トレジャリー・ワイン・エステーツ ジェネラル・マネージャー――アレックス・ヒル
日本人の母とオーストラリア人の父を持ち、英語も日本語も堪能。現在は世界最大のワイン会社のひとつ、トレジャリー・ワイン・エステーツのジェネラル・マネージャーとして、日本におけるファインワイン文化の醸成を目標に活動しているアレックス・ヒル。
- SERIES:
- ビジネスセレブの「時を紡いで」 vol.13
●今月のビジネスセレブ
トレジャリー・ワイン・エステーツ ジェネラル・マネージャー
アレックス・ヒル[Alex Hill]
Profile
オーストラリア、ヴィクトリア州の州都メルボルン出身。ファインワインに対する造詣が深く、これまでオーストラリア・日本の両国でワイン業界に携わる。過去に金融関係に従事していたため、経済に強く、この20年間は海外のワイナリーや大手小売チェーン店のワインバイヤーなど様々な業態で活躍し、自社のみならず広いワインの知識を持つ。
オッチス アンド ジュニアムーンフェイズ
●愛用歴/約10年
●購入場所/公式オンラインブティック
●使用頻度/ほぼ毎日
購入時はグリーン文字盤&白い針を選んだが、数年前にグッとシックな色みへとカスタマイズし直した。パーソナライズも魅力。
「文字盤のデザインだけでなく、ストラップの構造も非常に個性的。独自構造で着脱がとても簡単です。さらにつけ心地もよくて、実用面でも大変優れている時計だと思います」
オッチス アンド ジュニア[OCHS UND JUNIOR]
ムーンフェイズ〈右〉
2006年に、世界的な数学者であり時計師であるルートヴィヒ・エクスリン博士と、ビート・ワインマンによってスイスで設立された、独立系マニュファクチュール。ブランドロゴはおろか、文字要素をいっさい排除したダイヤルがこのブランドの非凡な個性を語る。このムーンフェイズの月齢表示は、たった5つの歯車によって3478 . 27年に1日しかずれが生じないほど正確さを誇る。
そんな彼が愛用しているのは、よほどの時計愛好家でなければ知りえない、珍しいブランドのものだ。この〈オッチス アンド ジュニア〉はスイスのルツェルンに本拠地を置く、本格時計のマニュファクチュール。素材、デザイン、技術のシンプルさを追求するとともに、年間製作数を130本ほどに抑えることで、腕時計の美しさを究極まで高めている。
「あまり広く一般に知られていないブランド、むしろアンチブランドと言えるのではと思います。私がその存在を知ったのは、2006年。インターネットで、デザイナーであり時計師のルートヴィヒ・エクスリン博士についての記事を見つけて読み、とても興味をひかれたんです」
〈オッチス アンド ジュニア〉の創業者のひとりであるエクスリン博士は、かつて〈ユリス・ナルダン〉で代表的コレクションであるフリークなどを手掛けた時計デザイナーであり、また有名な天文時計の修復も担当していた。
「私は彼が、混じりけのない純粋でユニークな“複雑さ”を備えた腕時計を製作するためにベンチャー企業に移ったことを知り、いつかその時計を手にしたいと思いを温めていました」
アレックスがこの時計を手に入れたのは、それから約3年後。
「結婚10周年の2009年に、妻との特別な思い出が欲しいと思い、プレゼントを準備することにしたのです。そのときに彼女が選んだのが〈オッチス アンド ジュニア〉でした。彼女が選んだ決め手は、私が強い関心を持っていた多くのトピックーーたとえば家族、自然界における時間の概念、原材料が公開されていること、明確な意図を持ったデザイン、オンラインで直販したりD2C経済の発展などを反映していたからです」
いくつかある〈オッチス アンド ジュニア〉のユニークなコレクションの中から、アレックスがチョイスしたのは、月齢を表示するムーンフェイズ機構が搭載されているモデルだった。
「この時計は、3478・27年にわたって、月の満ち欠けを正確に追跡する非常にエレガントに設計されたムーンフェイズメカニズムを採用しています。シンプルで上品なデザインと、このムーンフェイズ機構の視覚的配置が優れていたのでこのモデルに決めました。この時計は、私の大好きなワインも含めて、太陰月や季節、太陽年の中で働く自然界とともに生きていることを思い出させてくれるのです」
実際に手に入れ使っていく中で、アレックスはどんどんこの時計の魅力に惹きこまれていったという。
「エクスリン博士が創造したこの時計はコンプリケーションの反対で、できるだけ簡単にシンプルに結果を出したいという、数学のエレガンスが息づいています。できるだけシンプルにいろいろなデータを伝える、数学の博士らしいフィロソフィーですよね」
歳月を重ねていくうちに出てくる使用感も、味わいのひとつだ。
「傷がつくと当初のイメージが崩れてしまう時計ってありますよね。誰もが知るメジャーなブランドの華やかな時計にはそういうものが多く、そんな時計を大事に大事に使うというのもいいけれど、私は、傷がつけばつくほどパーソナライズできる、そんなところもいいなと感じています。ヴィンテージのレザーグッズなどもそうですよね」
チタン製のケースの裏蓋には、うさぎの刻印。実はケースバックもパーソナライズが可能で、アレックスは自身の干支であるうさぎの姿を刻んだ。誰もまだ知らないブランドを発掘して、調べて、惚れこんで手に入れる――有名なラグジュアリーブランドの名品とは全く異なる時計の楽しみ方を彼は〈オッチス アンドジュニア〉から享受した。
「私とこの時計との関係は非常にユニークです。前述しましたが、これは多くの有名ブランドの時計と違って、決して大量生産されたものではありません。ケースも機械から出てきたままであえて磨きをかけていません。だから機械の指紋のようなものがついていて、すべてが世界でひとつのユニークピースです。また、ケース素材から文字盤や針の色など、すべて自分好みにカスタマイズができ、また、気分を変えたくなったら文字盤や針の色をチェンジすることも可能です。ピカピカの、いわゆるトロフィーウォッチと違い、確かに使っていくことで、味わいを出していくことでまた愛着が深まっていきます。高級なボトルワインやオーダーメイドのスーツ、レストランで用意される皿のように、それぞれが所有者ごとにユニークなのです」
Company Information
世界最大のファインワイン大手
〈ペンフォールズ〉〈ウルフ・ブラス〉〈ベリンジャー〉などの有名ワインブランドを持つ、世界最大のワイン会社のひとつ。自社畑、契約畑、栽培家所有の畑など大規模なワイン市場の高品質な葡萄へのアクセスがあり、伝統的なワイン造りの技術と近代技術を活用し、現代のワインメイキングを主導している。一方、各国の市場にマッチしたマーケティングモデルを採用することによって、地域のビジネスチャンスを最大限に生かしている。
雑誌『Safari』4月号 P222・223掲載
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photo : Yoshifumi Ikeda text : Kayo Okamura