波と音楽に生きる生粋の西海岸ガイ、スペンサー・アラーコン!
波乗りと音楽を融合させたグルーヴィーな生活を送るのが、今回紹介するスペンサー。幼少からサーフィンとともにあるライフスタイルを送り、ミュージシャンの夢を叶えた今でもツアーの合間を縫って海に通うソウルサーファーだ。ロガーが集うサン・オノフレのビーチでもひときわ存在感を放つクラシックなスタイルを持つ彼。その背景にあるものを覗いてみよう。
今月のサーファー
スペンサー・アラーコン
[SPENCER ALARCON]
©Vitor Viana
南カリフォルニアの有名なサーフタウンのひとつ、ハンティントンビーチ。多くの大会が行われるこのエリアは波質がよく、安定して波乗りが楽しめる場所だ。ここで育ったスペンサーは、わずか1歳でサーフィンをはじめた生粋のサーフボーイ。はじめは父とともに1つのボードで岸へ向かい、父の支えで一緒にボードに立っていたのだそう。
「はじめて自力でボードに立ったのは僕が13歳のとき。ようやく真剣にサーフィンをやろうと決心したんだ。ちょうどパドルの感覚を掴んだ頃だったと思うよ」
まだ運転免許が取れなかった年齢なので、歩いて通えるハンティントンビーチのピアをはじめ、リバー・ジェッティやマグノリア・ストリート周辺で腕を磨いたそう。また、海でサーフィンを楽しむと同時に陸ではスケートに夢中になった。ビーチや友人の家など、どこに行くにも移動する手段はスケボー。日々のスケートで培ったターンやバランスなどのスキルは、波乗りを上達させるためにも生かされていった。
「実は僕の祖父はスケートに革命を起こした“Zボーイズ”(映画『ドッグタウン』に登場するサンタモニカのローカルスケートチーム)の関係者。当然、スケートのエキスパートで、僕が小さい頃からスケートを教えてくれたんだ」
その祖父からは、幼い頃に〈G&S〉という、人気ブランドのスケートボードをプレゼントしてもらったと懐かしむスペンサー。そのボードを通して掴んだ横ノリ特有のスキルと感覚は、サーフィンで大いに役立った。と、かなり恵まれた環境で育ったスペンサーだが、努力も欠かさなかったよう。海へ行った際は必ずスタイルのあるサーファーを観察していたという。そうしていくうちに彼らのフォームやタイミングなど、真似できそうなものから取り入れていき、自分なりのスタイルに昇華させていったそうだ。
「ほかにサーフィンの上達で心がけたことは、とにかく毎日のように海に通うことかな」
ミュージシャンとして多忙な生活を送る現在は、毎日通うことこそ難しくなってしまったけれど、スケジュールが空いている限り海に入るようにしているそうだ。
趣味のカメラは10代の頃から。デジタルよりもフィルムやポラの質感が好き。インスタグラム(@spenceralarcon)で彼の写真をチェック!
愛車のベンツはビーチの潮風を浴びても心配ご無用。かえって味に!
サーファーとして順調に進化を遂げていった10代前半、スペンサーは音楽への探究も同時に深めることになる。
「父が持っていたギターを拝借して、コンスタントに弾きはじめたのは僕が13か14歳の頃。ちょうどサーフィンを本格的にはじめたばかりだったんだけど、海を見るたびに不思議とギターを奏でたくなっていたんだよね」
スペンサーにとって、波乗りは音楽への感覚も養う時間となっていたようだ。その後波乗り同様、ギターに没頭していった彼。やがて自分が愛する“ギター”と“波”というキーワードを心地よいバランスで融合させた楽曲作りにチャレンジするようになる。さらに技術面でも音楽を究めるため、高校卒業後はアート系カレッジのオーディオエンジニアコースに進むことに。そこでは、セットアップに関する電気系統の基礎知識からサウンドエンジニアリングにまで幅広く学んだ。
「カレッジで学んだ知識と経験は、今のバンド“ウィンドウズ”にも生かされているんだ。でもなによりも大切なのは、ハーモニー。サーフィンでも一緒だよね」
無造作に手にしたポラロイドカメラをいじりながら、そう呟くスペンサー。セピア色に出たポラの紙写真をカメラの横に並べながら音楽の話を続ける。
「’60~’70sロック、ブルース、ジャズ、ラテン……。とにかくクラシックで良質な音楽にインスパイアされたてきたんだよ」
サーフボードのチョイスも音楽同様、クラシックなものが好きだというのも頷ける。もちろんその背景には、ハンティントンビーチ育ちでサーファーの父と、サンタモニカ育ちでスケーターの祖父の影響も強くあるだろう。そんなバックボーンが彼の音楽へも投影されているのかもしれない。
「先日、コロナ明け初のツアーを終えたばかり。カリフォルニアやアリゾナの各地を巡り、ビーチタウンでは昼はサーフィン、夜はライブ、とすごくヘルシーな時間を過ごせたよ。アリゾナではたまたま入ったギフトショップで本物のメキシカンラグを衝動買いしちゃったね」
オフの日はビーチでチル。BBQでヴィーガンホットドッグを作ることもあり、便利なコンロセットは常備
サーフキャンプにもよく出かける。夜、焚き火に集う時間は至高
彼の1日のはじまりも、ほかのサーファー同様に早い。朝は5、6時には起床し、スマートフォンで波チェック。波があればそのまま海へ向かい、波がなければ自宅でギターの練習や本を読んだりして自分のためになる時間を作るようにしている。昼すぎにはバンドメンバーとミーティングを行うことも多い。ショーがあればリハーサルや本番、打ち上げで深夜近くに帰宅。ショーがない日は自宅で夕飯を作ったり、友人と食事に出かけたりすることも。最近、サスティナブルな食生活にすっかりハマっているという。好奇心旺盛な彼はツアーの合間にオーガニックストア巡りをするのが習慣になったそう。
また、海で撮影した8㎜ビデオを編集し、その上に自分で演奏したオリジナル曲を乗せてショートフィルム風の動画を制作するのにも熱中している。と、多忙ななかでも活動的なスペンサー。そんな彼が今最も興味を抱いているのがボードシェイピング。未経験ながら自分の納得するボードを作りたいという思いで、目下ブランクスを探しているとのこと。まもなく新しいレコードが自身のバンドからリリースされるようで、そのツアーがはじまる前にシェイプしたいと思っているのだとか。
「ツアー先でミュージックビデオの撮影や、ローカルフェスに寄ったりと、自粛期間が終わりつつあるせいか、来年のスケジュールがどんどん埋まってきていてね」
ツアーはサーフトリップをかねて、サンディエゴからサンタバーバラまで南カリフォルニアのビーチタウンを巡る予定。多忙ななかでも波乗りの時間はしっかり確保しているようだ。
愛車の中にはサーフィンに関する本や心理学の本などを入れておき、休みの日に海辺でのんびり読書することも
いつでもライブに出られるように、ギター、〈リーバイス〉のジャケット、ハットにレザーサンダルを常備!
●ホームポイントはココ!
サン・オノフレ[SAN ONOFRE]サンディエゴとオレンジカウンティの境に位置。リーフブレイクで一年中波が安定しているため、多くのロングボード愛好家が集うことでも有名。どこかレトロな雰囲気が漂い、サーフヴァンでデイキャンプしに来る人も多い。
雑誌『Safari』2月号 P186~187掲載
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