人々を“いい波”に乗せる期待の若手、マックス・ヴァン・ヴィル
ここ数年、若手サーファーの活躍がめざましいカリフォルニア。それに伴い若手シェイパーも注目を集め、サーフ業界が活気に満ちている。今回紹介するマックスもそんなひとり。スタイルのあるシェイパーとして若手だけでなくレジェンドからも一目置かれる期待のホープだ。日本のメディアに初登場という、彼の素顔に迫った。
今月のサーファー
マックス・ヴァン・ヴィル
[MAX VAN VILLE]
〈モラスクサーフショップ〉をはじめ、オルタナ系の有名サーフショップで人気上昇中のサーフボードブランド〈VVシェイプス〉。そのシェイパーとして多忙な日々を送っているのが今回紹介するマックスだ。LA育ちの彼は幼少からサーフィンの虜となったひとり。そんな彼ももちろん最初はビギナーだった。
「はじめてのサーフィンはサンディエゴのサン・オノフレ。パスコウィッツという家族が主催するサーフキャンプに参加したんだ」
実は彼の両親は、国際的な感覚と語学を身につけてほしいと、本来であれば彼をベルリンのサマースクールに参加するように計画していたそう。しかしマックスはそれを振り払い、このサーフキャンプを選んだ。“パスコウィッツサーフスクール”とは、50年前から家族ぐるみで経営する、アメリカで一番歴史のあるサーフスクール。彼らの手ほどきによりマックスはみるみる上達した。
「スポーツだけに限らず幼い頃にはじめたものって簡単に習得できるよね。僕の場合もスキルアップのために特別努力したってことはなく、自然に身についていったって感じだったんだ」
サーファーとしてすくすく成長したマックスは、両親のすすめもあり、14歳でロングボードのコンペティションに参加。大会当日、マックスはたった3人のサーファーと海で競うことに。結果、多くの観客に注目されたその緊張感は彼を高揚させ、1回めは幸運にも1位を獲得。しかし、2回めは残念ながら好成績を残せなかったそうで、結局それがマックスにとって人生最後の大会となった。以降、彼はほかのサーファーと競うことに興味を持つことはなくなった。
それからというもの、波を楽しみ、自分を喜ばせるサーフィンに徹するようになったという。10代も半ばになり、すっかりサーフィンが生活の中心となったマックスは、マリブやヴェニスなどLAのビーチから、サン・オノフレ、カーディフなどサンディエゴエリアまで波さえよければどこでも出没するように。スポットごとに一緒に波を楽しむバディもどんどん増えていき、高校進学とともにサーフィンへの情熱もますます高まっていった。
マックスがシェイプした〈VVシェイプス〉のボードたち。クラシックだけどモダンなアップデイトも取り入れている
自身のブランドのオリジナルアイテムは関係者に配る用。こちらは友人デザインのフーディーとロゴ入りワイングラス
波乗りを楽しみながら自然とスキルを身につけ、サーフィンの虜となっていったマックス。けれど、当時の彼はキッズアクターとしての顔も持っていた。実はマックス、オーウェン・ウィルソンやエイドリアン・ブロディはじめ、有名ハリウッド俳優たちとも共演する人気子役として活躍。
サーフィンが得意ということで『コスタリカン・サマー』というドラマでは、サーファー役を演じたことも。そのため撮影に入ると海には頻繁に通えなかったが、オフの日は波がベストでなくとも海に入ることで、心のバランスを保っていたそうだ。高校卒業後は進学せず、演技の道に専念。しかしある日突然、キャリアチェンジを決意する。
「友人とサーフショップに立ち寄ったときに、ボードのブランクスを目にして、ふとシェイピングに興味を持ったんだ」
ブランクスとは、サーフボードのコア部分を形成するフォームのこと。彼はそのブランクスを目にした瞬間からシェイパーへの道がはじまったと振り返る。それからすぐに知り合いのシェイパーに10時間だけレクチャーを受け、その後は独自のやり方を模索しながら現在のスタイルを生み出していったそうだ。
「自分で削ったボードを自分でテストライドすることがなによりも大切。とにかくいろんな波で乗り心地をテストするんだ。そこで実際にカラダで感じた感触を頼りに、修正や強化を加えて進化させていくんだよ」
クラシックサーフのコンセプトを継承しつつ独自のモダンなテクニックを融合させたマックスのボード〈VVシェイプス〉は、若いサーファーだけでなく、レジェンドクラスのサーファーにも高く評価されている。そんなマックスが目標とするのはサンディエゴの巨匠、スキップ・フライだ。
「80歳近い現在でも現役サーファーでシェイパー。彼のボードは乗るたび夢の中を浮くような乗り心地で、僕が目指すのもそんな感触。余談だけど、彼と僕はレイカーズの大ファンで、先日グッズをあげたら喜んでくれたよ」
愛車のメルセデスのサーフバンにはショートとミッドレングスのボードを常備
友人とDIYしたシェイピングルーム。内壁はマックスの好きなカリフォルニアグリーン
フローに満ちたライフスタイルを送るマックス。実はDJとしても活躍しており、シェイパーと二足の草鞋を履いている。
「約15年前にハリウッドでDJをはじめたんだ。主に’90sダンスミュージックをまわしているね。最近のお気に入りはガイ・コンタクトというアーティスト。昔から人を踊らせるのが好きで、今でもそれを追求しているよ」
子役として活動していた頃から、DJへの憧れが強かったというマックス。いつかサウンドシステムやミキシングのスキルを身につけたいと思っていたそうで、日中はメルローズにあるシェイピングルームでボードをビルドし、夜はインターネットでレコードをディグするという青春時代を送ったとか。
好奇心旺盛なマックスは、一度興味を持つととことん究めたくなり、独学で自分なりのやり方を見出し習得してしまうよう。現在はDJ MAXVとして、週4回ほどレギュラーで出演。サンタモニカの高級ホテル〈フェアモント ミラマー〉のプールサイドに併設されているバーやヴェニスビーチに近いイタリアンレストランで活躍している。
「音楽と波はすごくマッチしていると思う。どちらも乗れると楽しいよね」
自作のボードで人々にいい波を楽しんでもらい、自分のDJでいい音楽に乗ってもらう。お客さんをエキサイトさせ、幸せを分かち合うのはどちらにも共通しているのかもしれない。
そんな彼の次なる目標は、コロナが明けたら、シェイパーとしてだけでなくDJとしても日本でツアーを行うこと。みんなを熱気の渦に巻きこみたいね、と笑って語ってくれた。
毎週土曜日にDJとしてブースに立つサンタモニカの〈バンガロー〉。多くのファンが彼に挨拶したり差し入れをしたりする
シェイピングルームには、’80~’90 sのダンス音楽のカセットテープが並ぶ。音楽もクラシックテイスト!
●ホームポイントはココ!
サン・オノフレ[SAN ONOFRE]
オレンジカウンティとの境、北サンディエゴに位置。リーフブレイクでロングライドが楽しめるので、ロガーの聖地ともいわれている。ヴィンテージカーで訪れるレジェンドも多い。一年中安定して波が立つのも魅力のスポット。
雑誌『Safari』1月号 P210~211掲載
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photo : Yoshimasa Miyazaki(Seven Bros. Pictures) text : Momo Takahashi(Volition & Hope)