【西岡良仁】宿敵との7度めの対戦で掴んだ勝利で、選んだ道の正しさを実証!
ATP世界ランキングにおいて、トップ50目前、日本勢最上位に浮上している西岡良仁。「敗北も大切な経験」と語る日本のエースは、マッチポイントを凌いでジュニア時代からの宿敵を攻略した一戦で、勝つためのひとつの方程式を掴んだ。
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- アスリートの分岐点! vol.26
YOSHIHITO NISHIOKA
TURNING POINT
2015年8月28日
全米オープン予選決勝
VS カイル・エドモンド
ライバルとのラリー!
盛田ファンドの支援を受け、錦織 圭と同じIMGアカデミー(アメリカ・フロリダ州)の日本人ふたりめの卒業生となり、19歳でプロ転向を果たした西岡良仁。その年の9月には、アジア大会男子シングルスで日本人として40年ぶりとなる金メダルを獲得。当初は400位前後だったランキングを150位前後まで驚異的なスピードで上げ、プロ1年めから大きな飛躍を遂げた。
そんな西岡が、さらなる飛躍を遂げていくうえで重要な試合として語ってくれたのは、その翌年となる2015年の全米オープン予選決勝。当時20歳だった西岡が、ジュニア時代から6度対戦して一度も勝てなかった同年代のライバル、カイル・エドモンドにはじめて勝利した記念すべき一戦だ。
「エドモンド選手は僕と同い年なのですが、ジュニアだけでなくプロ転向後の試合でも負け続けていました。確か4度めに対戦したときだったと思うのですが、客観的に自分を見てみて“今の自分では絶対に彼に勝てないだろう”って思ったんです。そして試合後に、だったらなにが強くなれば勝てるのだろうと考えたのですが、そもそも身体が違う。彼のボールに対して自分が全くついていけていなかったから、それは明らかでした」
エドモンドは、188㎝の長身から繰り出す速球とテンポの速い攻めが持ち味のストローカー。フォアもバックも球速があり、サーブやリターンもパワフルで攻撃力が高い選手として鳴らしている。
「僕の身長は170㎝ 。エドモンド選手の身長は190㎝に限りなく近いですが、あの身長から出るパワーは170㎝の僕とは全く違う。そんなパワーのある選手に対してそもそもついていけなければ、技術がどれだけ高くなっても話になりません。つまり、勝つためには、そのパワーに耐えられる身体を必要としていたということなんです。そこからは、ひたすら身体作りに取り組みました。彼に勝つためだけに頑張ったというよりも、これからプロとして勝っていくために必要なことのひとつとして。それ以前はやっていなかったウエイトトレーニングをやり込み、フィジカルを作りました」
全米オープンでの2年連続の本戦入りがかかったこの試合で、西岡は躍動した。立ち上がりは完璧に近い試合運びで、第1セットを先取。しかし、第2セットでは0 - 6で落としてからのファイナルセットでサービスゲームをブレークされ、相手を追いかける展開になってしまった。それでも復調した西岡がエドモンドのサービスゲームをブレーク。流れを引き戻した西岡は、その次の相手のサービスゲームのブレークに成功し、自身のサービスゲームをキープした末に逆転勝ちした。
「僕は試合で勝っても泣かないタイプなのですが、この試合では号泣していました。やっと強敵を1人倒せたという喜びはありましたが、ライバルを倒したというより、それまで自分の中で作ってきた道筋がひとつの形になった。そういうイメージに近い感覚でしたね。フィジカルを作ることももちろん必要でしたが一方で、同時にほかの選手や自分のことを客観的に見て分析することにも意識的に取り組みはじめた時期でした。相手の嫌なことはどんなことなのか。やはり勝つためには頭を使うテニスも必要。そうやって考え抜いてきた様々なことがバチッとハマった。そう思えた試合でもあったんです。実際、試合中も以前は全くついていけていなかったボールに対応して打ち合うだけでなく、試合をコントロールすることができていた。相手をどうやって崩していこうかということも考えられるようになっていました。ようやく同じ土俵に立つことができた。そんな感覚が近いかもしれません」
緻密な戦略と守備力の高さを駆使しながら長いレンジのラリーで相手を圧倒し、クセ球で揺さぶりをかけるテニスで自分のスタイルを確立した西岡。昨期から今期の序盤はなかなか勝てない試合が続いたが、勝つためにまた新たなスタイルを模索し、それをまた確立しはじめた。ショットの質の向上、フィジカルのさらなる強化などに取り組み、8月に米国で開催されたシティオープンでは長身のハードヒッターたちを倒し、準優勝を果たした。
「今は年明けの頃とは、だいぶ違う感情でテニスをしています。もっともっと成長していける部分がわかりますし、自分自身に可能性を感じていて、これからまだまだ上に行ける自信もあります。グランドスラムのシード権というのは目指しているところ。ランキングでいえば、30位以内には絶対に食い込んでいきたい」
テニス選手
西岡良仁
YOSHIHITO NISHIOKA
1995年、三重県生まれ。4歳でテニスをはじめ、15歳で盛田ファンドの支援を受けIMGアカデミーに。2014年にプロ転向を果たし、2015年の全米でグランドスラム本戦初勝利。2018年の深セン・オープンで念願のツアー初優勝。ATP世界ランキングは、41位(2022年10月4日現在)。
TAMURA'S NEW WORK
[ニューエラ]
「堀口選手の動きは身体を自然に動かしているという印象で、力を抜くところは抜いていました。そういった“動”の中の“柔”のようなものも意識して描いています。写真やリアルを超えたビジュアル表現= “ビヨンド・ザ・リアル”な作品として楽しんでほしいですね」
絵にしたからこそ感じられる“熱”を
〈ニューエラ〉をまとい、右ストレートやミドルキックを放つ総合格闘家の堀口恭司。同社がサポートする堀口を、展示会や店頭用ビジュアルとして描いた。
「今回は写真の撮影に立ち会い、絵の視点から描きやすいポーズをしていただきました。それをもとに描いたので、いつも とはまた違う躍動感を表現できたかもしれません。堀口選手の動きを間近に見て、打撃の際、ガチガチに力が入っているのではなく、力を抜くところは抜いているのが印象的でした。そのニュアンスも絵から感じてもらえたら嬉しいです」
写真や見た情報をもとにしているが、それ以上のものを描きたい思いがある。
「絵にすることで、写真や現実を超えたものが表現したい。僕の絵は汗などのディテールがなく、ピントも写真と違って全部に合っています。美術表現として正しくない部分もありますが、だからこそその人が持つ熱やエネルギーを感じられる。そんな作品を追い求めています」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは20万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO