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2021.03.22


冷たい海育ちの熱き芸術家!

'60sのサーフカルチャーに憧れて、クラシックなサーフスタイルを究めるオライオン。サーフィンの腕前はしかり、ペインティングやスカルプチュアなどのアート制作からサーフフィルムまで、多岐にわたるプロジェクトを展開するクリエイターだ。ほがらかな人柄の背後には、北カリフォルニアの冷たい海で培われたサーフィンとアートへの熱い思いが感じられた。


今月のサーファー
オライオン・シェパード
[ORION SHEPHERD]

’60sスタイルが彼の師匠


北カリフォルニアの大都市サンフランシスコ。実はこの周辺のベイエリアも南カリフォルニア同様、サーフスポットが密集する地域。特に冬は北うねりのスウェルがブレイクすることでサイズがアップするから、寒さに打ち勝つモチベーションがあるかないかで楽しみ方も変わってくる。今回紹介するオライオンも、そんなベイエリアの厳しい海で鍛えあげられたマニアックなサーファーだ。

「はじめてのサーフィンは14歳のとき、家族旅行で訪れたカウアイ島。ボードに立てた瞬間の興奮は今でも覚えているよ。だけど、そこからコンスタントに波をキャッチできるようになるまで、練習を重ねないといけないわけで……」

以降、上達したい一心で海に通ったオライオン。オーシャンビーチ、パシフィカ、ボリナスはじめ、彼が住んでいたサンフランシスコ周辺のスポットでスキルを磨いた。

「ベイエリアでサーフィンを習得するのはかなりハードなこと。水は冷たいし、年間を通してオンショアが多く、ビッグウェイブを期待できるのは極寒の冬。正直好ましくない条件のなか楽しむしかないんだ」

リドルコレクションの1枚を手にするオライオン。ツートーンカラーが渋い

そんな環境でもモチベーションを保てたのは、’60年代のクラシックサーフへの憧れが大きいそう。

「たまたまテレビで放映されていた『エンドレスサマー』を観て、これこそ理想のサーフィンだと感じたんだ。それから父のサーフヒストリーの本を拝借したり、’60sサーファーがよく特集されていた雑誌『ロングボード』も定期購入したりして読み漁ったよ」

’60sスタイルの虜になってしまったオライオンは伝説的シェイパーの1人、グレッグ・リドルのボード収集もはじめる。友人から借りたリドルの7フィートのボードが、評判より桁違いに乗り心地がよかったことがきっかけだった。

「アーティストで友人のアレックス・コップスがリドルのフィルムを手掛けていた縁もあり、1969年にシェイプされたボードを譲り受けたんだ。その板はノーズがボロボロになるまで乗り倒したよ。以降はローカルの販売サイトで彼のボードを買い漁ったね」

リドルのヴィンテージボードがずらりと並ぶ現在のオライオンのアトリエ。その様子は、彼の’60sへのマニアックな愛を象徴するようだ。

プロジェクトのひとつであるカニの甲羅シリーズ。メキシコなどのビーチで拾った甲羅を加工していく

アートもマニアックに究めたい


そんなオライオンの本業はサーフアーティスト。同じ肩書のつくアーティストは大勢いるが、彼はアート業界の重鎮たちをもうならせる存在として高い評価を得ている。手掛けるジャンルはペインティング、スカルプチュア、コラージュ、シルクスクリーン、さらには映像までとかなり幅広いが、そのどれもに彼自身が追求するオリジナリティが投影されている。

今でこそジャンルの垣根を越えて活躍する彼だが、そのはじまりは絵を描くことだったそう。幼い頃からアート教室に通い絵を習っていたオライオン少年は、高校を卒業するとアートカレッジに進学することを決意。そこで、多様なタイプのアートと出合うことになる。

「カレッジでは洋服を作るクラスもあって、専門の機械で縫製する方法まで教わったんだ」

マルチな才能を開花させているオライオンだが、現在のスタイルにたどりつくまでにたくさんのアーティストから影響を受けたそう。

「なかでも友人でサーファーのジェイ・ネルソンからは多くを学んだよ。アート界へのコネクションを作ってくれたり、ノーリーシュでサーフィンすることも教えてくれたんだ(笑)」

エキシビションに展示されたペインティングの一部。細かい描きこみが秀逸な、ユーモアあふれる作風

また、アーティストのバリー・マギーも師と仰ぐ存在の1人。

「最初に開いたエキシビジョンにバリーが訪れてくれて、それをきっかけに彼のプロジェクトのアシストをすることになったんだ。実は僕の2本めのリドルのボードは、彼から譲り受けたものだよ」

その後、オライオンはサンフランシスコやロサンゼルスのギャラリーでアートショーやエキシビションに参加し続けた。なかでもコンテンポラリーアートを展示しているジャンカー・ジョーンズ・ギャラリーは彼のアートを高く評価している。5年前には〈シャネル〉のホノルル店でフォトグラファーのカノア・ジンマーマンとともに異例のアートショーも開催するなどめざましい活躍ぶりだ。

そんなオライオン、10年前からアート活動と波乗りのため、拠点をLAに移している。現在はダウンタウンの中心地に佇む築100年以上のヴィンテージハウスで、波とアート中心の生活を楽しむ日々だ。

シルクスクリーンでプリントを施したTシャツ。右のTシャツは友人のブランド〈イエローラット〉とのコラボ

誰もが羨むクリエイティブライフ


LAでの生活にもすっかり馴染んだオライオン。ダウンタウンのアトリエでは、いつもなにか新しい試みが行われている。シルクスクリーンによる彼のアパレルプロジェクト〈ショップシェップ〉もここで制作され、アトリエの一部をショールームとして活用している。

「基本的にはTシャツやスウェットシャツに施すシルクスクリーンアートを展開。ヴィンテージやデッドストックのボディを使用して、サスティナブルであることも心がけているよ」

現在は新型コロナウイルスの影響でアトリエを訪ねるビジターは減ってしまったが、それ以前は彼のアパレルを求めて訪れるコアなファンで賑わっていたのだそう。そんなアトリエの外に目をやると、庭にはたくさんの野菜が育っている。彼が手塩にかけて世話をしている家庭菜園で、水やりのついでに成長過程をチェックするのも楽しみのひとつなんだとか。

アトリエの庭でアーバンファームを実現。土いじりをすることでグラウンディングにも繋がるそう

ゆったりと時間の流れる彼の生活は、たいてい早朝の波乗りからスタートする。

「昨日は2回海に入ったよ。たまたま友人がLAに来ていて、一緒にサンディエゴの近くまで行ってサーフィンしたんだ」

話を聞けば、オレンジカウンティとサンディエゴの境にちょっとしたシークレットスポットがあるのだそう。ちなみに、彼のライディングに惚れこんだフィルムメーカーのダナ・ショウが、現在オライオンのパフォーマンスも収めたフィルムを制作中。ますますマルチな才能を発揮し続けるオライオンだが、現在はLAのギャラリーで行われるエキシビションに向けて準備中とのこと。今後の活躍が楽しみだ。

オライオンが手掛けるサーフムービーのアイデアを貼り集めたビジョンボード

●ホームポイントはココ!
ファーストポイント[FIRST POINT]マリブピアの海に向かって右側に位置するリーフブレイク。すぐ脇がファースト、その右隣がセカンド、さらに右隣がサードと呼ばれる。ファーストはライトでロング向き。安定した波で長く乗れるため、多くの人に愛される聖地の1つ。



 
Information

雑誌『Safari』4月号 P178~179掲載

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写真=ジェームス・クロスニアック 文=高橋百々
photo : James Chrosniak(Seven Bros. Pictures) text : Momo Takahashi(Volition & Hope)
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