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CULTURE カルチャー

2018.05.10


『モリーズ・ゲーム』『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

セレブで選ぶ編
ムネアツなポイントは?“脇役ケヴィン・コスナーにS級の輝き!”
『モリーズ・ゲーム』

『ソーシャル・ネットワーク』の脚本家アーロン・ソーキンが初監督・脚本を務めた本作は、米女子モーグルの五輪候補選手が、高額ポーカーの経営者に転身したという驚きの実話を描いたもの。主人公のドラマチックな半生と、彼女を演じたジェシカ・チャステインの好演も素晴らしいのだが、ここでは思わずムネアツとなるポイントとしてケヴィン・コスナーの存在感をあげておきたい!



ケヴィン・コスナーは1987年『アンタッチャブル』のヒットにより注目を浴び、その後『フィールド・オブ・ドリームス』、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』、『ボディガード』の大ヒットにより世界的スターへと登りつめた。しかし近年、主演作でのヒットに恵まれず、“90年代の大スター”という存在に。そんな彼が再び脚光を浴びるようになったのが、2013年『マン・オブ・スティール』だ。クラーク・ケントの養父役を深みある演技で表現し、リブートしたスーパーマンと同等の注目を集めたのだ。

新たに手に入れた脇役として魅力は昨年の『ドリーム』でも観てとれるのだが、本作でも実に味わい深い演技を披露している。役柄は、ジェシカ演じるモリーの父親役。五輪候補選手を育てた父親だけに、ひたすら練習を課す厳格な人物なわけだが、当然モリーとの関係は上手くはいかない。そして競技中の事故でアスリート人生が絶たれたことを機会にモリーとは、疎遠となってしまうのだ。



物語の中心は、ポーカー経営で巨額のマネーを動かす、その後のモリーの華麗なる転身ぶりだ。つまり、その間父親であるケヴィン・コスナーは回想シーン以外に登場することはない。しかし、終盤モリーが人生の崖から転げ落ちたときに、ふと姿を現わすのだ。そこでのやりとりはネタバレになるので詳しくは書けないが、その存在感、過ぎ去った長年の月日を想像させるシブ〜い演技が、観る者をグッと感動させるのだ!



本作は、モリー本人が2014年に出した回顧録がベースとなっていて、アーロン・ソーキン自らがモリーへの取材を重ね、本では書かれていない父親との複雑な関係もシナリオに盛り込んだ力作だ。モリーの人生逆転ストーリーとともに、ケヴィンの演技と父娘のヒューマンドラマにも是非、着目して欲しい。



『モリーズ・ゲーム』
原作/モリー・ブルーム 監督・脚本/アーロン・ソーキン 出演/ジェシカ・チャステイン、イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー、マイケル・セラ 配給/キノフィルムズ/木下グループ
2017年/アメリカ/上映時間140分

5月11日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
©2017 MG’s Game, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
 

 

物語で選ぶ編
ムネアツなポイントは?“徹底したナチュラル演技が奇跡の感動を呼ぶ!”
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』



フロリダの人気観光スポットであるディズニー・ワールド。周囲には高級ホテルもあるが、できるだけ安く訪れたい人のためのモーテルも建ち並ぶ。しかしそのモーテルには、自分の住居がない人々が長期間、住み着いていた…という、何やら切実なストーリー。ところが、映画のムードは温かく軽やか! そのギャップが心地よい1作だ。



主人公は6歳の少女ムーニー。彼女を中心に、モーテルで暮らす子供たちの日常は、駐車している車に2階からツバを吐く競争とか、プールサイドにトップレスで寝転ぶオバサンの覗き見とか、いい意味での“くだらない”遊びに夢中になって、微笑ましいばかり。大人たちも経済的に余裕はないが、毎日を逞しくサバイブして、切実さよりも前向きさが上回っている感じ。その姿は観ていて爽快だ!



この映画、何より魅力的なのは、映像の美しさ。観光地を意識して、各モーテルの外壁はパステルカラー。紫やブルー、ピンクにグリーンと、その淡い色調はテーマパークの雰囲気そのもの。レストランの外観や看板などもいちいち大げさでかわいい。フロリダの強い日差しに反射すると、そのパステルカラーは魔法のように観る者を虜にしてしまう。視覚でハッピーな気分にさせるわけで、ここまで「色」が印象的な作品も珍しい。



さらに驚くのは、俳優たちの演技。ムーニーの母親で、本作のもう1人の主人公であるヘイリーを演じたのは、監督がインスタグラムで発見したという演技初体験のブリア・ヴィネイト。気に入らないと過激な行動もとる、かなり奔放なシングルマザーなのだが、その自由な表現力や強烈な存在感は必見。住人たちをときにシビアに、ときに温かく見守る支配人役のウィレム・デフォーは本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたし、子役たちの演技も徹底的にナチュラル。とくにクライマックスのムーニーの表情は、こちらも思わずもらい泣きするレベル。まさに奇跡の瞬間!



監督のショーン・ベイカーは、前作『タンジェリン』を、なんとiPhoneのみで撮影して話題になった。多くの映画賞で受賞・ノミネートを果たした前作もそうだったが、厳しい現実と闘う登場人物に対し、徹底してカメラが同じ視線で寄り添うので、観客は彼らがどんどん好きになってしまう。ムーニーやヘイリーに少しだけでも共感してしまったら、ラストシーンのその先を想像して、さまざまな感情が沸き起こってくるはず!



『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
監督・脚本・編集/ショーン・ベイカー 出演/ブルックリン・キンバリー・プリンス、ウィレム・デフォー 配給/クロックワークス
2017年/アメリカ/上映時間112分

5月12日より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
©2017 FLORIDA PROJECT 2016,LLC.

文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito

 
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