サーフ界を明るく照らすレトロスタイルの継承者
近頃カリフォルニアのサーフ業界で盛り上がっているトレンドが、若いジェネレーションのクラシックスタイル回帰。ただ昔のスタイルを模倣するだけでなく、それを彼ら流にモダンに昇華し、注目を浴びている。今回紹介するブランディンもそんな世代を代表するサーファーの1人。父に絶大な影響を受けたという、彼のサーフヒストリーとは?
●今月のサーファー
ブランディン・ズガネリス[BRANDYN ZUGANELIS]
西海岸のサーフシーンで外せない歴史的なビーチタウン、ハンティントンビーチ。サーフカルチャーが住民の生活の一部として存在し、ファミリーでサーフィンをしている光景も決して珍しくない。今回紹介するブランディンも、そんなハンティントンビーチの典型的な家庭に生まれ、父からサーフィンを教わった。
父は偉大なサーフコーチ。いまだに時間があると一緒に海に入り、フィッシングも楽しむ。ポジティブな性格も父譲りだとか
「はじめてサーフィンをしたのは2歳の頃。サーファーの父と、父の友人とその息子の4人でボルサ・チカでサーフィンをしたのが人生初の波乗りなんだ。はじめて乗った波は正直忘れたけど、バレルにはじめて入ったときの不思議な恍惚感を覚えているよ。それ以降、ますますサーフィンに魅了されるようになって海に通い続けているんだ。それからひたすら上達したくてサーフィン漬け!」
彼がはじめて波乗りをし、今でもホームポイントとなっているのがボルサ・チカ。ハンティントンビーチピアから北に5分ほど車を走らせたところにあるビーチだ。リーフブレイクのボルサ・チカはロングボードでレフトを楽しむことができる。ブランディンは、ここでクラシックなシングルフィンを乗りこなす父の姿を見て育った。彼が’60~’70年代のサーフカルチャーに魅了された原体験も、この父の姿だったという。
そんな彼に憧れのサーファーを聞いてみると、ハリソン・ローチやアレックス・ノストなど、ロングボードを独自のスタイルで乗りこなすサーファーたちや、さらにロングボードのリバイバルブームにもひと役買った’60年代のレジェンド、ナット・ヤングの名前もあがった。
「得意のハングテンが決まると終日笑顔でいられる」と爽やかな笑顔で語るブランディン photo by Kalani Cummins
最近でこそ注目を浴びる若い世代のクラシック回帰だが、当時のブランディンのよき理解者となっていたのが幼馴染みのルーク。彼らは毎日のように海に通い、相手より1本でも多く波に乗ろうと常に競い合っていたという。
「ルークとはいつもお互いを励ましモチベーションを高め合ってきたんだ。なにかに真剣に取り組むとき、同志がいればお互いに情報を交換したり、その道から外れないように気持ちを維持させてくれたりする。それから、“絶対に上達するんだ”という忍耐の大切さもルークと一緒に学んだことかな」
サーフィン漬けの毎日を送っていたブランディンに、急に転機が訪れる。それは約3年前、ニューポートビーチのブラッキーズでサーフィンしていたときのこと。海の中で〈クリス・ホール・サーフボード〉のオーナーであるクリスに出合ったのだ。
スポンサーでもある〈クリス・ホール・サーフボード〉のクリスと〈サイプレスサーフショップ〉でハングアウト
〈クリス・ホール・サーフボード〉は若いブランドだが’60~’70年代の古きよきサーフ黄金期にインスパイアされたボードブランド。そのせいか、どちらからともなく話がはずみ、ブランディンはクリスのボードを試乗させてもらうことに。彼のボードを非常に気に入り購入したブランディンは、その後本人から直接オファーの連絡を受ける。以来、〈クリス・ホール・サーフボード〉のライダーとして活躍している。苦手ではあったが大会へも多数参加、好成績も収めた。しかし、限られた時間でできるだけ多くのトリックを見せて競うのが性に合わず、最近は出場を休んでいる。
ライダーとしての主な仕事は、新しいボードのテストライディング、カタログのモデル撮影など。これらのプロジェクトでメキシコなどにトリップに行くこともあるのだとか。忙しいスケジュールの合間を縫いつつ、常にファンサーフにこだわるブランディンは、そのおかげか今までスランプに陥ることもなくハッピーな状態をキープしているそう。
「もちろん人生で挫折感を抱いたことはあったけれど、サーフィンにおいては全くないよ。むしろその逆で、いい波に乗れば乗るほど精神的に安定していく素晴らしいセラピーみたいなんだよね」
現在ブランディンは、コスタメサ(ニューポートビーチの隣町)にあるサーフショップ〈デイドリーム・サーフショップ〉でセールスとしても働いている。ここは彼のスポンサーである〈クリス・ホール・サーフボード〉を含め、クラシックタイプのマニアなボードを扱うオルタナティブサーフストア。ブランディンのような20 ~ 30代の若者たちがレジェンドたちのクラシックスタイルを継承し、再びサーフ業界に活気をもたらす中心地的場所だ。そして彼自身もまた、そんな新たなムーブメントの“核”なのだ。
今日はメローな波に合うクリスの人気ボードをお試し
実は彼が海で行うアクティビティは、サーフィンだけでない。昔から、フィッシングにも本格的に取り組んでいる。
「父の影響で3歳頃からはじめたんだ。主に波のない日やサーフィン後に行うことが多いよ。たまにキャンプのついでに湖や川でもフィッシングをすることもあるけどね。とにかく水辺で過ごすのが心地いいんだ」
キャンプも趣味のひとつ。最近行った湖でのキャンプではフィッシングを満喫。もしサーフィンに出合っていなかったら、山男になっていたそう⁉
さらに最近は、そんな愛するビーチを一眼レフでおさめることに熱中しているのだとか。
「海辺でレンズ越しに見える美しい景色を再発見するたびに自然のダイナミズムに感謝しているよ。毎回表情を変えるビーチの光景に“自然のはかなさ”も感じるんだ」
とはいえ彼の生活のベースにあるのは、やはりサーフィンだそう。毎日朝は5時半には起床し、波チェックを欠かさない。仕事が終わったあとも、波があればもちろん海に入る。
「サーフィンがあってのライフスタイルは“スタイル”ではなく、僕にとってはサーフィンそのものを享受している感覚なんだよね。うまくいえないけど、サーフィンそれ自体をシンプルに楽しんでいるんだ。人生における優先度がいつも一番上ってだけのことで、それを素直に続けることで自信に繋がり、精神的にも強くヘルシーでいられるよ」
ビーチ必須アイテム。ショーツは日本のブランド〈イエローラット〉を愛用!
先日、オーナーのクリスとメキシコでのトリップを終えたばかりだが、すでに次回のトリップの話も進めているそう。
「まだわからないけど、おそらくノバスコシア周辺に行く予定だよ。コロナで大変な時期だけど僕らには常に明るい未来が待っているんだ」
●ホームポイントはココ!
ボルサ・チカ[BOLSA CHICA]
ハンティントンビーチとシールビーチの間に位置。リーフブレイクで安定して波が立ち、ロングボードに適したスポットとして有名。特にレフトが決まる。週末は海沿いのパーキングに駐車して1日中ハングアウトするサーファーも多い。
雑誌『Safari』12月号 P251~252掲載
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photo : James Chrosniak(Seven Bros. Pictures), Hayato Masuda text : Momo Takahashi(Volition & Hope)