出すのが、2019年日本シリーズ第4戦。読売ジャイアンツを敵地東京ドームで下し、3年連続日本一を達成した優勝決定試合だった。
「2018年は左肩の故障によるリハビリ生活で一度も投げられていなくて。そこからようやく一軍の舞台に復帰したシーズンでした。加えて、日本シリーズでは、故障する前年の2017年にも登板していたのですが、そのときは5回に先制点を取られ、負け投手になってしまい。その試合での悔しさや、1年間全く投げられなかったことに対する想いなど、いろいろな感情が重なって特別な思いでマウンドに立ちました」
奇しくも、3連勝で王手をかけての登板というシチュエーションも、2017年の日本シリーズと全く同じだった。
「敵地での試合という状況も一緒でした。今度は絶対に負けられないという気持ちでしたし、ほかの試合にないプレッシャーもありました。日本シリーズのような短期決戦は、ひとつの負けで流れが大きく変わってしまう。さらに相手は当然、4連敗だけはできないという気持ちで向かってきます。だからといって、受け身になってはいけない。だから、この試合で勝てばもう登板もないと思い、初回から飛ばしていきました」
蓋を開けて見れば、5回を1安打無失点に抑える好投だった。初回こそジャイアンツの2番打者・坂本勇人に四球を与えてしまったが、ほかのバッターは凡打で打ち取った。2回には、ゲレーロ、若林晃弘、田中俊太を3者連続三振で仕留める圧巻のピッチングで球場を沸かせる。
「3回に丸選手をスコアリングポジション(二塁や三塁に走者がいる状況)で迎え、そのピンチを無失点で凌げたことは、非常に思い出深いですね。2ストライク2ボールからの5球め、外角いっぱいのストレートが決まって見逃し三振に打ち取ることができた。もちろん運もあったのかもしれませんが、自分にとってあの試合の中での最高のボールでした」
ピンチを乗り切った和田は、次の4回では三者凡退で危なげなく相手打線を制圧。そしてこの4回に試合は大きく動く。自軍の今宮健太、デスパイネがともに左前安打で出塁し、一死一、三塁とチャンスを作った。この好機で、キューバ出身の強打者・グラシアルが真価を発揮。バックスクリーン左に強烈な本塁打を叩き込み、3点を先制した。和田は5回までに71球を投げ、被安打1、奪三振6、失点0という貫禄のピッチングで、先発の役割をまっとう。その後、6回に坂本勇人が四球で出塁し、岡本和真の2点本塁打でジャイアンツが反撃に打って出たが、7回の痛恨の守備ミスなどもあって力及ばず。ホークスは4対3でジャイアンツを破り、令和最初のプロ野球日本一を決めるシリーズを無傷の4連勝で飾った。
「初回にジャイアンツの菅野投手のピッチングを見たとき、これは簡単には点を取れないだろうと思うような素晴らしい投球をしていたんです。だから、我慢比べじゃないですが、0対0の展開なら先制点をとったチームに流れがくる。そんな試合になる予感もしていました。ただ、自分はケガからの復帰後だったので、行けるとこまで行くしかない。そんな気持ちで挑み、結果として無失点で抑えられたのは幸運でした。もちろんもう10年若かったら、完投してやるという気持ちになっていたと思います(笑)」
38歳にして優勝決定試合の勝利投手となった和田だが、リハビリを経て成し遂げたという意味合いは大きかったようだ。
「1年半にも及ぶリハビリは、やはり苦しいものでした。順調に回復すればいいのですが、よくなったと思ったらまた悪化してスタート地点に引き戻される。復帰したい意欲を日々削られるような毎日で、自暴自棄にもなりました。しかし、そんな経験をした自分がマウンドに立つことで、二軍で同じような状況にいる選手の励みになれば。その気持ちが僕を前進させました。そんな自分も今年で40歳。実力が同じ選手だったら、若い選手を使うのが世の常です。それを差し引いてもまだまだ上に行けるということを、経験で見せていきたいですね」
©SoftBank HAWKS
野球選手
和田 毅
TSUYOSHI WADA
1981年、島根県生まれ。2002年に福岡ソフトバンクホークスに入団し、5年連続で2桁勝利を達成。2011年からメジャー挑戦を経て、2016年に福岡ソフトバンクホークスに復帰。今季は球団20年ぶりとなる40代での白星を達成し、チームに貢献している。
TAMURA'S NEW WORK[森永製菓]錦織選手がラインギリギリを狙うバックハンドの描写。鍛え上げられた腕の筋肉、ユニフォームのシワは圧巻のひと言。また、ラケットの先に描かれている“イン ゼリー”のパッケージもイラスト。飲み口部分の細かいデザインにもこだわりが見える
「夢と力を届けるためのコラボ」
今回、田村が手掛けたのは森永製菓の“イン ゼリー”とのコラボレーション作品。森永製菓がサポートしているアスリートを応援するイラストの第1弾として、ケガを乗り越え挑戦を続ける錦織圭選手を、躍動感あふれるタッチで描いた。
「“イン ゼリー”は、食を通じて生きる力や前に向かって進むエネルギーを届けたいという思いで展開しているブランド。そして、僕自身も絵を通じて夢を提供したいと思って創作活動を続けてきました。互いの思いが共通するということで、今回お声がけをいただいたんです」
描いたのは、世界でもトップクラスと称賛される両手打ちのバックハンドだ。
「余白をあえて多くしたのは、視線の先に広い空間があることで未来が開けている印象を与える構図だから。挑戦し続ける錦織選手を応援したいという気持ちと同時に、見てくれた人にパワーを与えたいという思いを込めました。そんなメッセージを感じてくれたら光栄です!」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会、ISCAカリカチュア世界大会で総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
雑誌『Safari』7月号 P166~168掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo