Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2023.08.26

ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.19
『ダークナイト』が映画界に残したものとは?【前編】

ダークナイト

2023年の最新作『オッペンハイマー』(全米公開は7月21日)が盛大に絶賛を集めているクリストファー・ノーラン監督(ただし原子爆弾の開発者を描くという題材が懸念され、いまだ日本公開の目処は立っていない)。彼自身が敬愛するスタンリー・キューブリックの後継とも言われるほどの完璧主義者で、コロナ禍で皆が一気にストリーミングサービスに傾いたなか、ほぼ孤軍奮闘で(同志はトム・クルーズくらい!)劇場公開の大型映画にこだわり続ける現代の巨匠。

そんな1970年ロンドン生まれの彼がハリウッド&世界におけるトップエリートの座を揺るぎないものとした代表作が、2008年の『ダークナイト』だ。ご存じDCコミックの映画化企画で、“バットマン三部作”の真ん中に位置するもの。しかし第一作『バットマン ビギンズ』(2005年)と第三作『ダークナイト ライジング』(2012年)が、やたら地味だったり(前者)、お話が粗雑だったり(後者)したせいで、誰もがトリロジーであることを忘れたように、『ダークナイト』が単独で伝説の名作として屹立する結果となった。 

 
 

 
ダークナイト

『ダークナイト』が映画史に残したツメアトは当然深くて強烈なものだが、その跡形は主に3つある、と言えるかもしれない。

まずひとつめは、基本的に能天気ジャンルだったアメコミのスーパーヒーロー映画を、とびきりシリアス(社会派)に仕立てたこと。もちろんティム・バートン監督の『バットマン リターンズ』(1992年)という社会(リア充)から疎外された怪人たちの暗黒な内省を描く特殊な傑作も先行例としてあったが、『ダークナイト』は明確に9.11以降の“正義”の行方を問う構造を取っていた。

どういうことかと言うと、2001年9月11日、旅客機をハイジャックして米ニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込んだイスラム過激派が、あくまで自分たちの“正義”を信じてテロを行ったように、もはや何が“正義”だかわかんない混迷の時代相が映画のストーリーに反映されているのである。本来“悪の化身”であるジョーカーは、ゴッサムシティで大暴れにして市民社会を大混乱に陥れるのだが、しかし“正義”を担うはずのバットマンに「俺はお前と同じだ」と告げる。善悪の概念に囚われず、徹底した自由意志で気まぐれに行動するジョーカーは、まるで無邪気な子供がゲームで遊んでいるようだ。そんななか、コインの表裏のように、悪と戦う好青年だった検事ハービー・デントが、凶悪な復讐心の権化であるトゥーフェイスへと裏返る。「それってあなたの感想ですよね?」という風に、あらゆる“正義”が相対化されてしまう。こうした多様の形や立場の“正義”を撹乱させるキープレイヤーの前に、バットマンはひたすら悩み続け、あっけらかんと破壊を繰り返す宿敵ジョーカーが主人公の座を実質的にジャックしたのであった。
 

 
ダークナイト

確かに“ヒーロー映画”とは、何よりも時代の映し鏡であり、“正義”とは何か?を問う要素を持ったジャンルだと言える。その基準や所在が揺らぐとヒーローの存在意義そのものが危うくなるのだ。この現代的なリアルを社会時評のように示した『ダークナイト』が批評・興行ともに大成功したことで、影響と刺激を露骨に受けたのがDCのライバルであるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)である。

『ダークナイト』とほぼ同時期に公開されたMCU第一作『アイアンマン』(2008年/監督:ジョン・ファヴロー)は、まさに従来的なヒーロー映画の延長にあるイケイケの能天気路線だった。『アベンジャーズ』(2012年/監督:ジョス・ウェドン)とかもかなりの明るいバカ路線だったが、しかしアントニー&ジョー・ルッソ兄弟が監督を務めた『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)や『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)あたりから、MCUは人格が豹変したようにグッとシリアスで知的になる。
 

 
ダークナイト

人種差別の抗議運動“ブラック・ライヴズ・マター”と連結する『ブラックパンサー』(2018年/監督:ライアン・クーグラー)、リベラル多元主義と排他的な全体主義の戦いを象徴させたルッソ兄弟の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)や『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)へと続く流れは、ドナルド・トランプ政権時代の混沌を見据えながら併走する“政治映画”の顔をバリバリ強めていった。もちろんDCユニバースも基本的には同様で、あの格差や分断を抉る問題作にして傑作『ジョーカー』(2019年/監督:トッド・フィリップス)も、『ダークナイト』の成果なしには生まれ得なかったはずだ。(後編に続く) 

 
 

 

 
Information

●noteでも映画情報を配信しています。フォローよろしくお願いいたします!
https://note.com/safarionline

文=森直人 text:Naoto Mori
Photo by AFLO
〈サンローラン〉の新作スニーカーを俳優・山﨑賢人が履きこなす!所有欲を刺激するクラシックで洒脱な1足!
SPONSORED
2024.05.24

〈サンローラン〉の新作スニーカーを俳優・山﨑賢人が履きこなす!
所有欲を刺激するクラシックで洒脱な1足!

大人カジュアルの定番といえば、シンプルで上品なスニーカー。絶大な人気を誇る〈サンローラン〉のスニーカー“バンプ”の新作は、王道のクラシックなデザインに、さりげない遊び心が効いている。まさに大人の週末にぴったり。そんな注目の1足を、自らスニ…

TAGS:   Fashion
〈マクラーレン〉アルトゥーラ スパイダーなら叶う!高揚を誘うドライブで爽快な夏を先取る!
SPONSORED
2024.05.24 NEW

〈マクラーレン〉アルトゥーラ スパイダーなら叶う!
高揚を誘うドライブで爽快な夏を先取る!

プラグインハイブリッドの“アルトゥーラ”でスーパースポーツカーの新たな世界を創造した〈マクラーレン〉。今度はコンバーチブルバージョンの“アルトゥーラ スパイダー”が誕生した。爽快感のあるオープンエアで、どんな魅力が加わったのか。その答えを…

TAGS:   Cars
ポイントで効かせたい〈トム フォード アイウエア〉の柄フレーム!夏コーデが華やぐさりげないアクセント!
SPONSORED
2024.05.24 NEW

ポイントで効かせたい〈トム フォード アイウエア〉の柄フレーム!
夏コーデが華やぐさりげないアクセント!

シンプルになりがちな夏姿の格上げには、小物使いがものをいう。そこで、サングラスの出番だ。〈トム フォード アイウエア〉の新作はフレームの柄がきらりと光り、コーデのアクセントに欠かせない!

TAGS:   Fashion
生地や仕様にこだわった〈エルケクス〉の新作!週末に着るTシャツは紺×白が頼りになる!
SPONSORED
2024.05.24

生地や仕様にこだわった〈エルケクス〉の新作!
週末に着るTシャツは紺×白が頼りになる!

カラフルなTシャツもいいけれど、なんだかんだで頼りになるのは紺×白のTシャツ。そこで、今期こだわりたいのが“こなれ感”。たとえば軽く甘く編んで起毛させたスラブ素材、袖や裾、ネックまわりを味出ししたヴィンテージ仕様、そしてカレッジ調やミリタ…

TAGS:   Fashion
ひと味違う〈ロイヤル フラッシュ〉×〈ムータ〉の別注アイテム!週末シーンで映える個性的なロゴアイテム!
SPONSORED
2024.05.10

ひと味違う〈ロイヤル フラッシュ〉×〈ムータ〉の別注アイテム!
週末シーンで映える個性的なロゴアイテム!

着こなすアイテムが少なくなる夏カジュアルは、ロゴ使いで差をつけたい。そんなときに頼りになるのが、遊び心あふれるユニークなロゴがアイコンの〈ムータ)。なかでも〈ロイヤル フラッシュ〉の別注アイテムは、インラインとは一線を画すアレンジが絶妙。…

TAGS:   Fashion
〈IWC〉“ポルトギーゼ”の新作に隠された物語とは!?移り変わる空を表現したダイヤルで手元に品格を。
SPONSORED
2024.04.30

〈IWC〉“ポルトギーゼ”の新作に隠された物語とは!?
移り変わる空を表現したダイヤルで手元に品格を。

歴史あるブランドの時計ならではの魅力のひとつが、背景にある“物語”を楽しめること。〈IWC〉の新作では、そんな物語を、移り変わる空を表現したダイヤルで視覚的に楽しめる。清々しい朝から夕暮れに至り、また新しい1日へ。そんなロマンを感じるスト…

TAGS:   Urban Safari Watches

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ