クールな一家の三男はピースな縁の下の力持ち
モーターサイクルカルチャーとサーフィンやスケートを融合させた、ハンティントンビーチ生まれのお洒落な集団〈サイクルゾンビーズ〉。展開するアパレルは日本でも高い人気を誇る。その中心となっているのがストップニック家。今回は、その陽気な末っ子であり〈サイクルゾンビーズ〉の陰の柱であるテイラーを紹介しよう。
●今月のサーファー
テイラー・ストップニック[TAYLOR STOPNIK]
サーフィンの聖地、ハンティントンビーチ。かつてデューク・カハナモクがハワイからカリフォルニアに波乗りを伝道するため立ち寄った、由緒あるビーチだ。安定して波が立つこともあって、毎年世界的なコンペティションの舞台ともなるこの場所は、至るところがサーファーで賑わっている。今回紹介するテイラー・ストップニックはここで育ったフリーサーファーの1人。このビーチでのファンサーフが一番の幸せだという、とてもハッピーなサーフガイだ。
ストップニック家のDNAを受け継ぐそのクールなルックスは、街を歩くだけで注目の的。この一家といえば、モーターサイクルとサーフィンを絶妙にミックスし、その独自のスタイルを〈サイクルゾンビーズ〉という形で見事にブランド化した感度の高いファミリー。そんな、ある意味“西海岸カルチャーの名家”で育ったテイラーは、物心ついたときからサーフィンをライフスタイルの一部として取り入れていた。
「いつ波乗りをはじめたか? そんなこと考えたこともなかったし、はじめてからこれまでノンストップなんだ。というのもすごく愛しているからね(笑)」
満面の笑みで答えるテイラー。荒波の日や雨の日、小波の日でもとにかくひたすらサーフィンし続ければ、いい波のときに簡単に乗れる。コンディションの悪い日でも休まないことがとにかく重要なのだという。スランプもなく成長したテイラーは、10代の頃に大会出場も試みている。
「参加してみて感じたことは、コンテストには興味なかったってことかな(笑)。でも“デーン・ウィリアムス・メモリアル”というチャリティに参加できたのは光栄だった」
そんな彼にサーフヒーローを聞いてみると、
「サーフヒーローはいないけれど、ヴェンチュラのデーン・レイノルズやサンタバーバラのボビー・マルチネスは、ほかのサーファーと違ってすごくタフでクールだと思う。トム・カレンのサーフムービーもよく観ているんだ」
あくまでファンサーフを大切にする彼らしく、特定の目標人物はいないようだが、自分と異なるスタイルへのリスペクトも忘れない。そんなオープンな姿勢が垣間見えた。
ストップニック家のほかの兄弟がそうだったように、物心ついた頃から父ビッグ・スコットのハーレーの後ろに座り低くて不規則なエンジンの振動を全身で感じていたというテイラー。家からすぐのゴールデンウェストでサーフィンを楽しみ、ヴィンテージのハーレーで移動するという父のライフスタイルは、あっという間にテイラーのライフスタイルにもなった。
「小さい頃はモトクロスバイクに夢中になっていたんだ。荒れた泥道を全速力で走って、毎日のようにレースも楽しんだ。それからアルバイトでお金を貯めて、14歳のときに買ったのが1977年製のヴィンテージハーレーだよ」
とはいえ当時はまだ無免許。それでもショベルヘッドのフレームやモーター、トランスミッションを修理したりと自分でビルドアップにトライ。そして15歳と半年で、晴れて運転免許を取得したのだった。
「車も運転できたけど、モーターサイクルばかりに夢中になっていたね。近場でもどこへ行くにもハーレーを乗って行ったね」
初ハーレーを自分でビルドした早熟な少年は、今では〈サイクルゾンビーズ〉の実質上のメインメカニックとして活躍。兄のスコッティ(当連載の第4回に登場)ももちろんメカニックだが彼は一家のリーダーとして、また4児の父としても忙しく、最近はテイラーが大半を行っているそう。
「行き詰まったら兄や父に教えてもらうのが昔から当たり前。だから、メカニックの学校なんて通おうとも思わなかったよ。ホームスクールで育ったからね、なんでも答えはうちにあるというのがセオリーなんだ。忙しくなるにつれて責任も増えるけど、ガールフレンドがアシストしてくれるよ」
そう照れ笑いしながら語るテイラー。まさに“家族経営”な〈サイクルゾンビーズ〉。実は、ヴィンテージのモーターサイクルをリビルド、カスタム、修理して販売するショップと、さらにアパレル部門の2つがあるが、タイラーはアパレル部門でもオーダー受注からパッキング、発送までを担当。末っ子ながら陰でブランドを支える重要な存在なのだ。
白のタンクトップに〈ラングラー〉のデニムを腰穿きするビーチバイカーカジュアルが、これでもかというほど似合うテイラー。その飾らないスタイルは、アウトドアを愛するところからもうかがえる。
最近の楽しみは、愛車のタコマでガールフレンドと愛犬クリフとキャンプへ出かけることだという。実はこの取材の追加アンケートも、ヨセミテ国立公園の近くに車をとめて、屋外で回答してくれたそう。今年はコロナの影響でパーク内のキャンプサイト6つのうち5つがクローズしているが、その分ビジターも少なく大自然をより満喫できるとのこと。
とにかくハッピーでポジティブなことを優先するテイラーは、キャンプに出かけない日の過ごし方もとにかくシンプル。毎朝7時に起床し愛犬と散歩&波チェックすることからはじめ、波乗り後は〈サイクルゾンビーズ〉のショップ兼ガレージへ。仕事をこなした後はガールフレンドと一緒に夕飯を作ったり映画を観たり、リラックスして1日を終えるという。ハンティントンビーチの近くというロケーションだからこそ、このスローライフを送れるのだろう。
「最近、ハーレーのナックルヘッドとパンヘッドが数台入ってきたよ。さらにスコッティが2台トライアンフを入手してきたんだ。それらをビルドするのが目下のプロジェクトかな」
ほかにもプロジェクトが多く控えているそうだが、どんなときでもハッピーを選択するのが彼の哲学。そのなかで今一番真剣に計画しているのがガールフレンドとの結婚。
「彼女といると落ち着きを保てるんだ。準備ができ次第すぐにでも結婚するつもりだよ」
●ホームポイントはココ!
ゴールデンウェスト[GOLDEN WEST]ハンティントンビーチピアの北に位置する穏やかなビーチ。ビーチブレイクだが安定して波が立ち、ショートからロングまで楽しめる。22番のライフガードを挟みレフト、ライトともに良好。犬をリーシュなしで散歩できることでも人気。
ショップからホームポイントのゴールデンウェストまでは目と鼻の先。ここに波乗りの一式を置いてある
全体にこびりついてしまったサビを取るためにハーレーを大分解。作業中の彼の背後に潜むガイコツは、なんとも〈サイクルゾンビーズ〉らしいデコレーション
オリジナルTなどアパレルのオーダーはなんと約半数が日本から
父ビッグ・スコットとテイラー。父は校長のような存在
愛車のタコマには斧をはじめキャンプ道具一式を常備。ビーチならサンエリホ、陸はヨセミテやビッグサーなどがお気に入り
天使のようにキュートなガールフレンドのエマ。テイラーを精神面でも仕事面でもサポートしている
雑誌『Safari』11月号 P232~233掲載
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photo : James Chrosniak(Seven Bros. Pictures) text : Momo Takahashi(Volition & Hope)