『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』が映画界の残したものとは?【後編】 ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.29
もちろんショーンだけでなく、ベン・アフレック扮する親友チャッキーとの友情も熱く胸を打つ。前向きな未来に向けて最後の一歩をなかなか踏み出せないウィルに、チャッキーは労働中の工事現場でこう言い放つのだ。
「親友だからハッキリ言おう。20年経ってお前がまだここに住んでいたらぶっ殺してやる。脅しじゃない、本気だせ。俺は50歳になって工事現場で働いていてもいいんだ。でもお前は宝くじの当たり券を持っているのに、それを一生ケツに敷いて暮らす気なのか!?」――。
まだリアルに青春の輝きを帯びたデイモン(27歳)&アフレック(25歳)の姿が眩しい。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』は、本当に“優しい男たち”の抒情に包まれた映画だ。その優しさの裏には、繊細な哀しみも貼り付いている。ショーン役のロビン・ウィリアムズは1970年代半ばからコメディアンとして活動をはじめ、俳優として『ガープの世界』(1982年/監督:ジョージ・ロイ・ヒル)、『グッドモーニング、ベトナム』(1987年/監督:バリー・レヴィンソン)、『いまを生きる』(1989年/監督:ピーター・ウィアー)、『レナードの朝』(1990年/監督:ペニー・マーシャル)など多数の代表作を持つ名優だが、キャリアを通して薬物乱用や鬱病に苦しみ、晩年には運動障害も重なって2014年に63歳で自ら命を絶った。本作の演技では生涯で唯一のオスカー(アカデミー賞助演男優賞)を獲得している。
そしてもうひとり、デイモン&アフレックだけではなく、この映画で一躍世間に名を馳せることになった人物がいる。シンガーソングライターのエリオット・スミスだ。もともとオレゴン州ポートランドの知る人ぞ知るローカルな存在だった彼を、やはり当時ポートランド在住だったガス・ヴァン・サント監督が本作の主題歌とメインの挿入歌担当に大抜擢。『Between The Bars』をダニー・エルフマンと新録し、『No Name #3』『Angeles』『Say Yes』という既成曲が劇中に流れる。そして新たに書き下ろした主題歌『Miss Misery』はアカデミー賞歌曲賞にノミネートを果たし、1998年3月の授賞式でも演奏した(ちなみにこの時、オスカーを獲得したのは『タイタニック』の主題歌であるセリーヌ・ディオンの『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』)。彼の楽曲群はハル・アシュビー監督の『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』(1971年)のキャット・スティーヴンスにも比肩する詩情を備え、本作のニューシネマ・タッチをさらに薫り高くしている。だが皮肉にもエリオット・スミスは派手な名声や表舞台を望んでいた人間ではなかった。2003年にロサンゼルスの自宅にて34歳の若さで自死。スミスもまた『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のウィルやショーンと同じく、幼い頃に継父から虐待を受けていたことが明らかになっている。ガス・ヴァン・サント監督はスミスの死後、『パラノイド・パーク』(2007年)でも彼の楽曲『Angeles』と『The White Lady Loves You More』を劇中で使用した。
また『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の成功を受けた後日談的なパロディとして、ベン・アフレックをはじめ、マット・デイモン、ガス・ヴァン・サント監督が本人役で登場するのが『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲』(2001年)。本作の監督、ケヴィン・スミスは『モール・ラッツ』(1995年)や『チェイシング・エイミー』(1997年)などでアフレックと組んでおり、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の脚本をミラマックスに売り込んでくれた恩人なのだ。まさしくこの名作は幾つもの友情が何層にも折り重なって出来ている。エリオット・スミスの名曲『Miss Misery』をバックに、チャッキーら悪友たちからプレゼントしてもらったオンボロ車を走らせる、21歳の誕生日を迎えたウィルの“旅立ち”をしっかり見届けて欲しい。
『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』
製作年/1997年 監督/ガス・ヴァン・サント 脚本・出演/ベン・アフレック、マット・デイモン 出演/ミニー・ドライヴァー、コール・ハウザー、ロビン・ウィリアムズ、ステラン・スカルスゲールド、ケイシー・アフレック
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』が映画界の残したものとは?【前編】
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』が映画界の残したものとは?【中編】
photo by AFLO