【河村勇輝】常に前を向けるのは忘れられない“負け”があるから!
高校生Bリーガーとして頭角を現し、プロ1年めで横浜ビー・コルセアーズの主戦力となった河村勇輝。日本代表で次世代を担う存在でもある若き司令塔が、悔しさを晴らさずにはいられない敗戦について語る。
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- アスリートの分岐点! vol.28
YUKI KAWAMURA
TURNING POINT
2021年12月12日
第73回全日本大学
バスケットボール選手権大会決勝
VS 白鴎大学
日本代表で躍動をさせる!
バスケの名門・東海大学時代に、特別指定選手として横浜ビー・コルセアーズに加入した河村勇輝。プロ契約を結んで迎えた今シーズンは、2試合連続のキャリアハイ得点更新で、チームを連勝に導き存在感を発揮している。そんな河村が分岐点として心に秘めているのは、東海大学時代のインカレ(全日本大学バスケットボール選手権大会)で白鴎大学と対戦した決勝戦。
当時2年生だった河村は、スター軍団といわれた東海大学の主力としてコートに立ち、連覇をかけて戦った。試合の出だしは河村のピンポイントパスを起点とする連続得点でリードを奪う。第2クォーターも八村阿蓮が決めた3ポイントシュートなどでリードを2桁に広げ、東海大学が試合の主導権を完全に握ったかに思えた。
しかし、決勝初進出の白鴎大学が持ち味の堅守で劣勢に耐え、ディフェンスの強度を落とさない。勢いそのままの白鴎大学は、第4クォーターに攻勢をかけ63-58で逆転勝ち。河村は12アシストの活躍を見せたものの、チームは苦杯を喫することになった。
「絶対に勝たなければならない試合に2年生ながら先発として出させてもらいました。それにもかかわらず、勝つことができなかった。あのときの悔しさは、今でもずっと消えずに残っています。僕は大学を2年生で中退してプロ入りする決断をしたので、もうあの悔しさは同じ場所で晴らすことができません。一方で、負けた経験を生かすも殺すもやっぱり自分次第なんだとも考えられるようにもなりましたし、その悔しさを持って今は戦っている。自分にとってそれは、大きな原動力になっています。プロのバスケットボール選手として、Bリーグという大きな舞台で、この悔しさを晴らしてやろうと戦っています」
試合を振り返ってみて、プレッシャーとの向き合い方に課題を見出した。
「あの試合では、絶対に勝たなくてはいけないという強い気持ちはもちろんありました。しかし劣勢になったときに、その勝って当たり前という状況を、プレッシャーにしてしまった。同時に、ポイントガードとして完全に冷静さを失っていました。自分の役割をまっとうできていなかったんです。ポイントガードはコートの中の監督とよくいわれます。それだけ、チームの中で一番冷静でいなければならない。でも、試合終盤の重要な局面で集中ができていませんでした。すごく保守的になってしまったというか、慎重になりすぎていましたね。僕本来のプレイスタイルとは、全く違うところでバスケをしてしまっていたんです。試合で結果を出したり、いいプレイができているときというのは、純粋にバスケを楽しんでいるとき。ミスを恐れず、ガンガンやっていくのがやっぱり僕のスタイルなんです。保守的になったことで、そこをうまく出せなかったことが大きいですね」
河村は’22年7月のFIBAバスケットボールワールドカップ2023アジア地区予選で日本代表デビューを飾り、若き司令塔として全10試合に出場。「世界と戦った経験を所属チームに還元することも日本代表になった選手の役割」という意識を持ち、双方の戦いに挑んでいる。
「日の丸を背負って戦うということは純粋に夢でしたので、夢がひとつ叶った。でも、代表に入ることだけが夢ではなくて、ようやくスタートラインに立てたという意識のほうが強い。また、その先に大きな夢を見据えています。次はやはり、世界で通用するポイントガードになるというところを目標にしています。そのためにも、着実にステップアップしていかなくてはならない。トム・ホーバス監督が指揮する代表チームでは、パスを供給してアシストを増やすというところが強く求められていますが、そこは自分の持ち味としてやってきた部分。その軸はブラさず高めていきながら、得点を狙う姿勢も持つ必要がある。特に3ポイントを狙える場面では、もっと積極性を出して狙っていかなくてはならない。だから、点を取る意識というのは、代表での活動を通して成長してきていると思います」
日本代表の次世代を担う存在として、思い描いている夢もあるようだ。
「サッカー日本代表の戦いぶりに感動を覚えました。やはり、日本代表が勝つ姿を見られるのは非常に大きなこと。そこが男子バスケに必要な部分だと思います。勝利を積み重ねていくことで興味を持ってくれる子供たちが増え、相乗効果でバスケが盛り上がっていく。そうした熱狂を作る選手の1人になること。それもまた、大きな夢のひとつです」
バスケットボール選手
河村勇輝
YUKI KAWAMURA
2001年、山口県生まれ。福岡第一高校在学中にBリーグの三遠ネオフェニックスに特別指定選手で加入。当時の史上最年少出場、史上最年少得点を更新。新人賞ベストファイブ受賞。2020年に特別指定選手で横浜ビー・コルセアーズに加入。2022年3月に来期のプロ契約を締結。
TAMURA'S NEW WORK
ラーメン専門店 玉
一番人気のメニュー“特製濃厚味噌らーめん”を描いた作品。「僕はネギが苦手なのですが、そんな苦手なネギさえもが美味しく見えるようシャキシャキ感にこだわって表現しています。そういった食材の生産者の方も含めて考えると、ラーメンも総力戦ですよね」
ラーメンを“チーム”として描いた
今回紹介するのは、田村が食という新しいジャンルと向き合った作品。濃厚魚介醤油スープで人気を博すラーメン専門店〈玉〉の看板メニューを、スープの濃厚さが伝わりそうなリアルさで描いた。
「〈玉〉は海外にも出店していて、新しいことに挑戦したい意欲のあるお店。アートの力で目を引きたいという依頼を受けたのですが、僕にとっても挑戦でした」
スポーツと重ね合わせて表現した。
「半熟の卵ひとつとっても作り手のこだわりが詰まっていて、個性がある。そういった異なる個性を持つ具材の集合体が、ひとつの美味しさを作り出す。そこにスポーツチームを描くときとの共通点を感じたんです。表面に油が浮くスープから、立ち上がる匂いまで伝わってほしいという思いで描きました。この作品をSNSで見た格闘家の方が、“減量中だったらヤバかったくらいウマそう”っていってくれて。それでこの作品は成功したかもって思えました(笑)」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは20万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
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雑誌『Safari』2月号 P196~198掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO