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2024.07.13


【桃田賢斗】自分の弱さと向き合い勝利を掴んだ復帰戦!

バドミントン男子シングルスの世界王者として君臨した時代を経て、今年5月のトマス杯を最後に国際舞台から退いた桃田賢斗。エースとして駆け抜けてきた足跡を振り返り、特別な意味を持つ試合について語ってくれた。

KENTO MOMOTA
TURNING POINT
【桃田賢斗】自分の弱さと向き合い勝利を掴んだ復帰戦!2017年5月31日
バドミントン日本ランキング
サーキット大会
決 勝

高校3年生でバドミントンのナショナルメンバーに入って以来、日本男子初の快挙を国際大会で成し遂げ続け、レコードブレイカーとして活躍してきた桃田賢斗。緻密なコントロールを武器に相手の動きを誘導し、試合の主導権を握っていくスタイルで、世界選手権での初優勝や世界ランク1位への到達(ともに2018年)、世界最優秀選手の選出(2019年)など、数々の栄光で歴史を塗り替えてきた。そんな絶対王者が分岐点として語ってくれた試合は、2017年5月に開催された“バドミントン日本ランキングサーキット大会”。違法賭博行為で無期限の出場停止処分を受けてから1年半ぶりの復帰戦となったこの大会を桃田は、試合勘を徐々に取り戻しながら勝ち抜き、優勝を飾ってみせた。

「出場停止期間中は、地域貢献活動に取り組みながらバドミントンに対しての考え方や人との接し方など、様々なことをゼロから学び直すような気持ちで過ごしながら、『自分はもう試合には出られないのではないか』という不安を抱いていた時期もありました。そうした時間を経て、もう一度戦うチャンスをいただいた大会で優勝できた。そこにたどりつくまでに自分をサポートしてくれた人たちへの感謝の気持ちをすごく大きなものとして感じたことを含め、僕の選手人生において大きな分岐点になった試合です」

初戦の相手となった和田 周との一戦は、21ー7、21ー8とわずか27分で決着をつけ、余裕があるようにも見えたが、実際は全く違う心境だったという。

「とにかく緊張しっぱなしでした。今までに感じたことがないような複雑な緊張で、点差があっても最後の最後まで余裕がなく、気持ち的にはいっぱいいっぱいだったんです。同時に自分はどう思われているのだろうか、もしかしたら応援してもらえていないのではないかといろいろなことを考えてしまい、自分を出しきれていない感覚がすごくありました」

そうした中で迎えた決勝戦の相手は、2014年のトマス杯で一緒に戦い、日本が史上初の優勝を勝ち取ったときのチームメイトの上田拓馬。お互いに手の内を知りつくした相手と一進一退の攻防を繰り広げ、最後は1点差まで迫られながらも勝ち抜いた桃田。相手のショットがラインアウトとなって勝利が決まると膝からコートに崩れ落ち、涙を流した。

「会場のみなさんからは大きな拍手をいただけて、本当に嬉しかった。同時に優勝した瞬間は、自分が多くの人たちに支えてもらいながらそれまでの状況を乗り越えることができたことを思い出していました。普段、試合で勝っても泣くことはありませんが、あのときは本当に特別な気持ちが込み上げてきてしまい。涙が止まらなくなってしまいました」

復帰戦に向け、精神面もフィジカルの面もそれ以前とは大きく違ったという。

「一試合一試合に対する気持ちや姿勢は、ものすごく変わりました。本当にたくさんの人たちに迷惑をかけてきてしまったので、結果で恩返しをするしかない。勝利に対する貪欲さや勝たなければならない責任感というものはそれまで以上に感じながら、さらに緊張感をもって戦うようになっていきました。フィジカルの面では、謹慎中に苦手なランニングやウエイトトレーニングを積極的にやるようになったので自分の中で一番仕上がっている状態でした。バドミントンを続けられる環境を作ってくれた人や応援してくれる人たちのためにもやりきらなくてはならないと思い、それまで技術だけで勝負してきた自分の弱さと向き合うようになりました。実際、この大会でも技術よりフィジカルで勝負できていたと思います」

この大会で復活を果たした桃田は、2018年9月、日本男子初の世界ランキング1位となり、以降、2021年11月にコロナ禍で世界ランキングが凍結されるまで、3年以上も1位の座を堅持。その後も2019年の全英オープンでの日本男子初の優勝、世界選手権の2連覇を筆頭に、輝かしい記録を打ち立てた後、今年5月のトマス杯で約10年に及ぶ日本代表活動に自ら終止符を打った。今後は選手活動を続けながら国内の大会に出場する一方、指導にも力を注ぎたいという。

「僕自身は感覚的にプレイするタイプの選手ですが、自分が思うようなプレイができなくなってから無意識にやってきたことを言葉で考えるようになり、それが説明できるようになってきました。そういった部分も含め、次の世代の選手たちにバドミントンの楽しさや素晴らしさを伝えられる存在になりたいと思います」

【桃田賢斗】自分の弱さと向き合い勝利を掴んだ復帰戦!バドミントン選手
桃田賢斗
KENTO MOMOTA
1994年、香川県生まれ。2012年世界ジュニアで優勝し、高校卒業後はNTT東日本に所属。2018年9月から世界ランク1位を守り、2019年は国際大会で11度の優勝を達成。世界バドミントン連盟の男子世界最優秀選手に選出。2024年のトマス杯を最後に、日本代表を引退。

TAMURA’S NEW WORK
宮泉銘醸×サワヤン
【桃田賢斗】自分の弱さと向き合い勝利を掴んだ復帰戦!【桃田賢斗】自分の弱さと向き合い勝利を掴んだ復帰戦!〈宮泉銘醸〉の代表的な銘柄である"冩樂"と、サワヤンのオリジナルブランド〈デスター〉とのダブルネームで純米大吟醸酒を製作中。サワヤンの2人はかつてフィジーク大会に挑戦するために肉体改造し、弟のヤンは優勝した実績があり、筋骨隆々な腕はそんな彼らからのリクエストによって描かれた。コラボした純米大吟醸酒は、近日発売予定。

伝統と革新の橋渡しをするための作品

日本酒の銘柄である〝冩樂(しゃらく)〟という文字を、筋骨隆々の腕が力強く掴む様子を描いた作品。これは、チャンネル登録者数160万人を誇る兄弟ユーチューバーのサワヤンが現在、会津若松の蔵元〈宮泉銘醸〉とコラボして製作している純米大吟醸酒のラベルだ。

「サワヤンとは、彼らが母国のウクライナ支援を目的としたTシャツを製作した際にタッグを組み、今回はそのご縁で彼らが日本酒造りに挑戦する企画にお声がけいただきました。“楽しさ”を掴みとるというコンセプトで、純米大吟醸酒を造っているとのこと。その思いをまさに“掴みとる”描写で表現しました」

はじめて描くラベルに込めた思いとは?

「〈宮泉銘醸〉は伝統を受け継ぐ蔵元で、サワヤンはかつてない新しいことに挑みたい気持ちが強い挑戦者。今回のコラボで造る日本酒が伝統と革新を融合した新しい純米大吟醸酒であることを僕の作品が体現し、双方の思いを橋渡しするような存在であってほしいですね」

【桃田賢斗】自分の弱さと向き合い勝利を掴んだ復帰戦!アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。Instagram:@dai.tamura
 

 

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Information

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イラスト=田村 大 文=遠藤 匠
illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo
photo by AFLO
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