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2020.12.13


新世代のカルチャーを作るネクスト・サーフスター!

新しいジェネレーションのサーファーで盛り上がりを見せているニューポートビーチ。スタイルのある個性的なサーファーが多いなかでも特に注目を集めるネクスト・スターが、“本物のサーファー”として誰もが認めるグラント・ノーブル。〈ヴァンズ〉のライダー兼〈ラッセルサーフボード〉のシェイパーと二足の草鞋で活躍する、サーフ界の次世代を担う存在だ。

●今月のサーファー
グラント・ノーブル [GRANT NOBLE]

レジェンドたちが一目置く新星


オレンジカウンティでもベストと名高いニューポートビーチ。当連載でも何度か紹介してきているが、今その豊かなサーフヒストリーが再び注目を浴び、新しいムーブメントの震源地となっている。サーフィン黄金期とされる’60~’90年代のカルチャーに現代のトレンドがミックスされたスタイルが非常に盛り上がっているのだ。そのせいか、このビーチではクラシックスタイルを好む若手サーファーが多い。だが、その神髄を極めている本物は珍しいともいわれている。そんななか、今回紹介するグラントは、次世代レジェンドの1人として誰もが認める存在だ。

どんな波でも軽やかなライディングを見せるグラント。水中だけでなく、陸でもフットワークが軽くバランスがいい photo by @zanmilan

「たしか3歳の頃、家族でマウイ島に行ったとき母に押されてパドルしたのがはじめて。母は看護師なんだけどスケボー通勤するようなファンキーな人(笑)。でも真剣に波乗りをはじめたのは、実は16歳くらい。それ以降は波のない日や荒れた日でも毎日海に入っているよ。今振り返るとそのおかげで上達したんだと思う。スランプもなかったよ」

その“毎日のように通う”サーフスポットがブラッキーズ。スタイルのある熟練サーファーが多いエリアながら、ひときわ目立つのがノーズライダーのグラント。彼が最も影響を受けたのが名作『エンドレス・サマー』だそうで、クラシックボードを優雅に乗りこなす主人公に自分を重ね、サイドステップやノーズライドの練習を行ったのだそう。もちろん、ファッションや音楽面でもブルース・ブラウン監督のレトロな世界に影響を受けたと語る。とはいえ、彼はクラシックなロングボードのみならず、フィッシュやエッグなどミッドレングスも自在に乗りこなすオールラウンダー。いつしか彼は先輩レジェンドたちにも認められ(あのジョエル・チューダーもその腕前を賞賛している)、最近では彼のライディングを見物する客もかなり増えた。ニューポートビーチのサーフシーンを20年近く見守ってきたウエットスーツブランド〈リユニオン〉のオーナーの横田氏もこう語る。

「彼こそが次世代のサーファー。コンペティションでの実績もしっかりあるし、腕のいいシェイパーでもあるんだ」

夢のボードがどうしても欲しくて


今でこそ多様なボードを乗りこなすだけでなく、自分でもシェイプするグラント。その背景には、理想のボードをなかなか手に入れることのできなかった過去の経験が影響していた。

店から車で5分ほどのファクトリーに朝からこもってひたすらボードを削る

「16歳で本格的に波乗りをはじめたとき、どうしても〈クリステンソン〉のボードに乗りたかったんだ。だけど、値段的になかなか手が届かなくて。それで自分で板を削ってみようって思ったんだ。それがきっかけでボードビルドにハマってしまったという感じなんだよ(笑)」

好奇心いっぱいの16歳は、そんな経緯で地元のシェイパーに弟子入りを果たす。そこではブランクスをカットし、プレーナーでシェイプ、サンドペーパーをかけた後、仕上げのサインを入れるまでをみっちり教わったそう。そこでしばらく腕を磨いたグラントは、ニューポートビーチの老舗ショップ〈ラッセルサーフボード〉でシェイパーとして働くことに。ここでも先輩シェイパーからあらゆるテクニックを学んだそう。また、技術を習得していくうちに、自分なりのやり方も見出していった。

彼のブランドロゴ。自身のブランドのボードは〈デイドリームサーフショップ〉などお洒落なオルタナ系ショップでも扱われている

「“ラッセル”ではロングからフィッシュ、ボンザーなど様々なタイプのボードを削る機会に恵まれて、その経験が僕にとっての基礎になっているんだ」

そう語りながら店のボードをディスプレイするグラント。常連客が立ち寄るとサーフトリップやボードの話で盛り上がる。

「カスタマーと話すことで今のトレンドが見えてきたりと、マーケティングにもなるんだよ」

彼が働く“ラッセル”はレトロなボードショップの雰囲気を継承

地元では名の知れたサーファーであり、大会でも実績を残しつつシェイパーとしても頭角を現すグラント。にもかかわらず、普段はとにかく謙虚でおごらず、常に向上心を持つ好青年といった印象だ。そんな彼はたとえ大会の成績が芳しくなくとも注目の的。昨年参加した“ダクトテープ杯”では13位という結果に終わったが、彼のダイナミックなボトムターンはギャラリーの記憶に鮮明に残っている。表舞台に立つたびに若い世代に影響を与える、強力なインフルエンサー的存在なのだ。

重圧もどこ吹く風


サーフ業界の次世代を担うと期待の高いグラント。彼が海に入るとビーチの空気が一気に変わるほどの影響力を持っている。いろいろとプレッシャーも感じることが多いはずだが、普段のグラントは非常にチルで人懐っこい性格。1日のルーティンもとてもシンプルだ。朝6時頃には起きて、コーヒーを飲んだらシェイプルームに出向いてボードをビルド。ランチを終えた後に波があれば彼女と一緒に海に入る。夕食後にスケートやフィッシングを楽しんで、午後11時すぎには就寝するのだそう。休みの日は、山や砂漠に行って、モーターサイクルも楽しむ。

ファンサーフをシェアできるガールフレンドは彼のミューズ。長い付き合いだとか

「サーフィンに熱中する前からモトクロス用のバイクでダートレースを楽しんでいた。そんなこともあってバランス力が養われたのかな。友人とアウトドアでアクティビティをしているほうが家でじっとしているよりも楽しいよ」

まとまってオフがとれるときは、愛車のダッジでサーフトリップも満喫する。

「一番印象的な旅はサンフランシスコ。ハンパないビーチブレイクや世界級のスケートパークなど僕が欲しいものがすべてあったんだ」

ショップからの波チェックはスケボーが便利。やや太めの“ディッキーズ”と〈ヴァンズ〉のスリッポンという’90sファッションがニクい!

彼の次なるプロジェクトは、“サーフ、ボードビルド、スケボー、フィッシングなど自身のライフスタイルを網羅したイメージビデオをドロップすること”だそう。現在20代のグラントだが、彼を評価するサーファーはレジェンドクラスからキッズまで年代を問わない。それはきっと、彼が古きよきサーフィンの歴史を敬愛しつつ、常に新しいものも受け入れる柔軟性があるからだろう。伸び伸びと自由にサーフィンを楽しむ彼の今後が非常に楽しみだ。

●ホームポイントはココ!
ブラッキーズ [BLACKIES]
ニューポートビーチピアの北側に位置。ビーチブレイクだがスウェルが入るとオーバーヘッドにも。サイズがなくてもロングボードなどでメローな波を楽しめる。アレックス・ノストはじめ多くのフリーサーファーが集まる場所だ。

 
Information

雑誌『Safari』1月号 P218~219掲載

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写真=宮崎良将 文=高橋百々
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