〈ジラール・ペルゴ〉ロレアート “GIRARD-PERREGAUX LAUREATO”
老舗マニュファクチュール、〈ジラール・ペルゴ〉の ロレアートは、今あるラグスポの始祖のひとつ。 幾何学的に美しいベゼルやケース一体型のブレス、 優れた自社製ムーブなど初代からの伝統を継ぎ、 メゾンのアイコンとしての役割を果たす。
ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。124万円(ジラール・ペルゴ/ソーウインドジャパン)
オールマイティに使えるベーシックモデル
初代の雰囲気を色濃く継ぐ中3針を、大型ケースでモダナイズ。スポーティかつエレガントな外観は、カジュアルにもスーツにも似合い、どんなシーンにもハマる。
➊八角系ベゼル
下記のように、大聖堂の円蓋をモチーフとした円と八角形を重ねたベゼルが、外観上の最大の特徴。円はポリッシュ、八角形はサテンと仕上げ分け、反射をコントロールすることで特徴的な造形と表情をより豊かにしている。
➋クル・ド・パリのダイヤル
歴代モデルの中には一部例外も存在するが、ダイヤルは小さなピラミッド状の突起が整然と並んだクル・ド・ パリ装飾を施すことが基本。高級感と立体感とを高め、 また光の反射を抑えて視認性を高める役割も果たす。
➌ケース一体型ブレスレット
ケースとブレスとが切れ目なくひと続きになる。1975年に誕生した初代で実現したケース一体型のブレスレットは、その後多くのラグスポのスタイルに影響を与えた。 そのブレスも異なる仕上げを組み合わせ、質感が豊か。
ロレアートの外観を手掛けたのは、イタリア人デザイナーだった。彼はそのモチーフを、 イタリア・フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フォーレ大聖堂のドーム状の円蓋に求め、円と八角形とが重なるアイコニックなベゼル形状を創造したという
ロレアートは、スイス時計界冬の時代の最中の1975年に誕生した。日本製クォーツに席巻された、今でいうクォーツショックの時代だ。〈ジラール ・ペルゴ〉は、それに対抗すべく自社製クォーツを開発。初代ロレアートは、それを搭載した最初期のモデルのひとつだ。ブレス一体型の新鮮な外観 にクォーツムーブを搭載したことで、ロレアートは〈ジラール・ペルゴ〉の新時代を開いた。
さらに映画『卒業』ともリンクする幸運にも恵まれて大ヒット。メゾンの歴史を、また時計史を語るうえでも欠かせない名作となった。
スイス時計業界にクォーツショックが吹き荒れた1970年代、いくつかの老舗高級時計ブランドは、打開策として今までにないジャンルの時計を生み出そうと試みた。ラグジュアリー・スポーツウォッチである。図らずも'70年代に、現代に至るラグスポの始祖が4つ誕生している。そのいずれもがステンレススチール製で、ケースと一体化するブレスレットを大きな特徴としていた。
1975年に初代がリリースされたロレアートも、同年代に誕生したラグスポの始祖のひとつだ。他の3つとの一番の違いは、ムーブメント。3社が同じ薄型の自動巻きを用いていたのに対し、ロレアートは自社製のクォーツムーブメントを搭載していたのだ。〈ジラール・ペルゴ〉は1971年、スイスでいち早くクォー ツムーブの自社開発に成功。そのとき採用した振動数3万2768Hzは、その後のクォーツムーブの世界基準となった。さらにヌーシャテル天文台によるクロノメーター認証を受けてもいる。
3万2768Hz
ロレアートが搭載した自社製クォーツは、3万2768Hz。Hzとは1秒あたりの周波数で、 2の15乗である3万2768Hzの振動はIC回路で15回半減させると1Hz、つまり1周期1秒となる。3万2768Hzは中途半端な数値のようで実は理にかない、 だから世界基準となったのだ
ラグスポという新ジャンルを開き、さらにムーブメントも時代の先端を行った初代ロレアートは、時計史にその名を残す傑作。ケースをブレスレットと完璧に調和させ、完全に一体化させるために、 それまであったストラップなどをとめるラグをなくした一体構造も考案し、高度な鍛造(スタンピング)で豊かな造形美を叶えていた。この技法は、現行のロレアートにも受け継がれている。
一体型ケース
ロレアートは、最初からブレスレットと一体化するようにデザインされた。ゆえにストラップを後付けする既存のケース形状とは異なり、ラグはなく、上下はブレスレットの最初の1コマめのような造形となっている。この形状は、高圧での鍛造を繰り返し行うことで得られる
またモデル名も、時代が味方をした。 ロレアートとは、イタリア語で“資格を有する者”との意で、クロノメーター取得にちなむ。そして当時、ダスティン・ホフマン主演の映画『卒業』(イタリア語題イル・ロレアート)がロングラン大ヒットしていた。映画の題名とモデル名とがリンクして絶大な知名度を得て、ロレアートはメゾンのアイコンとなったのだ。
映画『卒業』
花嫁を略奪するラストシーンが印象的な青春ムービー。ダスティン・ホフマン主演の1本は、1967年の公開。世界的にロングランヒットをし、 そのイタリア語題が図らずも『イル・ロレアート』であったため、まず同地で時計もヒット。その後、世界各地でも知名度を大きく高めた
ラグスポの始祖のひとつにして、スイス製クォーツの先駆け、初代ロレアートは1975年に誕生した。同じ年代にリリースされた3社のモデルとの違いは、ムーブメント以外にもあった。唯一、ベゼルをゴールドとしたバイカラーだったのである。
まずイタリアで火がつき、世界的な大ヒットとなった初代ロレアートは、1984年にモデルチェンジされ、ブレスレットが今と同じH型リンクへと変更。さらに機構的なバリエーションも増やされて、クォーツで天文表示搭載モデルまでもがラインナップされた。
自社製クォーツを搭載する初代ロレアートは、ダイヤルの6時位置にクォーツとクロノメーターの文字を刻む。円と八角形のベゼルは、ミラノ在住の建築家アドルフォ・ナタリーニのアドバイスから生まれたとか。そのベゼル部分だけをイエローゴールド製として際立たせ、ケースとブレスレットもバイカラーに
左と中は、初代誕生当時の広告ビジュアル。メンズとレディスの2サイズ展開だったとわかる中の広告には、 公式に精度が認められたクォーツとのコピーが入ってい る。右は、現行モデルのロレアートのスケッチ。初代の誕生当時と同じ手描きで、まず原型が検討された
リニューアルに伴い、クォーツでポインターデイトや均時差を表示するイクエーショ ン・オブ・タイム、さらに星座表示まで備えた複雑時計をラインナップ。ブレスレットは、今と同じH型のリンクを長方形のリンクで繋ぐ構造へと変更された
初代、そして第1世代のロレアートが象徴するように、スイスでクォーツ技術を先導した〈ジラール・ペルゴ〉に1992年、大きな転換期が訪れる。後に時計界の重鎮の1人に数えられる名伯楽ルイジ・マカルーソがCEOに就任。高級時計に機械式の時代が来ると予見した彼は、新たな自社製機械式ムーブメントの開発を支持した。
そうして生まれたキャリバーGP3100は、1995年に新型ロレアートに搭載され、以降、同コレクションは機械式として進化を遂げていく。'98年には、メゾンを象徴する複雑機構スリー・ゴールド・ブリッジ・トゥールビヨン搭載モデルが登場。また2003年にリリースされた、よりケースを大型化した“ロレアートEVO3”は、パーペチュアルカレンダーなど複雑機構をメインに多彩なモデルをリリースしてきた。
1994年に完成した自社製薄型自動巻きCal.GP 3100を搭載して刷新。機械式の採用に伴い、ケースとベゼルとが大型化された。一方、クォーツモデルよりもケースは薄くよりエレガントに。フルゴールドモデルもラインナップ
ダイヤル側にゼンマイを納めた香箱と主軸列、トゥールビヨンのキャリッジを支える3本のブリッジを露わにするスリー・ゴールド・ブリッジ・トゥールビヨンがロレアートに初登場。ラグスポの機械式複雑時計の先駆に
2010年、ルイジ・マカルーソが急逝。コレクションの見直しが図られ、しばらくロレアートはカタログから姿を消した。しかし2016年に限定モデルとして復活すると、たちまち完売。翌年には、レギュラーモデルとして復活を果たす。さらに昨年には、ブラック×ブルーをコンセプトとした“アブソルート”コ レクションも仲間に加わり、元祖ラグスポはより現代的な魅力を高めた。
しばらく姿を消していたロレアートが、ホワイトとブルー各225本限定で復刻。アイコンの復活に時計ファンは歓喜し、たちまち完売。これをきっかけに翌年、レギュラーモデルとしてロレアートは帰還を果たすことに
黒で宇宙をブルーで地球を表現した新コレクション。ステンレスに代わり黒いラバーストラップが初採用された。これはケースもカーボンにブルーグラスを混ぜこみブラック×ブルーとした“ロレアート アブソルート ロック”
2017年にレギュラーモデルに返り咲いたロレアートは、4サイズの中3針が用意された。翌年にはクロノグラフがラインナップされ、そして昨年はア ブソルートが登場し、さらにトゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーといった複雑機構もラインナップ。 アイコニックな円と八角形を重ねたベゼルはそのままに、機構や素材で選択肢を増やした。どれも自社製機械式ムーブメントを搭載しているのが、名門マニュファクチュールの矜持。なか でもクロノと複雑機構、ブラック×ブルーのアブソルートは、大注目の3本だ。
ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。166万円(ジラール・ペルゴ/ソーウインドジャパン)
魅力が高い薄型クロノ
あえてクロノグラフモジュール式とすることで、機械を薄型化。ケースも薄くなり、エレガントさと装着感とを高めた。レーシーなパンダダイヤルに、ブルーが効く。
ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。381万円(ジラール・ペルゴ/ ソーウインドジャパン)
複雑機構搭載モデル
新型永久カレンダー搭載モデル。日・ 曜日・月・閏年の各表示がアシンメトリックなレイアウトになっているのが、極めてユニークだ。左下のボタ ンで、暦表示が一斉送りできる。
ケース径44mm、自動巻き、 チタンケース、ファブリック、ラバーストラップ。109万円(ジラール・ペルゴ/ソーウインドジャパン)
立体的な地球を表現
宇宙に似た黒いケースに、地球に見立てたブルーグラデのダイヤルが浮き立つ。秒針のレッドが、絶妙なアクセントに。300m防水へと進化。
希少な904Lを使用!
SSには、いくつものグレードが存在する。腕時計で多用されるのは、医療用メスにも使われる316Lスチール。対して現行ロレアート クロノグラフは、より高級な904Lスチールを用いている。クロムとニッケル、モリブデンの含有量が多く、銅も含む904Lは硬く、耐蝕性に優れるが、加工が難しく採用しているのは数社だけ。長く研鑽した鍛造技術で、〈ジラール・ペルゴ〉は904Lを自在に操る。
●ソーウインドジャパン
TEL:03-5211-1791
雑誌『Safari』4月号 P232〜235 掲載
text : Norio Takagi