人気ビーチを見守るサーフショップオーナー、クリスチャン・シュビン
観覧車で有名なピアがシンボルとなっているサンタモニカ。世界中から多くの観光客が押し寄せ、ビーチでは一年中日光浴やサーフィンを楽しんでいる人々の姿が見られる。そんな彼らを優しく導くローカルサーフショップ〈ポセイドンサーフショップ〉のオーナー、クリスチャン。ユニークな魅力を放つ彼のこれまでの歩みを見ていこう。
今月のサーファー
クリスチャン・シュビン
[CHRISTIAN SHUBIN]
サーフィンの聖地、マリブ。ここにはファーストポイントをはじめ、無数の有名サーフスポットが存在している。その中でもピアから車で20分ほど北に位置するポイントデュームは、多くのハリウッドセレブが住んでいることでも有名。近くにはローカルだけしかアクセスできないプライベート感満載のビーチもある。そんな場所で育ったクリスチャンは、当然幼少期からサーフィンのある生活が当たり前になっていた。
「母はマリブのレジェンドたちと肩を並べたローカルサーファー。物心ついたときにはすでに母と波乗りを楽しんでいたよ」
そう語るだけあって、はじめて波に乗ったのはいつのことかはっきりと覚えていないそう。でも、クリスチャンは幼いながらにどんどん“宙に浮いているような感覚”の虜となっていった。
実は彼の母、デュアンは1950~1960年代当時にはかなり珍しかった女性サーファー。伝説の女性サーファー、ギジェットと比べられるほどの実力の持ち主だったという。ロングボードを颯爽と乗りこなし、多くの視線を釘づけにしていた母。そんな後ろ姿を見て育ったクリスチャンは、いつしか母のようなエキスパートになりたいと、ひそかにスキルを磨くように。
幸運にもクリスチャンが育ったマリブのポイントデュームはリーフブレイクで、定期的に波が立ち練習するのに最適。さらにこのあたりのサーフポイントはローカルでないとアクセスしにくい、ちょっとしたシークレットスポットが多いので混雑も免れた。そんな環境的な好条件も後押しし、みるみるうちに腕を上げたクリスチャンは10代になる頃にはすでにエキスパートの仲間入りを果たしていた。
地元のサーフコンテストでも度々好成績を収めたが、コンペティションには強い情熱を注げないと自覚。それよりも、世界の様々なスポットの開拓に興味が湧き、サーフトリップにとりつかれてしまった。彼が訪れた海はカリフォルニアだけでなく、メキシコや南米はじめ、ヨーロッパやアフリカまでと、文字通り世界中に及んだ。しばらくするとSUPにもハマり、マリブで有名なビッグウェーバー、レイアード・ハミルトンとも一緒に楽しんだそうだ。
オリジナルボードはカリフォルニアを象徴するヘルシーカラーで統一。手前のファンボードは初心者でも楽しめる定番人気
クリスチャンがデザインするオリジナルTは10種類以上!
波乗り同様に彼が熱中していたのが、絵。物心ついたときから絵を描くのが好きで、時間さえあればノートにスケッチをしていた。波やサンセット、パームツリー、ワーゲンバスなど、サーフィンを通して目に映るものを模写していたそう。それは彼の習慣になり、やがてはスキルとなる。カレッジではグラフィックを学び、卒業後はグラフィックデザイナーとして順調にキャリアも積んでいく。もちろん多忙なスケジュールのなか変わらず海にも通っていた。
「新人の頃は徹夜が多くて大変なときもあったけど、次第に商業デザインの魅力にハマってね。いつか自分の好きなサーフィンとデザインを融合して仕事に出来ないかな、と考えはじめ、まずオンラインストアを作ったんだ。のちに〈ポセイドンサーフショップ〉と名前を変えこの場所に約10年前に店をオープンさせたんだ」
ポセイドンとはギリシャ神話に出てくる海の神様のこと。サンタモニカのピア側から海の平和を守るよう眺めているストアと、その姿が重なった。ここは観光客が多いだけにビギナーも多く、サーフレッスンも開講。また、得意なデザインを生かしストアのオリジナルTやフーディーなどのアパレルも充実させた。これらはメイド・イン・カリフォルニアにこだわりたいとの思いで、ほとんどマリブの友人にオーダーしている。
ストアに置かれたボードは人気のブランドからセレクトもしているが、クリスチャンがシェイプしたオリジナルのサーフボードも販売。ショートからロングまでバリエーション豊富で乗りやすいと評判だ。特にどんな波でも楽しめるファンボードは定番人気なのだそう。
「シェイプをはじめたのは約7年前。昔からものづくりに興味があって、いつか自分だけの乗りやすいボードをこの手で作りたいと思っていたんだ」
店には4年ほど前からカフェスペースを設置。バリスタの友人に習い猛特訓し、今では彼らの淹れるエスプレッソ目当てにローカルの常連が集うほど。〈ポセイドンサーフショップ〉は毎日朝から賑わう憩いの場となっている。
カフェもストア同様に朝7時からオープン。写真のエスプレッソはコクがあって味わい深くクセになる
コロナ禍で昨年より実施していないが、以前は定期的にストアでイベント、パーティが行われていた
サンタモニカ・ピアからすぐの一等地に店を構える〈ポセイドンサーフショップ〉。ここを10年前にオープンさせ、順調に育ててきたクリスチャン。彼が育ったマリブとは違い、世界中から大勢の観光客で賑わう場所だ。そんな土地柄、常連客の確保は難しそうだが、今ではローカルの固定客も多く、観光客のリピーターも徐々に増えているそうだ。現在ストアを中心に“ポセイドン・コミュニティ”が拡大。初期に比べショップスタッフもかなり増えた。
「週7日オープンの店だけど、今ではまとめて休みが取れるようになったよ。この間休暇が取れた際には、家族とロードトリップでバハに行き、波乗りやキャンプを楽しんだんだ」
ショップだけでなくレッスンも人気で、波がなくてもビギナーがレッスンを申しこむのだそうだ。少し高台になっている店からは、波チェックも可能なのでコーヒー片手にまったり過ごす客も多い。それほど居心地よく、店にいるだけでサーフィンや海の知識が増えてくる。
また、クリスチャンは環境活動家としても有名。ストアでも定期的にビーチクリーンを行いつつ、最近では環境保護団体のイベントをサポートもしている。と、多忙な彼だが、それでも早朝の波チェックは欠かさない。波があればそのまま近くの海に入り、家族と朝食をとるために8時前までには帰宅。店に出る日はそのまま閉店まで業者の対応やスタッフの管理に追われる。休みは週2日だが、緊急対応に追われることも。忙しい日々でも波乗りへの愛が常に軸にあるクリスチャン。いつかストア主催のイベントで日本へも行きたい、と笑顔で語っていた。
クリスチャンの母は1950~1960年代に活躍した女性サーファー。地元の新聞に取り上げられた記事をストアでディスプレイ
休み時間はギターセッションも。一緒に楽しむ彼はストアでSUPのインストラクターをしているビーチガイ
●ホームポイントはココ!
サンタモニカ・ピア[SANTA MONICA PIER]〈ポセイドンサーフショップ〉の目の前に広がるスポットは、サンタモニカピアの左手に位置。ビーチブレイクだがサイズが上がるとショートからロングまで幅広く楽しめる。夏は比較的メローだが、冬はダブルヘッドになることも!
雑誌『Safari』12月号 P234~235掲載
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photo : Yoshimasa Miyazaki(Seven Bros. Pictures) text : Momo Takahashi(Volition & Hope)