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CULTURE カルチャー

2024.07.07


チョットしたことがトンデモない事態に発展する映画5選!



『アメリカン・フィクション』
製作年/2023年 監督/コード・ジェファーソン 脚本/コード・ジェファーソン 出演/ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、エリカ・アレクサンダー

偽名で出版した小説がまさかのベストセラー!?
大学で文学を教える作家のエリソンは苛立っていた。いわゆる『アフリカン・アメリカン文学』とは何だろうかと。世間にはステレオタイプがあふれている。彼自身、その枠組みを超越する努力を続けながら、出版社からは「売れ線ではない」と拒絶されてしまう始末。いつしかエリソンは、怒りと自虐と挑発心に駆られて、エグいほどステレオタイプを貫いた一冊を別ペンネームで書き上げるのだが、これが意外にも直球で受け止められ、映画化に向け動き出すどころか、文学賞候補にも挙がるなど一大ブームを巻き起こしていく。

ほんの思いつきで生まれた作品や別人格が、自分の預かり知らないところで勝手に一人歩きをはじめる……そんな展開は様々なジャンルでお馴染みなもの。本作はまさに今の時代、誰もが口に出せない芯を食った本音を嫌味なくスマートに描き、さらにエリソンが育った、アフリカン・アメリカンではあっても比較的裕福で個性的な面々が彩る家庭環境を中心に据えることで、肌の色、差別、貧富の差に縛られない唯一無二の豊かな味わいを滲ませる。とにかく、主演ジェフリー・ライトの演技がお見事な一作。アカデミー賞では5部門で候補入りし、脚色賞を獲得した。
 

  

 


『アメリカン・スプレンダー』
製作年/2003年 監督・脚本/シャリ・スプリンガー・バーマン、ロバート・プルチーニ 出演/ポール・ジアマッティ、ホープ・デイヴィス、ジェームズ・アーバニアク

冴えない日常を綴ったコミックが伝説の人気作に
70年代、クリーブランドの病院で書類整理係として地道に働くハービー・ピーカーは、度重なる離婚に心折れそうになりながら、世の中をやぶ睨みし、けだるく過ごす毎日。だが、人生これだけは終われないと、真っ白な紙に鉛筆でコマ割りして、日々の出来事を記しはじめる。これがコミックの原作となり、味わい深いその内容にロバート・クラムをはじめとするアーティストらが作画して生まれたのが、自伝的作品『アメリカン・スプレンダー』。その面白さは従来のコミックの領域を押し広げ、巻を重ねるごとに根強い人気を呼びはじめる……。

ポール・ジアマッティが主人公ハービー役を妙演する中、時折、ハービー本人が妻ジョイス・ブラブナーやその仲間たちと共に本編に顔を出し、自ら心境を語るというドキュメンタリー的な側面すら持ち合わせた作品。なるほど、これぞまさに伝説的コミックの映画版にふさわしい特殊な語り口と構造というべきだろう。自らのガン闘病や孤独やトラブルにまつわる不幸話を赤裸々に取り入れつつ、作品を織りなす常連キャラへの眼差しはどこか慈愛に満ち、温かい。そのハービーも映画の公開から7年後、この世を去った。
 

  

 


『ヒップホップ・プレジデント』
製作年/2003年 製作・監督・脚本・出演/クリス・ロック 出演/バーニー・マック、ティラン・ベイカー、タマラ・ジョーンズ

まっすぐな理念と極上のノリで大統領を目指せ!
アカデミー賞授賞式におけるウィル・スミスとの一件で注目を集めたクリス・ロックが、キャリアの絶頂期にあった00年代初頭、主演や脚本、プロデュース、それに監督を兼任して挑んだポリティカル・コメディ。主人公メイズ・ギリアムは、貧困地区に暮らす人々の役に立とうと、とことん現場主義で活動する市会議員。今日も解体作業のため爆破寸前の住居から老女と猫を救い出し、街の皆から絶賛されたばかり。そんな姿をメディアで見た大物政治家が事もあろうにギリアムを大統領候補へ担ぎ上げようと画策し……。

仕事を失い、恋人から捨てられたアフリカン・アメリカンの主人公が、いきなり全米の熱い視線を浴びる大統領候補へ。そんな無謀で危なっかしい夢物語をクリス・ロックはノリノリで演じきる。遊説や資金集めパーティでも、彼が行くところでは誰もがド直球のマイクパフォーマンスに沸き、手を高く掲げ、ゴキゲンなタテ乗りリズムで大盛り上がり。まるで数年後のバラク・オバマの台頭を予期したかのような、というのはいささか言い過ぎだが、しかしこの型破りの選挙戦、なかなか楽しい。
 

  

 


『マッシブ・タレント』
製作年/2022年 監督・脚本/トム・ゴーミカン 出演/ニコラス・ケイジ、ペドロ・パスカル、シャロン・ホーガン

カリスマ俳優の潜入捜査がこんな大ごとに!?
彼の名はニコラス・ケイジ。灼熱のアクションから正統派の人間ドラマまでなんでもこなす”憑依型の演技”として知られるカリスマ俳優である。今日も彼の名演に熱狂するファンがいる一方、当の本人はやや心が不安定(注:本作はフィクション)で、ちょっとしたことで「俺の俳優生命はもう終わりだぁっ!」と落ち込んでしまう。見かねたエージェントが息抜きに勧めたのは、豪華パーティに参加するお仕事。笑顔を振りまき、名台詞の一つや二つ口にして簡単に終わるはずだったが、しかしこの主催者のジャヴィとやら、実はCIAもマークする危険人物らしく、ケイジはいつしか映画顔負けの危険な潜入捜査を買って出ることに。

かくもケイジがケイジ本人役を演じるという遊び心たっぷりの異色作。厄介なのは、悪人かもしれないジャヴィが実はケイジの大ファンで、世界でいちばんの理解者でもあるということだ。次第に深い絆で結ばれていく彼らが、二人して壁を破り、ケイジの輝ける場所を作り出そうとする姿にもう爆笑しっぱなし。ケイジ映画を愛する人なら必ずや魂を射抜かれ、そうでなくとも噛めば噛むほど染み出す珍味に心奪われるはず。
 

  

 


『ロードキラー』
製作年/2001年 製作・脚本/J・J・エイブラムス 監督/ジョン・ダール 出演/ポール・ウォーカー、スティーヴ・ザーン、リリー・ソビエスキー

何気ない悪戯が生んだ怖すぎる代償とは!?
購入したての中古車でハイウェイをひた走る若き兄弟が、退屈しのぎに無線機を使って長距離ドライバーと交信し、ほんの軽い気持ちで女性の声をマネて誘惑したのが運の尽き。ドライバーの怒りを買った彼らは、その後、どこへ行っても行動を見張られ、どこまでも執拗に追いかけられる、絶体絶命のトルネードのような状況へと陥っていく……とまあ、完全なるスピルバーグの出世作『激突!』のオマージュでありながら、持ち前のアイディアとフレッシュさが鮮烈に突き刺さる快作だ。

『激突!』の主人公が疲れた中年サラリーマンだったのに対し、本作でメインを張るのは、00年代初頭、ハリウッドで人気の若手実力派たち。ヴィヴィッドな感情と行動力、テンポの良い会話劇に加え、途中からはヒロインとの微妙な三角関係をも加味しながら、各々の人物像を濃密に際立たせる。当時、制作会社バッド・ロボット・プロダクションズを設立したばかりのJ.J.エイブラムスが製作、脚本で参加しており、単なる“クルマでの追いかけっこ”に縛られない、あの手この手でスリルが持続するまさに原題どおりの”Joy Ride”な展開に注目したい。

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文=牛津厚信 text:Atsunobu Ushizu
Photo by AFLO
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