マンハッタン ×『はじまりのうた』
エンターテイメントでも経済でも“世界の中心”といったら、やはりニューヨーク。行ったことがある人、これから行く予定がある人もたくさんいるだろう。あまりに巨大なメトロポリタンなので、短期間でその魅力を満喫するのは難しい。しかもそう簡単に行き来できる距離ではない。そんなNYへの愛を思い起こさせてくれるのが、映画の役割である。今月はNYを舞台にした映画の中から、厳選の1本を紹介しよう!
- SERIES:
- 映画を巡る旅に出よう! vol.6
音楽でこれからの人生もリミックス!?
『はじまりのうた』(2013年/アメリカ映画)
流行の最先端を走る街
マンハッタン( アメリカニューヨーク州/アメリカ)
● 原題:Begin Again
● 監督・脚本:ジョン・カーニー
● 出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レヴィーン
Story
ミュージシャンの恋人、デイブとともにイギリスからNYへ来たグレタだが、デイブの浮気が発覚し、別れを決意。失意の中、バーのステージで自作の曲を歌う彼女を目にした音楽プロデューサーのダンは、その才能に惚れこんでしまう。ダンはグレタにデモアルバムの制作を持ちかけ、ストリートミュージシャンの協力で路上レコーディングを敢行。2人の距離は近づいていくが……。
録音スタジオはNYの街角!?
アルバム制作の予算がないダンが思いついたのは、お金のかからない屋外で録音を行うという奇抜なアイデア。許可をとらず、ゲリラ的にあちこちを“屋外スタジオ”にしてしまう。その結果、NYの印象的なスポットがたくさん映像に収められ、NYの観光ムービーとしての魅力も満点に!
登場人物
恋人と別れたばかりの歌手
グレタ(キーラ・ナイトレイ)〈右〉
映画音楽で才能が認められた恋人のデイブにつきそって、イギリスからNYへ来た。自分もシンガー・ソングライターであり、デイブと別れ、友人に連れてこられたバーで歌っていたところ、ダンの目にとまる。
落ち目の音楽プロデューサー
ダン(マーク・ラファロ)〈左〉
かつてヒットメーカーだった音楽プロデューサー。時代についていけず、自分が設立したレコード会社からも解雇されてしまう。元妻や娘との関係もぎくしゃく。グレタの才能を信じ、自分の再起もかける。
ニューヨーク。世界中の人々にとって、憧れの都市。そして、思いもよらぬビッグチャンスが掴める場所でもある。そのせいか、街のすべてが刺激的でエネルギーにみなぎっているし、世界でもトップクラスのカルチャーと出合えるので、観光で訪れてもテンションが上がりっぱなしになるはず。ここ10~20年くらいで、タイムズスクエアやロウアーマンハッタンなど、急速に観光地化された地区もあるけれど、それらも新たな魅力を発し、心ときめかせる風景にはこと欠かない。そんなNYだから、映画の舞台としても“映える”のは当然である。NY映画は、ひとつのジャンルと言ってもいいほど魅力的なのだ!
『はじまりのうた』はNYを舞台にした映画の中でも、とりわけ“街”が主役として感じられる1本。ヒロインのグレタはロンドンから来た設定なので、アウトサイダー=観光客目線で街が描かれる面もあるし(監督のジョン・カーニーもアイルランド人)、アルバムを制作する主人公たちが、ゲリラ的に街頭で演奏するのが物語のメイン。その背景として定番の観光地から知られざる路地裏まで多くのスポットが登場し、NYの息づかいを感じさせてくれるのだ。自転車や徒歩、地下鉄での移動シーンも多いし、グレタが恋人と最初に暮らす広いロフトのアパートなんて、典型的なNYスタイル!こうした映像に、NYらしい“夢を求める”ドラマがぴたりとハマる。
NYは常に最先端のトレンドがアップデイトされる大都市ながら、古きよきクラシカルな建築が街を埋め尽くし、未開発の場所にも味わいがあったりする。この独特の“風情”を『はじまりのうた』で実感できるはず。もしNYに行く予定があって、気持ちを盛り上げるためになにか映画を……と考えている人は、マストで観ておくべき1作だとおすすめしたい。
Place01 ミートパッキング・ディストリクト
その名前のとおり、かつて“肉を詰める”精肉加工店がひしめき合ったロウアーウエストの地区。10年くらい前から外観は古いままの工場跡にブティックやレストランが入り、高架鉄道の線路も美しい遊歩道となって、お洒落地区へ変貌した。観光客が少ない路地裏にはまだ工場跡の雰囲気が残り、映画でもこっそりライブ録音する場所として登場している。
●Meatpacking District
Place02 ゲイリーズ・ロフト
エンパイア・ステート・ビルの近くの36丁目にあるスタジオ。映画や雑誌、PVなどの撮影用として、多様なスタジオを備える。ファッションショーに使われるほど広いスペースも。映画には、このスタジオの屋上で日中から夜までのライブ録音シーンがあるが、巨大な給水塔が見えていかにもマンハッタンらしい。関係者以外、ぶらりと入れないのが残念。
●Gary’s Lofts
住所:28 W 36th St., New York, NY 10018
流れる曲をNYと重ねると感動も倍増!
歌詞に地下鉄が出てくる、グレタがバーで歌う曲や、自分がいる場所と、好きな相手との関係を歌ったアルバム用の新曲など、そのすべてをNYの街をイメージしながら聴くと、さらに心にしみわたる!
Place03 ブロード・ストリート駅
NYで地下鉄に乗ると、大きな駅の構内ではミュージシャンが演奏している光景に出くわす。思わぬ才能を発見して、足を止める人も多い。映画の中でダンやグレタがライブ録音するのは、世界の金融の中心地、ウォール街にあるこの駅だ。通勤時間帯でなければ、意外に人は少ない穴場でもある。ただしNYでは公共の場で大音量を出すには許可証が必要なため、映画のように警官に追い払われてしまう。この駅は、冒頭で落ちこんだダンが地下鉄を出るシーンでも使われた。
●Broad Street Station
Place04 カフェ・ジタン
1993年、倉庫街だったソーホーのノリータ地区で創業。その後、周囲にはセレクトショップなどが次々とオープン。カフェ・ジタンもセレブに人気のスポットになったが、気軽に立ち寄れる雰囲気は開業時のまま。基本はアメリカンスタイルで、モロッコ料理も有名。タワーのように盛りつけたクスクスや、目にあざやかなアボカドトーストなどインスタ映えメニューが多い。2017年には東京の恵比寿にもオープン。ダンとグレタが屋外での録音を決めた、運命のカフェでもある。
●Cafe Gitane
住所:242 Mott St., New York, NY 10012
NYの名所が続々登場!
NYを舞台にした映画には欠かせないワシントンスクエアやセントラルパークがライブ録音の場所で象徴的に登場するほか、スプリッターのイヤフォンでダンとグレタが同じ音楽を聴きながら歩く、夜のタイムズスクエアなど、他の映画とはまったく違う印象の有名観光スポットも!
雑誌『Safari』9月号 P214・215掲載
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