【楢﨑智亜】表彰台に届かない悔しさが成長の糧に!
世界選手権ではボルダリングと複合で通算3個の金メダルを獲得し、W杯ではリードで4度表彰台に上がった実力を誇る。2大会連続出場の切符を掴んでパリ五輪に挑む日本のエースが、失意の東京五輪を語る。
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- アスリートの分岐点! vol.42
TOMOA NARASAKI
TURNING POINT
2021年8月5日
東京オリンピック
スポーツクライミング男子複合決勝
昨年8月にスイスで行われたクライミング世界選手権男子複合で銅メダルを獲得し、パリ五輪日本代表に内定した楢﨑智亜。2021年開催の東京五輪では、金メダルの最有力候補に挙げられながらも4位に終わり、メダルには届かなかった。その悔しさを晴らす挑戦権を得た楢﨑が、リベンジを誓った東京五輪のことを分岐点として語ってくれた。
「2019年の世界選手権で優勝して代表内定を獲得後、調子が上がってきていた状態で挑んだ大会でした。フィジカルの面でいえば絶対に勝てる大会だと思っていたのですが、それまでの世界大会にはない感覚があって、いいパフォーマンスが発揮できず。自分をうまくコントロールできていませんでした」
コロナ禍によって開催が1年延期されたことなども影響し、今思えば、自ら様々な重圧を抱え込んでいたという。
「クライミングが競技として初採用された五輪で、しかも自国開催。さらに自分自身もはじめてのオリンピックでした。五輪以前のそれまでの国際大会はあくまで自分自身の戦いで、なんというかすごく身軽な感覚がありました。でも、東京五輪では様々なものを背負ってしまっている感じがして、身体がうまく動いていませんでした。自分が結果を出せばクライミングが今まで以上に注目されて、競技が盛り上がっていくかもしれないということなど、いろいろ考えてしまった。戦い方もそうですが、気持ちの面で勝てる状態ではなかったですね。緊張ということでいえば、東京五輪ほど緊張したことはなかったと思います」
東京五輪のクライミングは、スピード、ボルダリング、リードの3種目で総合順位を決める複合競技として行われたが、楢﨑は最初のスピードでつまずくことに。当初決勝は8人で戦う予定だったが、スピードが強いフランスの選手が棄権し、7人で争うことになった。スピードが得意な楢﨑は、この種目で1位を獲得できる可能性が高まったが、逆に「戦い方に迷いが生じてしまっていた」のだという。
「自分に一番タイムが近い選手がいて、ここで彼に競り勝つことができればいい流れだと思っていたのですが……。欲が出てしまったせいで力が入りすぎ、足をスリップさせてしまいました」
それでも「最低限の2位は取れた」と気持ちを切り替え、同じく得意種目であるボルダリングで巻き返しを図ることに。しかし、3つあるボルダリングの課題のうち、ふたつめを登りきることができず。セッティングされた課題が難しすぎて3つめの課題を誰も登ることができなかったこともあって選手たちのリザルトが分かれず、優位に立つことができなかった。結果的に「スピードとボルダリングを終えた時点で勝負を決めておきたい」と思い描いていたゲームプランが、現実と噛み合わなくなってしまった。
「自分で重圧を背負ってしまっていたこともありますが、フィジカルの面でも五輪前の1年で伸びたので、いろいろなことに手をつけすぎてしまった部分もあったかもしれません。毎年4月のW杯に向けて、シーズン終了後から半年くらいかけてトレーニングをするのですが、東京五輪の年はコロナ禍の影響でW杯の開催も延期され、トレーニング期間も延びました。そういった期間にできることを増やしていくと、それを洗練させていく時間も必要になってくるのですが、そこがちょっと足りなかったという思いもあります。たとえば、筋力が上がったらすぐに競技力が向上するわけではなく、それを技術に紐づけていく作業も必要になります。それと同じようにうまくまとめることに対する意識も、今思えばもっと必要だったのではないかと思います」
そんな東京五輪の雪辱を果たす思いで挑むパリ五輪に向け、どんな思いでクライミングと向き合っているのだろう。
「パリ五輪でのクライミングは、ボルダリングとリードの2種目の複合競技になります。そうなるとボルダリングで確実に1位を取りつつ、リードでどれだけ点数を稼げるのかが重要になってくるので、今はリードの強化として無駄なく効率よく動くトレーニングなどに取り組んでいるところです。東京五輪で金メダルを獲得できなかったのは、やはり精神的にきつかったですね。でも結局試合中に戦うのは自分なので、今は自分にフォーカスすることを意識してクライミングと向き合っています。僕にとって今まで一番悔しかった経験は、やはり東京五輪で金メダルを取れなかったこと。その気持ちは、五輪でしか返せないと思っています」
スポーツクライマー
楢﨑智亜
TOMOA NARASAKI
1996年、栃木県生まれ。小学校4年から兄の影響でクライミングをはじめ、宇都宮北高を卒業後、プロとして競技に専念。2016年のクライミングW杯のボルダリングで日本男子初の年間総合優勝を果たす。2019年の世界選手権3種目複合で優勝して出場した東京五輪で、4位入賞。
TAMURA’S NEW WORK
全日本フィギュアスケート選手権
樋口新葉や坂本花織、宇野昌磨、“りくりゅう”ペアというトップスケーターに加え、三浦佳生、島田麻央、鍵山優真といった次世代を担うスケーターを大会のシンボルとして表現。「この競技ならではの表情の豊かさにもこだわって描きました」
力強さと華麗さを感じる作品に
今にも動き出しそうな躍動感で描かれた、日本を代表するフィギュアスケーターたち。これは昨年末に開催され、フジテレビで中継された“全日本フィギュアスケート選手権2023”のために田村が描き下ろしたメインビジュアルだ。
「昨夏に“ワイドナショー”という番組に出演させていただいたのですが、それを見たプロデューサーの方からお声がけいただいたんです。本気で絵と向き合っていれば、見ている人は見ていてくれるんだということを改めて実感しました」
他競技とはまた少し違う意識で描いた。
「フィギュアスケートは、選手のみなさんが長い時間をかけて美しさを極め、芸術性を表現するアート作品のような魅力がある競技。その中でも今回は、全日本という大きな舞台で戦うトップクラスの表現者であることを意識して描かせてもらいました。力強さだけではなく、華麗さも表現している競技の素晴らしさが伝わるような作品になっていれば嬉しいです」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。Instagram:@dai.tamura
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雑誌『Safari』4月号 P166〜168掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO