文字を紙に手書きすることは、セラピーのようなもの! 万年筆にこだわるなら紙も本物を選ぶべし!
紙をデザインする“ペーパークリエイター”として活躍するエメリック・ティビエルジュ。自身の名を冠するブランド〈ティビエルジュ パリ〉のデザイナーであり、同時にCEOも務める。紙を扱う職業だけに、昔から万年筆を使っていたのかと思いきや、意外にも万年筆を使いはじめたのは2年前からだという。紙に情熱を注ぐデザイナーは、万年筆とどんなつき合いをしているのか!?
- SERIES:
- ビジネスエリートの愛する万年筆! 第38回
PROFILE
フランス出身。1987年、紙をデザインする“ペーパークリエイター”として活動をスタート。高級紙を手掛ける〈アルジョウイギンス・グループ〉に参加。〈エルメス〉〈ルイ・ヴィトン〉をはじめとする有名ブランドのペーパー創作を行う。2014年、自身の名を冠したブランド〈ティビエルジュ パリ〉を創設。'16年、マグネット式開閉システムを採用した手帳“ル カルネ”を発表した。年に3 ~ 5回は日本を訪れる親日家としても知られている。
友人への手紙
親愛なるダイアンへ
この前はパリで逢えて本当に嬉しかったよ。
トーキョーに戻ってからも、あのときの
特別な時間を思い出しているんだ。
̶エメリック
万年筆は、脳とダイレクトに繋がる!?
1987年に“ペーパークリエイター”という新たなメティエ(職業)を創り出して以降、エメリック・ティビエルジュはその第一線を走り続けてきた。紙をデザインするにあたり、万年筆との関係も常に念頭に入れてきた。だが、エメリックが万年筆を毎日の暮らしの中で使うようになったのは、2年前からだという。
「ちょうど“ル カルネ”という手帳を開発しているとき、なにげなく万年筆を使ってみたところ、一気に目が覚めました。それまでは“万年筆=手が汚れる”という幼い頃の記憶が邪魔していたのですが、やはり万年筆にはほかのペンにはない“書く喜び”がある。せっかく裏写りしない特別な紙を開発している私自身が万年筆を使わなくてどうする、と(笑)」
現在愛用しているのは〈セーラー〉の2本の万年筆。太字のペン先のモデルは主に文字を書くとき用、細字はデザイン用と、用途別に使い分けている。それまではずっとボールペンを使っていたそうだが、どんな違いがあるのだろうか?
「万年筆で書いた文字やデザインは、脳とダイレクトに繋がっているような気がします。書き心地がスムースなので、万年筆を握っていることも忘れてしまい、自分の頭の中のイメージがそのまま紙の上に現れるんです。ほかのペンでは、こうはいきません。キーボードやタッチパネルならなおさらですよね(笑)」
職業柄、エメリックは万年筆以上に紙にはこだわっている。せっかく素晴らしい万年筆を持っていても、紙が印刷用のものでは台無しだという。その点、エメリックが開発した“ティビエルジュペーパー”は驚くほど薄く、軽い。にもかかわらず、丈夫でハリがあり、速乾性にも優れ、なによりペンがなめらかに走る。
「私の顧客にはデジタルの世界に精通した若い投資家や経営者が多くいらっしゃいます。彼らは紙や万年筆といったアナログの価値もよく理解しているのです。いい万年筆といい紙を手に入れるだけで、人生がほんの少し豊かになりますよ」
愛用の万年筆
太字のペン先が心地いい!
親日家のエメリックが愛用するのは、日本製〈セーラー〉のロングセラーモデル。丸みを帯びたフォルムと、ゴールドトリミングのブラックボディは万年筆の王道。ペン先は太字用で、主に文字を書くときに使っているそう。そのなめらかな書き心地もお気に入り!
仕事に欠かせない1本!
2003年に発売がスタートした〈セーラー〉の新定番モデル。ボディサイズやペン先、カラーのバリエーションが豊富で、キャップトップには錨のエンブレムプレートが刻まれる。エメリックはペン先を細字に設定し、主にデザインやデッサンに使用しているんだとか
自らデザインした手帳“ル カルネ”を愛用!
交換可能な2冊のノートをマグネットで取り付けたシームレスな手帳“ルカルネ”を愛用している。ノート(リフィル)の組み合わせにより、中身を自分好みにカスタマイズできるし、万年筆との相性も◎!
エメリックがこれまでに生み出してきたペーパーシリーズの一部。右から、ヘリンボーン柄のフェルトマーク紙“カヌヴァ”、透かし模様の入った半透明紙“ドンテル”、独自の色合いを繊細な紙で表現した“スキン”
COMPANY DATA
THIBIERGE PARIS[ティビエルジュ パリ]
紙のマエストロによる高級ペーパーブランド!
“ファッションやファブリック業界のように、色彩やテクスチャーに美しい多様性のある紙を作りたかった”と語る、エメリック・ティビエルジュが1987年にパリで設立。斬新かつ洗練された手帳“ル カルネ”は年末の発売以来、高感度の大人を中心に話題を呼んでいる。
雑誌『Safari』4月号 P252・253掲載