【まとめ】ヤバくて怖いサイコパス映画12本
人間の狂気が恐ろしいサイコパス映画をセレクト。これなら幽霊の方がまだ怖くない!? なお、記事後半はネタバレ付きなので、ご注意を!
『私が、生きる肌』
製作年/2011年 監督/ペドロ・アルモドバル 出演/アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ
亡き愛妻の顔を移植する!
主人公は妻に先立たれ、娘をも自殺で亡くしてしまった天才整形外科医。孤独の中で狂気に憑かれ、人工皮膚の開発に熱中する彼は、ひとりの”女性”を地下の研究室に監禁して、禁断の実験を続けていた。予期せぬトラブルを経て、ロベルはついに彼女の皮膚を完成させる。その姿は、亡き妻にそっくりだった。しかし、彼女の心まではロベルのものにはならず、やがて悲劇が起こる……。
『ペイン・アンド・グローリー』で賞レースを賑わせたのも記憶に新しいスペインの鬼才ペドロ・アルモドバルによるサスペンス。『マタドール<闘牛士> 炎のレクイエム』『アタメ』など彼の作品には狂気的な愛情を題材にした作品は少なくないが、なかでも本作はとりわけ鮮烈。
人体実験を行なう医師の執念はもちろん、監禁されている女性のゴムマスクとタイツ姿やうつろな存在感も強い印象を残す。ロベルを演じるアルモドバル作品の常連俳優で、初期の彼の作品でも何度かサイコなキャラを演じてきたアントニオ・バンデラスの怪演に注目。
『ナイトクローラー』
製作年/2014年 製作・出演/ジェイク・ギレンホール 監督/ダン・ギルロイ 出演/レネ・ルッソ
スクープ映像を過激演出!
ロサンゼルスで貧しい生活から抜け出そうともがく青年ルイスは、スクープ映像を売る報道カメラマンの仕事に目をつける。誰よりも早く事件現場に駆けつけて、衝撃的な映像を収めることがすべて。
ルイスは警察無線を傍受してスクープを射止め、スキャンダラスな映像が欲しいTV局に売りつけてはビジネスを拡大。やがて強盗殺人事件の現場に駆け付けたルイスは、このスクープをより大きなものにしようと、常軌を逸した行動に出る……。
フリーの報道カメラマンの暴走を、『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホールが鮮烈に体現した問題作。主人公ルイスは金になるニュース映像のためなら何でもする。映像の衝撃度を増すために”演出”を施したり、商売敵に罠を仕掛けて事故らせたり。
雇い人の事故死も、彼にとってはニュース映像でしかない。そして、視聴率にこだわるニュース番組のプロデューサーは喜んでそれを買い取る。主人公はもちろん、メディア全体がもはやサイコパスなのかもしれない!?
『ファニーゲームUSA』
製作年/2007年 製作総指揮・出演/ナオミ・ワッツ 監督/ミヒャエル・ハネケ 出演/ティム・ロス
爽やかそうな人には気をつけろ!?
オーストリアの異才ミヒャエル・ハネケが出世作『ファニーゲーム』を英語でリメイクした衝撃作。湖畔で休暇を楽しんでいた一家の別荘に、卵を分けて欲しいと訪ねてきた礼儀正しい青年。それは一家の悪夢の始まりだった。
青年ふたりは別荘に入り込んできて占拠。ゲームと称した拘束と暴力。夫は脚をゴルフクラブで砕かれて身動きができない。子供の、そしてみずからの命の危険を察した妻は必死の抵抗を試みるのだが……。
白いポロシャツをまとった青年ふたりが、爽やかそうに見えるのは、あくまで見かけだけの話。その正体は、いっさいの罪悪感を、また慈悲を抱くこともなく他人を痛めつけるサディストたち。
ゲームのように暴力を楽しみ、極限まで痛めつけて、つまらなくなったら殺してしまう。主人公一家だけでなく、近隣で脈々と被害者たちが続出していることにもゾッとさせられる。一見すると愛想はよいが、悪意の塊のような人間が隣にいるかも!?……そう思わせる怪作。
『アメリカン・サイコ』
製作年/2001年 監督/メアリー・ハロン 出演/クリスチャン・ベール、ウィレム・デフォー、ジャレッド・レト
マウンティングしてくる奴に注意を!
主人公パトリックは裕福な家庭に生まれ育ち、エリート街道を歩んで投資会社の副社長に上りつめた27歳の青年。ナルシスティックなまでに肉体をケアし、完璧でないことは許せないタチだ。
そんな彼の前に、より完璧に近い青年が現われたことから運命の歯車が狂いだす。嫉妬に駆られ、イラ立ちに突き動かされて、道で偶然出会ったホームレスを撲殺する。以来、殺人衝動は止まることを知らず、彼の周囲には次々と死体が転がっていく。
全米でベストセラーとなった小説を、演技派クリスチャン・ベールの主演で映像化。主人公パトリックのアイデンティティは、自分が誰よりも優れていると思うことにあり、ステイタスを追求し続け、他人を見下しては悦に入っている。
それだけなら、ただのイヤなヤツだが、優生思想も手伝って殺人の欲求が加速。他人の命を奪ってでも、優位に立っていたい。ある意味、究極のマウンティングといえるサイコパス。周囲には絶対いてほしくないタイプだ。
『ミザリー』
製作年/1990年 原作/スティーブン・キング 製作・監督/ロブ・ライナー 出演/キャシー・ベイツ、ジェームズ・カーン
熱烈なファンでも油断禁物!
人里離れた雪道で交通事故を起こし、脚を骨折して身動きがとれなくなった人気作家。彼を助けたひとり暮らしの地元の女性は、奇しくも彼の小説の熱烈なファンだった。大雪で外界と連絡を取る手段も断たれ、怪我が治るまで、作家は元看護士という彼女の世話になることに。
ところが、この女性は癇癪持ちであるばかりかストーカーの気もあり、雪山でポールが執筆していることも知っていた。やがて作家がお礼にと、発刊前の小説シリーズ最終巻の原稿を見せたとき、望んでいた結末とは違うことに激怒した彼女は狂気を加速させていく。
モダンホラーの旗手スティーブン・キングの小説を映画化したストーカー・スリラー。狂気の女性を怪演したキャシー・ベイツは本作でアカデミー主演女優賞を受賞したが、それも納得のなりきりぶりで、とにかく怖い。脚を怪我した作家が動けないのをいいことに小説の書き直しを命じ、脚が治りかけるとハンマーで殴って再び骨折させる鬼女。時おり見せる、機嫌のよい笑顔さえも怖くなる!
『ノーカントリー』
製作年/2007年 製作・監督・脚本/ジョエル&イーサン・コーエン 出演/ハビエル・バルデム、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン
危機また危機の状況に引き込まれる!
舞台はアメリカ、テキサス州の国境近くの町。狩りの最中に、麻薬取引現場での惨殺事件に遭遇した男が、そこに残されていた大金を持ち逃げした。その頃、麻薬組織に雇われた不気味な殺し屋が、大金持ち逃げ犯を追跡。
男は妻を匿おうとする一方で、国境を越えてメキシコへ逃亡する。その頃、彼の妻から通報を受けた老保安官が事件を追っていた。果たして、彼らにどんな運命が待っているのか!?
米アカデミー賞で作品賞をはじめ4部門を制した名匠ジョエル&イーサン・コーエンの力作。普通に生きてきた男が欲を出したばかりに、巻き込まれていく危機また危機の状況は、さまざまな人々の思惑に揺さぶられ、どんどん緊張感を増していく。
とりわけ、ハヴィエル・バルデム扮する暗殺者のサイコパスというべき存在感は圧倒的で、ヘンな髪型で、ニコリともしない冷たい無表情が鮮烈な印象をあたえる。同じコーエン兄弟の監督作『ブラッドシンプル』『ファーゴ』と見比べるのも一興。
『グレタ GRETA』
製作年/2018年 製作総指揮・監督/ニール・ジョーダン 原案・脚本/レイ・ライト 出演/イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー
バッグを拾っただけなのに……
NYのレストランで働く若い女性フランシスは母との死別の悲しみを引きずっていた。そんなある日、地下鉄で忘れ物のバッグを届けようとした彼女は、持ち主の初老女性グレタと知り合う。彼女に母の面影を重ね、親しみを覚えるフランシス。
ところが、グレタは次第に支配欲をむき出しにして、彼女を付け回すようになる。恐怖を感じたフランシスは拒絶して逃げようとするが、すでにグレタの罠は張り巡らされていた……。
『クライング・ゲーム』『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のニール・ジョーダン監督が仕かけるサイコスリラー。疑似親子愛を利用する悪女グレタは、はっきり言ってストーカーなのだが、タチが悪いのは若い女性を自分の理想の“娘”にするために監禁・調教していること。
隠し部屋に閉じ込められたら最後、絶望が待つのみ……なのだ。恐怖に直面するフランシスを演じたクロエ・グレース・モレッツの熱演はもちろん、グレタにふんする大女優イザベル・ユペールの怪演も怖い!
『羊たちの沈黙』
製作年/1991年 原作/トマス・ハリス 監督/ジョナサン・デミ 出演/ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン
普段は紳士、スイッチが入るとサイコパス!
アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞の主要部門を総なめにした傑作。女性を誘拐し、皮を剥いで殺害する連続殺人事件が発生し、FBIの訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)が捜査に加わることに。彼女の役目は、収監中の天才精神科医レクター博士(アンソニー・ホプキンス)と協力し、心理的な面から事件の犯人像に迫ることだった……。
<ここからネタバレ>
傑作ゆえにもはや周知の事実ではあるが、レクター博士は自らの患者たちを惨殺し、その人肉を食べた究極のサイコパス! 普段は紳士的で、聡明で、クラリスにも敬意を払っているが、カニバリストのスイッチが入るとやはり強烈さが浮き彫りになってくる。その一方、賢さゆえの人間的魅力にもあふれているため、映画の公開後にサイコパスのイメージが向上したとかしないとか!?
『ネオン・デーモン』
製作年/2016年 原案・監督・脚本/ニコラス・ウィンディング・レフン 出演/エル・ファニング、カール・グルスマン、キアヌ・リーブス
強烈なクライマックスに衝撃!
『ドライヴ』などの鬼才ニコラス・ウィンディング・レフンが、華やかなファッション業界に蠢く欲望と狂気を独特の映像スタイルで描写。トップモデルを夢見て田舎からLAにやって来たジェシー(エル・ファニング)は、有名カメラマンらの目に留まって順調なキャリアを邁進。勢いづく彼女をライバルたちが引きずりおろそうとするが……。
<ここからネタバレ>
モデルとしてサバイブしていく中で野心を燃えたぎらせていくジェシーもサイコ味漂うヒロインだが、真のサイコパスは彼女への嫉妬を募らせるモデル仲間。ジェシーの若さと美しさを自分のものにしたい彼女たちは、ジェシーを死に追いやった挙句、その死体を食べてしまう。そんな彼女たちをサイコパスと呼ぶか、美の追求者と呼ぶかは観る者次第!
『リグレッション』
製作年/2015年 製作・監督・脚本/アレハンドロ・アメナーバル 出演/イーサン・ホーク、エマ・ワトソン、デビッド・シューリス
少女への虐待、その結末は……?
『アザーズ』などの名匠アレハンドロ・アメナーバルが、アメリカで起きた社会的騒動に着想を得て物語を創造。1990年、ミネソタ州の田舎町で少女アンジェラ(エマ・ワトソン)が父親からの虐待を告発し、刑事のケナー(イーサン・ホーク)が事件を捜査することに。だが、身に覚えがない父親が罪を認めるなど、事件は奇妙な方向へと進んでいく。そんな中、ケナーはアンジェラの証言から、事件の中に悪魔崇拝の儀式との関連を見出しはじめ……。
<ここからネタバレ>
オカルトなムードが充満する作品だが、気の毒なアンジェラこそが事件を操っていた張本人だと判明! 家族を憎みながら成長したアンジェラのねじれた復讐心が、一連の騒動を生み出している。そして、ここがまさに“社会的騒動に着想を得た”部分。悪魔崇拝の儀式が次々と告発され、人々がパニックと疑惑の渦に陥った80~90年代の集団ヒステリー騒動を、アメナーバル監督はサイコパスなアンジェラの企みに託している。
『フォーリング・ダウン』
製作年/1993年 監督/ジョエル・シュマッカー 脚本/エブ・ロー・スミス 出演/マイケル・ダグラス、ロバート・デュバル、バーバラ・ハーシー
哀愁を誘うサイコパス!
名匠ジョエル・シュマッカーが手掛け、マイケル・ダグラスが“キレた主人公”を演じるスリラー。真面目なサラリーマンだったウィリアム(ダグラス)は猛暑のある日、工事による大渋滞が続くハイウェイでクルマを乗り捨てる。極度の苛立ちを抱える彼はその後、行く先々で狂ったように事件を巻き起こしていき……。
<ここからネタバレ>
妻に離婚され、愛する娘とも会わせてもらえず、勤めてきた会社もクビになってしまったウィリアム。いけ好かない店主のいる雑貨店で暴れたり、不良をバットで殴ったり、無意味な工事の続く道路をバズーカで爆破したり……。時間が経てば経つほどサイコ味を増し、手がつけられなくなるウィリアムだが、理不尽な社会に対する怒りと暴力が彼の行動に込められているのもまた事実。“共感を呼び、哀愁を誘うサイコ”ともいえる。
『ハッピーボイス・キラー』
製作年/2014年 監督/マルジャン・サトラピ 出演/ライアン・レイノルズ、ジェマ・アータートン、アナ・ケンドリック
異色の明るいサイコパス映画!
『ペルセポリス』などで知られるイラン出身の女性監督マルジャン・サトラピが、ライアン・レイノルズとタッグを組んだブラックコメディ。バスタブ工場に勤めるジェリー(レイノルズ)は、ペットの犬や猫の声が聴こえる風変わりな青年。ひょんな偶然が重なって気になる同僚女性と急接近したジェリーだが、残念ながら彼女を殺してしまう事態に……。
<ここからネタバレ>
過去にトラウマを抱えるジェリーは精神科医の下で絶賛治療中だが、処方薬を飲むのをやめたせいで徐々にサイコ化。好きな相手をサクサクと刺したり、その死体をバラバラにしてタッパーに詰めたり、生首部分は冷蔵庫で綺麗に保管したり。しかも、悪気はないのに死体の山は増えていく始末で、どんどん狂気な展開へと陥っていく。だが、とにかくキュートで楽しい語り口のため、明るいサイコパス映画として楽しめる。
photo by AFLO