【ラファエレ・ティモシー】国際試合での初トライが新境地への扉を開いた! アタッカーとしても、世界で 通用する自信となった試合!
多彩なパスワークとキックで、ラグビー日本代表のあざやかなトライを演出してきたラファエレ・ティモシー。不動のセンターへの足がかりを掴んだのは、W杯の2年前。自分のプレイが世界に通用するという自信を得た一戦だ。
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- アスリートの分岐点! vol.12
TIMOTHY LAFAELE
TURNING POINT
2017年11月24日
リポビタンDツアー2017
VS フランス代表戦
日本中を熱狂させた2019年ラグビーW杯では、不動のセンターとして君臨。巧みなパスとキックを駆使し、数多くのチャンスを作り、悲願のベスト8入りに貢献したラファエレ・ティモシー。開幕戦となったロシア戦では、相手のタックルを受けながら、ノールックのオフロードパスを背後の味方に。日本代表の大会初トライに結びつけた芸術的なパスだから覚えている人も多いだろう。
W杯戦士のラファエレだが、選手人生においての重要な一戦は、2017年11月にパリで行われたフランス代表との強化試合。当時世界ランク11位だった日本代表は、8位のフランスに対し、主導権を握る好ゲームを展開。勝利こそできなかったが、強豪相手に一歩も引かない戦いぶりで23対23のドローに持ち込み、チームはその後に迫ったW杯に向けて手応えを掴んだ。
この試合のハイライトのひとつが、後半2分にラファエレがトライを決めたシーン。前半に先制したものの、終了間際にリードされてしまった日本は、同点となったこのトライで試合を振り出しに戻し、田村優が成功させたコンバージョンキックで15対13とリードを奪う展開に持ち込んだ。
「国際的な試合でトライを決めたのは、これがはじめてでした。日本は後半開始直後に攻め込み、ゴール前のラック(地面にあるボールを組み合って奪い合う状態)から直線的に前に出たところでパスを受けました。そこから、相手ディフェンスが外側から迫ってきたことで生まれたスペースを狙い、とにかくゴールラインを越えようと思ってダイブしたんです。日本代表では、インサイドセンターやアウトサイドセンターといった攻撃時にウィングをアシストするポジションを担っています。だから、それまではチームメイトがトライを狙うためのプレイに意識が向いていました。しかし、この試合でトライを決めたことで、自分自身がアタッカーとしても世界に通用するという、これまでと違う自信を得られたんです」
この試合は、W杯に向けて3試合連続で行われたテストマッチの締めくくりの一戦。1戦めのオーストラリア戦では、代表初キャップの姫野和樹の初トライなどの収穫はあったが、30対63で世界ランク3位の強豪に大敗。ディフェンスシステムなどを修正して挑んだ2戦めのトンガ戦は39対6で勝利。そのトンガ戦とほぼ同メンバーでフランス戦に挑んだ。
「オーストラリア戦では結果を出せていなかったので、とにかくチャンスというチャンスは掴んで、勝ちを取りに行こうという気持ちで戦いました。それがトライにも繋がったのだと思います。それと、それまでずっと練習で取り組んできたキックも、実践で使えるとわかったのも、この試合がきっかけでした」
ラファエレは、この試合の前年度の2016年に日本代表に初招集され、ちょうど1年前の11月に行われたアルゼンチン代表とのテストマッチで初キャップを獲得。トニー・ブラウンアタックコーチからは、パスとともに、キックを磨き直すよう助言を受け、その練習を積み重ねながらレギュラー定着を目指してきた。
「キックを生かすチャンスは、それまでも常に探してはいました。それが実戦のどういう局面で使えるのかが、この試合を通してわかるようになってきた。今ではそれが自分の強みになっています」
W杯をともに戦ったチームメイトからもオフロードパスの巧さが認められているラファエレだが、左足から鋭い弾道で放たれるキックも、相手チームのディフェンスを撹乱するうえで日本代表の大きな武器になっている。ちなみに、2019年W杯の全5試合にフルタイム出場した選手はわずか2名だが、その1人がラファエレだった。技術をひたむきに磨き続け、パスに加え、キックでもスキルフルな選手になったからこそ、替えのきかない存在になることができたのだろう。
2023年のW杯フランス大会に向け、活動を再開した新生日本代表でも不動のセンターであり続けているラファエレ。世界のラグビー関係者からも注目された6月の欧州遠征では、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ、そしてアイルランドという強豪に敗れたとはいえ、互角に戦えるポテンシャルを示した。
「チームが強くなればなるほど、試合でかかるプレッシャーも強くなります。そうした状況に打ち勝つために、日々の練習で常にプレッシャーのかかる環境を作り出しています。強くなるために近道はありません。そういった小さなことの積み重ねが一番大切だと思っています」
ラグビー選手
ラファエレ・ティモシー
TIMOTHY LAFAELE
1991年、サモア生まれ。ラグビー強豪・デラセラカレッジ、山梨学院大学を経て、2014年にコカ・コーラレッドスパークス加入。日本代表初キャップを獲得した2016 年に日本に帰化。2019 年に神戸製鋼コベルコスティーラーズへ移籍し、主軸として活躍。
TAMURA'S NEW WORK[JAXA]「宇宙の日」作文・絵画コンテストは、「もしも自分が宇宙飛行士になったら」がテーマ。応募者に想像力を高めてもらうため、フィギュアを見上げながら迫力と浮遊感を意識してイラストを描き上げた。ディテールの細かさにその熱い気持ちが見える
「夢を掻き立てられる作品に」
今回、田村が描いたのは宇宙飛行士。9月12日の“宇宙の日”の記念行事としてJAXA等が主催する、小中学生対象の作文・絵画コンテストのためのメインビジュアルだ。描く過程で、宇宙飛行士とアスリートに共通点を感じたという。
「ハードなトレーニングをしている点もそうですが、宇宙飛行士が宇宙にたどりつけているのは、技術者などのたくさんの人が力を合わせてくれるから。そして、多くの人に夢を与える存在である点もアスリートに通ずるものがあります」
作品として描くうえで意識したのは、想像の余地を残すことだという。
「モチーフをあえて画角に収め切らず、見えない部分は想像で埋めてもらえるようにしています。たとえば、真ん中の船外活動を描いた作品は、見切れている青い背景から美しい地球をイメージしてほしいと思って考えた構図。応募者の宇宙に対する夢を掻き立てるような作品に仕上がっていたら、とても嬉しいですね」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会、ISCAカリカチュア世界大会で総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
雑誌『Safari』10月号 P182~184掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO