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CULTURE カルチャー

2024.06.23

法で裁けない悪を退治する!
復讐のヴィジランテ映画5選!



『パニッシャー』
製作年/2004年 監督・脚本/ジョナサン・ヘンズリー 出演/トーマス・ジェーン、ジョン・トラヴォルタ、ロイ・シャイダー、ウィル・パットン

親族が殺された復讐を自ら行う!
70年代にマーベルコミック内に登場して人気を集め、80年代、ついに単独コミックデビューを果たしたパニッシャー。2度目の映画化となる本作では、FBI捜査官フランク・キャッスルのおとり作戦によってギャングの親玉の息子が死亡し、その復讐としてキャッスルの妻子のみならず親族の命が根こそぎ奪われるという壮絶な仕打ちを受ける。負傷を乗り越えた彼は、黒のロングコートにドクロマークのTシャツというスタイルで、感情に支配された復讐ではなく、法の及ばない巨悪への”制裁(punishement)”として、容赦ない攻撃を仕掛けていくーーー。

マーベルヒーローでありながら、彼自身は何らスーパーパワーを持たず、とりわけ本作ではひたすら”生身の体”で立ち向かう姿が特徴的。その点、CG満載のSFアクションとは違い、作り手曰く、レオーネ、ペキンパー、シーゲル作品にインスパイアされたザラついたバイオレンス色を前面に出しているのだとか。通常のアクション大作に比べると予算が少なく、脚本冒頭にあった大事なシーンすらも取りやめになったほど。それでも挫けず、なんとか形にした監督&キャストの執念がにじむ作品である。
 

  

 


『マッドマックス』
製作年/1979年 監督・脚本/ジョージ・ミラー 出演/メル・ギブソン、ヒュー・キース・バーン、ロジャー・ワード

警察官が復讐の鬼と化す!
70年代の終わり、医師としてキャリアを築きながら映画監督の道へ入り込んだジョージ・ミラーと、無名の駆け出し俳優だったメル・ギブソンが運命的に巡り合うことで生まれたSFアクション。暴走ライダー軍団が傍若無尽の限りを尽くす近未来のオーストラリアで、警察は彼らを取り締まるべくV8エンジン搭載の特殊車両を駆使して追跡作戦を展開するがーーー。

容赦ない追跡は壮絶な復讐を呼び、その連鎖は悪化するばかり。相棒を殺され、幼い我が子を失い、愛する妻も重傷を負わされた主人公マックスはいつしか法の番人としての立場を脱ぎ捨て、”復讐の鬼”となって超術スキルでマシンを走らせる。この怒気とハイテンションはまさに天井知らず。具体的なバイオレンス描写を映すことなく、むしろ度重なるイメージと矢継ぎ早の編集、ピンポイントのカークラッシュや爆破を描写することで低予算ながら劇的なまでの効果を獲得している。『マッドマックス:フュリオサ』公開中の今だから見直したい、荒削りながらダイヤ原石の輝きを持った一作。映画史を揺るがす伝説はこうして幕を開けた。
 

  

 


『グラン・トリノ』
製作年/2008年 監督/クリント・イーストウッド、出演/クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン

移民一家を救うために銃を取る!
生きる伝説、クリント・イーストウッドが78歳で手掛け、観る者を豊かな感動で包み込んだヒューマンドラマである。妻を亡くしたばかりのコワルスキーはいつも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、口を開くと悪態ばかり。当然、息子や孫からも嫌われ、彼はいつも一人ぼっちだ。唯一の誇りは、倉庫に眠る1972年製の名車グラントリノだけ。そんな矢先、最初は毛嫌いしていた隣人のアジア系移民家族との交流がはじまり、唯一無二の絆が育まれていき……。

イーストウッド映画らしい「孤高のタフガイが守るべき他者のため命を賭けて闘う」という文脈を踏襲しながら、老い、戦争の記憶、過去の贖罪、信仰、尊厳、移民国家アメリカといった多様なテーマが融合し、驚くべきしなやかさと無駄のなさで照射された傑作。家族以上に親しみを寄せる移民一家がギャングの脅威にさらされる時、老人は彼らのために銃を取る。しかし暴力は暴力しか生まないと悟りーーーそこで下す思いがけない決断が感動的だ。彼が生涯に渡って続けるアウトサイダー・ヒーローとしての究極の形がそこには刻まれている。
 

  

 


『狼よさらば』
製作年/1974年 監督/マイケル・ウィナー 脚本/ウェンデル・メイズ 出演/チャールズ・ブロンソン、ヴィンセント・カーディニア、ホープ・ラング

観る者の倫理観を揺さぶる問題作!
凶悪犯罪の発生率が過去最悪のペースで増加する70年代のニューヨーク。ある日、建築会社で働くポールの自宅が暴漢たちの急襲を受け、居合わせた妻は殺害、娘は凌辱された末、心神喪失に陥ってしまう。悲しみを乗り越えようとする彼だったが、取引先の相手から拳銃をプレゼントされたことで何かが変わる。いつしか街にはびこる犯罪者を探し鉄槌を下す”謎のヴィジランテ”となって夜の街を徘徊するようになりーーー。

地下鉄や川沿いで一人、また一人と悪が葬られる異常事態によって、犯罪発生率はこれまで警察がなしえなかったレベルで急激に下降。市民の一部からはその行動が大いに称賛される……という個人と社会に目を向けた物語を展開させ、加えてそこに西部開拓時代の人々が自ら銃を取ってきたアメリカ史すら示唆しながら、本作はなんとも挑発的な切り口で観る者に出口なき命題を突きつける。束の間の平穏を手にした先には何が待ち構えるのか。ブロンソン主演の同シリーズは全5作に及ぶ。気になる方はぜひその後の命運を見届けてほしい。
 

  

 


『プロミシング・ヤング・ウーマン』
製作年/2020年 監督・脚本/エメラルド・フェネル 出演/キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン

男に鉄槌を下す謎の美女カサンドラがカッコイイ!
クラブやバーで飲み潰れ、意識も朦朧とした一人の女性がいる。男たちは親切に介抱するかに見せて、腹の底では自宅に連れ込もうと必死だ。そうしてベッド上で欲望みなぎる素顔を晒した瞬間、実は微塵も酔っ払ってなどいなかった彼女の鉄槌が下るーーー。かくも女性を食い物にする男たちに制裁を加えるべく、夜な夜な活動を続けるカサンドラ。彼女を突き動かす心の内側に秘めたものとは一体何なのか!?

#MeToo運動が社会を突き動かす時代性の中で生まれた作品でありながら、女優、プロデューサー、脚本家などの多彩な顔を持つエメラルド・フェネル(ドラマシリーズ『ザ・クラウン』ではカミラ役を妙演)の類稀なる演出によって衝撃性と娯楽性を併せ持つ快作に仕上がった。とりわけ後半で判明するカサンドラの医学生時代の”過去”と、すべてにケリをつけるべく周到に準備されていくラストの復讐劇は先読みが不能。その一手一手にハラハラドキドキしつつ、彼女の心の扉からこれまで抑圧されてきたあらゆる感情が怒涛の如く流れ出す様に圧倒される。アカデミー賞では見事、脚本賞に輝いた。

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文=牛津厚信 text : Atsunobu Ushizu
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